ライン随想録 ごみ処理とリサイクル
ライン随想録 1996年2月13日 井浦幸雄 スイス・バーゼル
東京をはじめ世界中の多くの都市でゴミ処理が大きな問題となっている。
東京にいた時は世田谷区にある約200世帯居住の高層マンションに住んでいたため、専門のかかりの人にゴミの仕分けをしてもらっていた。
マンション指定のゴミ集積所に燃えるゴミ、燃えないゴミなど定められた箱にゴミを入れておけば処理してくれ極めて楽であった。
スイス・バーゼルに移り住んで、 世帯数約十の集合テラスハウスに居をかまえたが、ゴミ処理が想像以上に頭痛のたねになってきた。
こちらに来て当初は生ゴミ、燃えるゴミともにすべて無料収集であったが、三年ほど前から有料のバーゼル市指定のゴミ袋に入れないと集めてくれないことになった。
35リットル入るビニール袋で一枚約2フラン (約180円) である。
大した金額ではないが、 一年、二年とたってみると、 大きな違いとなってくるようだ。
地元の人もゴミ回収が無料であったときには、新聞紙などの分別回収を市が呼びかけても、なかなか協力をしなかったが、 有料化後には、新聞、段ボールの回収日にはこれが月一回無料収集となるため、 分別がすすむようになった。
このほか、鉄、金属類の無料回収日、落ち葉、庭木クズの無料回収日などにはこれまでになく、多くの分別ゴミが出されるようになった。
このほか、街角の一定の箇所に色別に仕分けをしたピンの無料回収場所が設置されている。 多くの人がこれに不要ビンを投げ入れていて、一杯になるとトラックがきてこれを回収するといった光景がみられる。
日本でも最近ではゴミ処理にたいする関心がたかまっていると聞いている。
例えばアメリカに比べても欧州大陸諸国、 とくにドイツ、スイスなどのいわゆるゲルマン系の国々で関心がたかいようである。
いろいろ細かに町の人の様子をみてみると、 発生源からゴミを出さないような工夫がなされているようである。
食料品などの買い物には、 自前の買い物袋を持参し、有料の紙袋は使わないなどということは、ほんの手始めで、 値段、好み、品質にさほど差がなければゴミがでないような包装のものを買い求めることが多いようである。
化粧品、洗剤、 ソフナー、 などでは詰め替え用のビニール袋入りのものがよく売れているようだ。
また、 野菜などではすでに包装されたものでなく、バラ売りのものがあれば、これをはかりにかけて代金ラベルを商品にじかにはりつけ、むきだしで買っているひとも多くいる。
この点で東京都のゴミ問題を研究しているひとと話し合ったことがあるが、日本とくに東京では個食の傾向がつよくこれが包装ゴミを多く出させることになっているときいて、いろいろかんがえさせられた。
もう一つ大切なことは、販売業者に不要包装ゴミの回収をたのむことである。
自分の車で持って帰れるような商品であれば、ダンボールや発泡スチロールのような包装資材は販売業者の元に置いて、剥き出しで家にもってかえることが望ましいようだ。
また、配送してもらった際には、 包装資材を持ち帰ってもらうよう依頼すべきだ。
商品購入の際にこれを条件にすることが良いとおもう。
スーパーマーケットや日曜大工センターでは不要包装資材の捨場を設けているところが多いようだ。
こうしてみると、ゴミ問題はわれわれの生活のしかたに多く係わっているような気がしてならない。
まず、出された食事は皿に残さずに食べるということが、大切なしつけとして、多くの家でまもられているようだ。
かなり良いレストランで皿に残ったソースを下が平らになった特製スプーンですくったり、またのこったソースをパンでぬぐって食べたりすることが正しいマナーとみられているようだ。
また、スイスのおおくのレストランでは残すことが少なくなるように、メインディッシュを二皿に分けて、お客にいかがですかと聞いた上で二番目の皿をだすということをしている。
また、日本の約百五十年前ほどの農村村落共同体が中心であったころの生活はいろいろ不便なこともあっただろうが、環境面ではリサイクルが徹底しており、ゴミ問題がおこらない生活であったにちがいない。
大家族でみなが食べ物、 着るものを分け合ったり、また犬猫、 家畜などに残り物を与えたりする生活も随所に見られたにちがいない。
米、野菜、味噌などは自分の家またはすぐ近くで作られたものをたべていたのだろう。
生産するところから消費するところまでの距離が長くなるにつれて包装が入念になり、包装ゴミが大量に発生するようになったことは容易に想像がつく。
大量生産、大量消費の便利さ、安さ、を享受する反面でゴミ問題、環境問題、 自治体の負担増大などをひきおこしたのだろう。
ゴミ処理にコストがかかることをひとりひとりに自覚してもらうために、ゴミ処理を有料化することはさけられないのではないかとおもうが、いかがであろうか。
もう一つの大切なことは、ゴミを出さないことだけでなく、 トイレットペーパーやコピー用紙などをはじめ、 努めてリサイクルしたものを使うこともたいせつであるらしい。
私としてはあまり利用したことはないが、 蚤の市などで掘り出し物をさがすことも意外と大事なことなのかもしれない。
むかし、お年寄りたちがうけとった小包の包装紙をていねいにほどいてこれをとっておき、いろいろな用途につかっていた。
当時は、なんと面倒なことをとおもっていた。
しかし、 近頃ではこうしたことは豊富にあふれるこんにちでも大切な生活態度だと思うようになった。
経済的にややゆとりが出始めた現在でも、物を大切にする気持ちはもちつづけたいとおもう。
たとえば、オフィスではコピーを大量に作らず、回覧やコンピュータ・スクリーンで読むようにするとか、受け取った封筒を返信用に使えないか考えるとか、いろいろ工夫の余地があるとおもう。
車、電気製品、家具、 持ち物なども新型のものに目をうばわれることなく、上手に修繕をして長くつかうことも大切と思う。
また、本や雑誌は出来るかぎり図書館などから借り受けることとし、購入したさいにはよみおわったら人に回覧ないし贈呈することが望ましいような気がする。
終わりに
この記事は2017年頃の「ライン随想録(井浦幸雄さん)」の復刻版です。
当時、私の故郷の「おふくろの味」を井浦さんがWebに載せて下さった。
この記事は今も住職の息子によって公開されている。
しかし、井浦さんの「ライン随想録」は今やどこにも見当たらない。
それで、当時お世話になったことを思い出し、復刻することにした。
また、インターネット上にあるライン随想録へのリンクも追加しました。
【ライン随想録】
ライン随想録 インターネットと私(その3)ブラウザー
ライン随想録 インターネットと私(その2)電子メール
ライン随想録 インターネットと私(その1)概況
ライン随想録 中世都市バーゼルの路面電車
ライン随想録 ごみ処理とリサイクル(本記事)
【世界の窓】
ライン随想録 テクノ・ストレスを克服するには
ライン随想録 ヨーロッパ小国の知恵に学ぶ
ライン随想録 スイス発・気球による初の世界一周
ライン随想録 老後の生き方について
ライン随想録 アメリカ人とヨーロッパ人
ライン随想録 ペルシャの市場にて
ライン随想録 「我々が恐れるべきものは恐れる心それ自身だ」
ライン随想録 帰国子女
ライン随想録 自然治癒力
ライン随想録 緑の国・ニッポン
ライン随想録 インターネットと私(その4)モービル通信環境など
ライン随想録 家事・ハウスキーピングの工夫
ライン随想録 ヨーロッパとミネラル・ウォーター
ライン随想録 ROM(Read Only Member) 対策
ライン随想録 インターネット・三種の神器
ライン随想録 Portable telephone
ライン随想録 SENSE OF HUMOUR(センス・オブ・ヒューモア)
【スイス・バーゼルレポート】
人事を尽くして天命を待つ
スイス・日本サイバーグループへ入会されませんか
金融・意識改革
つれづれわぶる人
修学院離宮と秋の京都・97
母親がいつも言っていたこと
清潔好きの国・スイス
やさしい欧州通貨・ユーロのはなし
地震・台風・・災害ニッポン(その2)
地震・台風・津波高潮・火山噴火の日本(1)
欧州結婚事情
賢い旅行情報の集め方
ヨーロッパのひまわり
歯の健康維持について
E2・航海記、その6――食事中の会話・日本人と中国人などなど。
QE2.航海記・その5――幻のグルメ・スコティッシュ・キッパー
QE2航海記・その4、クイーン・エリザベス号・カラオケ大会は大盛況
?観光立国・ニッポン
QE2航海記・その3、豪華船のあらましと船上セミナー
クイーン・エリザベス二世号航海記―その2(大西洋上およびスイスから)
内なる国際化
ヨーロッパの人たちの休暇の取り方