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風をはらむ

僕は目を閉じて両手を広げ
空を飛ぶように
ゆっくりと羽ばたく
着ている青いシャツが風をはらんでふくらむ
胸に熱い想いが湧き上がる

初めて僕が彼女に会ったのは
彼女が電車の中で分厚い古めかしい本をひろげて
ブツブツと呟いて食い入るように本を読んでいた時
僕と同じ高校の制服を着ていたけど初めて見るこだった
僕は真ん前に立っていたから
そんなに夢中で読むって
どんな本だろうと思って覗き込んだけど
逆さまの奇っ怪な図形と文字は全然解らなかった

2度目は僕が夕方の犬の散歩をしていると
商店街の真ん中を両手をバタバタとさせながら
彼女がスキップして駆け抜けて行った

3度目は図書館
課題の資料を集めに来た図書館で
背の低い君が一番上の棚から本を取ろうとしていた
僕はどれ?と声をかけた
急に声をかけられた君は目を見開いて
「左から2番目の そうそれです」と答えた
僕は彼女の可愛い声にドキッとしながら
「難しい本を読んでいるんだね 何の本なの?」と聞けば
「これダビンチのヘリコプターの本です」と言って見せてくれた
それからよく図書館で会ったので
彼女とおしゃべりする様になった
彼女は自分の力で飛んでみたいという夢があって
色々と調べたり毎日走っていた
会う度に彼女の夢の話しを聞いていたから
いつの間にか僕も夢が叶うことを願っていたんだ

夏休みのある日
街の高台にある展望台に呼ばれた
彼女が自力飛行をするという
僕は驚いたけどいよいよ彼女が夢を叶えるんだと
ワクワクしていた
上下緑色の女の子には言いにくいダサいジャージを着て
両腕には傘の生地を手首から腰にかけて翼の様に縫いつけた
彼女特製のフライトジャケットを着ている
僕は「いよいよなんだね頑張って」と彼女に伝えた
「うん! 行ってくる」と彼女は言って手を広げ走り出した
どんどん小さくなっていく彼女が勢いよく崖を蹴った
一瞬両腕を広げた翼に風を抱え彼女の体がふわりと浮かんで見えた
僕は「ああ 飛んだ」と呟いた

その後の事はよく覚えていない
彼女の人間飛行は成功したのか失敗したのか
どうやって家まで帰ったのかも不明だ
あれから電車にも図書館にも街中でも彼女を見る事は無かった
同じ高校と思っていたけど高校では会ったことも無かった事に気づく
唯一知っているのは彼女の笑顔と名前だけ

あれから1年
彼女を懐かしむ様に展望台を訪れた
彼女が飛んだあの場所に立って
僕は目を閉じて両手を広げ
空を飛ぶようにゆっくりと羽ばたく
風をはらんだ僕の青いシャツが膨らんで
体が浮かんだ時青いシャツの僕と青空が混じった
(1025文字)

(キャプション)
《 風をはらむ 》
「風」をテーマに書いた短編小説です
ちょっぴり不思議なお話です

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「画像お借りしました ありがとうございます」


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