見出し画像

どこにもいない/どこにもいる

どこにもいないけど、どこにもいるものなーんだ?

確かにそう聞こえた。

それは私の脳に直接語りかけてくるような声だった。

私は飲み会に参加していて、その飲み会の場に馴染めないでいた。

だからほとんど笑わずに、相槌も打たずに、ただひたすらちびちびとアルコールを摂取しているだけの、つまらない女であった。

その飲み会は、友達に誘われてやってきただけの、いわゆる数合わせである。

男女の出会いの場として、その飲み会は企画され、いくつかのキャンセルがあって、私にその席が回ってきた。

私は全く行く気がなかったけれど、知り合いがどうしてもと頼むので、仕方なくやってきたわけだ。

私はうまく人の頼みを断ることができない。

その飲み会の、居酒屋は料理はまあまあうまく。酒も豊富に揃っていたため、それはそれで楽しむことができた。

けれど、その交わされる会話や、展開される関係性の構築などは、全く興味がわかず、私は無愛想にその場に存在していた。

仲が良くなれば、すぐに外に出て行く。

そういうルールのもと、その飲み会は成り立っていたので、だんだん少なくなってきた人数の中で、私はいつ帰ればいいのか、と、そればかり考えていた。

すなわち、どこにもいないけれど、どこにもいるもの、私はその存在なのかもしれない。

などと考えながら斜め向かいの男性を見ると、石ころであった。
比喩でなく、石ころに顔があって、笑うでもなく、怒るでもない、ただ酒を飲んでいた。

ははん、さては数合わせの石ころなんだろうな、と私は思った。

そして、その石ころに注目し、しばらく観察してみた。
小学生が夏の自由研究で見つけた、いい形の石ころを愛でるように、私は彼を見ていた。

するとどうだろう、色がなかった飲み会が途端に鮮やかになった気がした。

それは、紛れもなく私にとって、いい石ころであった。

いいなと思ったら応援しよう!