母と歌えば2024⑧
今、小学校は春休み。私はオンラインで小学生の作文指導をしているが、そのお子さんのお母様から
「レッスンの時間を午前中にしてもらえませんか?」
と、ご連絡をいただいた。うーん、今日は午前11時に母のところへ行く約束だけど、どうしようかな?
母に時間を午後にしてもらえないか、と頼むと快諾してくれた。そんなわけで私は今日、お昼過ぎに母の家に行った。
いつものようにお昼ご飯を食べていると、不意に母のガラケーが鳴り出した。
「あ、キタバタケさんからだ。」
北畠さんは母の親友で、長く看護師として仕事をしてきた方だが、書家でもある。なんどか作品展に伺ったことがあるが、今年のお正月に行われた展覧会には行けなかった。母も私もひどい風邪をひいていて、なかなか治らなかったのだ。その後、北畠さんは都内の家から、出身地に戻る予定と伺っていた。
「もう、簡単には逢えないのかと思っていたのよ。」
しっかり者の母だが、補聴器をして電話の長い会話は心許ないらしく、途中で私に電話を替わるように言った。
「4月22日、上野の公園口ね。」
二人は約束をし、私も一緒に行くことになった。
「あなたがいる時に電話がかかってきてよかったわ。」
と、母が言った。そうね、怪我の功名、的な感じ?
「今日は、知床旅情を歌いたい。あなたの小学校の卒業式で父兄が歌ったでしょ?」
え?そんな記憶はないけど、というと、母は妹の時だったかもしれない、と言った。ハマナスは初夏の花だったと思うし、卒業式に歌う歌という感じはしないなぁ。
「でも、練習した覚えがあるのよー。」
そうなのー?
「私、好きなのよ、この歌。」
そうなんだー。
母と一緒に歌ってみる。やっぱり、小学校の卒業式に歌う曲じゃないよ、これ。飲んで騒いで〜なんて、不適切じゃない?歌としてはもちろん、いいけどー。昭和って、やっぱり緩かったのねー。
午後四時頃、また桜を探しに散歩に出た。先週に比べると、ずいぶんたくさん花が咲いている。
「でも、今年の桜はあんまり綺麗じゃないわ。」
そんなことないと思うけど。
「横浜はまだ、開花宣言出てないんだよ。」
でも、この辺は咲いてるけどね。
桜の枝に花と一緒に葉の出ているものが多い。
「葉っぱが出てるやつは山桜なのかな?」
だけど、この桜はソメイヨシノっぽい。
「今年は暖冬なのに、花が咲く直前に寒くなったから、おかしくなって花と葉っぱが一緒に出てきたのかも。」
そんなこと、あるのかな?
今日は、とても天気が不安定。朝は雨で、私が出かける頃には雨が上がっていたのに、バス停でバスを待っている間にまた降り出し、そして今、また頬にぽつり、ぽつり。私は大きめのビニール傘を開き、母に差し掛けた。
「折りたたみ傘、広げたくないからね。」
母が私に腕を絡ませてきた。珍しいこともあるものだ。母は昔から、スキンシップを嫌うタイプなのだ。
「もうちょっとー。」
「もうちょっとー。」
もうちょっとで、イトーヨーカ堂に着く。