赤瀬川原平「宇宙の罐詰」を知って
つい最近、表題の芸術作品について知ったので、いろいろ個人的に思うことを書いていこうと思います。
もちろん私は芸術の専門家などではなく、一介の学生であることに留意して読んでください。
概要説明は少し長いので、「もう知ってるよ!」とか、「付き合ってらんねぇ!」という方たちは飛ばしてもらって、適宜戻って読み直すという形でも構いません。
●概要説明
まずは作品や制作者について知らない人たちに向けての概要を、Wikipediaなどから引っ張ったり咀嚼したりして簡単に話します。
▪︎赤瀬川原平ってだれ?
赤瀬川原平さんは神奈川県横浜市生まれの前衛美術家、随筆家、作家です。
1937年生まれで、父親の転勤で育ちは大分県でした。中学までは大分市の公立校を出て、高校時代のさなかに父の転勤で名古屋へ。
大分市の公立高校から、愛知県立旭丘高校美術科に転校して油絵を習いました。
大学は、原平さんが中学生の時に知り合った芸術家、吉村益信さんの勧めで武蔵野美術学校油絵科に進学したそうです。
その後1960年に吉村益信さんらと「ネオ・ダダイズム・オルガナイザーズ」を、1963年に高松次郎さん、中西夏之さんと共に「ハイレッド・センター」を結成しました。
この頃に個人で制作していた、いわゆる梱包芸術と呼ばれる作品の一つとして、今回取り上げる「宇宙の罐詰」が制作されました。
▪︎「宇宙の罐詰」ってどんな作品?
宇宙の罐詰(うちゅうのかんづめ)は、先ほども書いたように梱包芸術に分類される作品です。
これはその名の通り、何か物を包み、包む行為そのものや包んだ後のものを作品とする芸術です。
有名な芸術家ではクリスト&ジャンヌ=クロードが挙げられます。
彼らは夫婦で作品を制作し、さまざまなものを包んで作品としてきました。
赤瀬川原平さんはこの梱包芸術において、「蟹缶で宇宙を梱包する」ということを行い、作品としました。
これは発想の転換をうまく利用したもので、以下の手順によって行われました。
缶詰を買ってくる。
缶詰を開けて中身をいただく。
綺麗に洗い、ラベルを丁寧に剥がす。
剥がしたラベルに接着剤などをつけて、缶の内側に内向きに貼り付ける。
蓋を溶接して缶を閉める。
完成!
これによって生まれた缶詰は、いわゆる外側と内側が入れ替わった状態になります。
つまりこれは、かつて蟹の身が入っていた部分を外側に、私たちがいる部分(拡張すれば宇宙全体)を内側に置き換えたことを示す作品である、ということです。
●作品を知って
▪︎騙し絵みたい
私はこの作品を、「騙し絵みたいで面白い!」とまず思いました。
幼少期に安野光雅さんの「ふしぎなえ」という絵本を親に買ってもらい、以来その本をはじめとして騙し絵が大好きになったからだと思います。
そして今回の作品である缶詰には、行う操作の簡単さと、それによってもたらされる結果の大きさや衝撃によるギャップも同時にとてもうまく収められているように感じます。
▪︎トポロジー的に捉える
また私はこの缶詰から、球面の表と裏を入れ替えるにはどうすればいいか、という海外の動画も思い出しました。
全編英語で20分ほどあるので、紹介のため別サイトから拾ってきたGIF画像も掲載します。
この検討では球体の表面を伸ばしたり縮めたり、任意の方向から透過したりはできるが、穴を開けたり無理な変形をしたりはしてはならないという、トポロジー的な条件で球を裏返すことを行なっています。
私は数学に通じているわけではないので、トポロジー学についてはあまり詳しいとは言えません。
そのためここからの話などは独学による理論構築の結果です。
そのためこれらには数学的厳密性や知識などの不足を多分に含んでいることが考えられます。
トポロジー学的に考えると、今回の缶詰とGIF画像の球体は同相であると言えそうです。
(一般的な缶詰にはプルタブに指を通す穴がありますが、今回は缶詰そのもののみに着目して考えます。)
ということは、缶詰に対しても裏返す行為が行えます。
下はその簡単な説明です。
まず、缶詰の本体やラベルをすべてひっくるめて一つのものとみなします。
次に缶詰の蓋などにあるすべてのでこぼこをならし、側面と底面の境目をなめらかになるように修正します。
そのまま側面や底面を膨らませて球形にします。
上にあげた動画の通りに表裏を入れ替える変形を行います
最後に、元の缶詰に戻るように形を整えます。
これで完成です。
さて、トポロジー的変形を経て普通の缶詰と宇宙の罐詰が同相であることを説明しましたが、この時宇宙はいったい蟹缶の中と外のどちらにあると言えるでしょうか?
赤瀬川原平さんの作品では蟹缶の中に宇宙があり、普通の缶詰では蟹缶の外に宇宙がある。
しかしトポロジーという概念を用いると、どちらの缶詰も同じであるとみなせてしまうため、どっちを内側と呼んでも良さそうだし、どちらも間違っている気がする…
混乱してきましたが、ここから言えることは1つです。
それは、トポロジー的に考えると、表と裏や中と外といった、ものの隔たりによって生まれる相対的な概念が意味を成さなくなる、ということです。
もちろん、数学科などでトポロジーについて学んでいる方達にとってこれは、BasicのBの字かそれ以前の話かもしれませんが、それに気づいた時私は衝撃を受けました。
●終わりに
今回は赤瀬川原平さんの作品、「宇宙の罐詰」を通じて、トポロジーという学問の不思議さを軽くではありますが見てきました。
もともとトポロジーに興味を持ったのは別のきっかけで、紹介した動画も宇宙の罐詰もまったく別のところから知りました。
しかしこれらを統合することで最終的に、トポロジーのもつ1つの性質に至ることができました。
宇宙の罐詰は、他の要素を組み合わせればまた別の考えを生むことができる、とても拡張性の高い作品であるように感じます。
皆さんも、罐詰について思いを巡らせてみてはいかがでしょうか。
●画像などの引用元
▪︎ 赤瀬川原平『宇宙の罐詰』1964年/1994年、
▪︎クリストとジャンヌ=クロード
《Wrapped Trees(包まれた木立)》(1997-98)
Photo: Winfried Rothermel/AP/Shutterstock
▪︎ 安野光雅著 ふしぎなえ(表紙)
▪︎球を裏返すGIF画像
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