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星の王子さまは存在するか?
目覚めると私は星の王子さまだった。
サン・テグジュペリの想像した小さな王子さまそのままの姿で、私は自宅のベッドに眠っていた。
目覚めてすぐに、水を飲む習慣があって、蛇口をひねると水が出てきて、咄嗟に私は「こんなところに水があるじゃないか」と言った。
私の意思はないものとして、ここは砂漠である前提の言葉だった。
実際は、水はもちろん、冷蔵庫にはビールや炭酸水が冷えているから、水を求めなくてもいいはずだが、水を見た瞬間に無条件で口が動いていた。
それを大切そうに飲んで、まだ飛行機を修理しているサン・テグジュペリの姿を探した。
いるはずもない彼が、存在して、ちょうど飛行機の最後のネジをしめたところだったから、私は驚いた。
ますます星の王子さまじゃないか。
けれども、飛行機は小さく、サン・テグジュペリも小さく、6畳の部屋に収まっていたから、まだ、夢の可能性は捨てきれない。
そこで私は、テレビをつけて見ることにした。
日常を感じる上で、テレビをつけるのは都合がいい。
テレビに表示されたのはビジネスマンだった。
彼は必死に計算をしている。
3たす4は7、5たす3は8、休むことなく計算し続けるビジネスマンがテレビに映っている。
だからははーん、これはやはり夢だな、と思った。
チャンネルを変えると、次に王様が映って、チャンネルを変えるでないぞ、といった。僕に語りかけている。
これは、いつ覚めるのだろう。もしかしたら、夢と現実が混ざっているのか、夢である、と意識して見る夢は何か居心地が悪い。
だから、確信が欲しかった。
夢であれば自由に、私は星の王子さまとして、星から星へと、あるいはチャンネルからチャンネルへ、移動し、そのチャンネルの主人公たちに聞き取るのだが。
そして、必死で飛行機を修理しているサン・テグジュペリに情緒不安さを醸し出しつつ、心配させて、魅了するのだ。