そもそも東映動画のもっと前身
1/19にアップしました「なつぞら」から切り取った、東映動画のお話し。おぼえてますか。
朝ドラが好きで話題にしたわけですが、それだけじゃありませんです。
1/6スタートの連載小説「満洲-お国を何百里-(南信州新聞)」はオムニバス小説で、いくつかのテーマを短編とした連作です。そのなかにある一篇が、この東映動画にゆくゆくつながる作品です。
書いている途中で気がついて、驚いたのですがね。
小説の内容は、まだ連載発表前ですから、ここでは控えさせていただきますが、会社名などはオープンにしても意外性はないので記します。
満洲映画協会
株式会社満洲映画協会法に基づき、満洲国首都新京(長春)特別市に設立された映画会社。一般的には満映の略称でピンとくる、国策企業。プロパガンダを発信した印象で、事実、そういうこともありますが、娯楽にも本気で向き合っていたことが作品資料から感じられました。
満映は「日満親善」「五族共和」「王道楽土」といった満洲国の理想を満洲人に教育することが主な目的であるとされた。プロパガンダの前提。二代目理事長を務めた甘粕正彦は、現場と実務を弁え、日本人とその他の国籍の賃金格差さえ埋めようと尽力したことが記録に伺える。
現場は、当時の日本屈指の映画人と囁かれた根岸寛一。内地での活動写真に絶望していたやる気のある活動屋が根岸を慕って満洲にやってきたとされる。プロデューサーとして腕を振るったのが牧野満男、のちのマキノ光雄である。
昭和20年8月15日。日本の無条件降伏により満洲国も崩壊必至となる。徹底抗戦や玉砕を叫ぶ社員もなかにはいたが、理事長である甘粕正彦はそれらの一時の感情を押し留め、降伏という選択肢を逍遥と受け容れ徹底させた。そして南満洲鉄道の車両を確保し、日本人社員とその家族を朝鮮経由で日本に帰国させるよう社命を発したのである。また満映の全預金を引き出して、日本人職員とシナ人職員には円満な形で退職金を支払ったとされる。ここ、ブラック企業の多い今日では想像もつかない国難の渦中でやってのけたのだから、一面的な評価だけで甘粕正彦を断じられないと感じております。
更に機材について。
今後の満洲映画はシナ人社員により活用すべきだと、高価で精密な映画機材は破壊することなく現状保管を甘粕は命じた。
「これからは皆さんがこの会社の代表となって働かなければなりません。しっかり頑張ってください。いろいろお世話になりました。これからこの撮影所が中国共産党のものになるにしろ国民党のものになるにしろ、ここで働いていた中国人が中心になるべきであり、そのためにも機材をしっかり確保することが必要です」と、シナ人従業員に諭したとされる。
これが、現在の長春電影制片廠(接収直後は東北電影公司)である。
8月20日、関係者の目を盗んで甘粕正彦は青酸カリによる服毒を遂げ絶命した。
満映で若い人を牽引してきた根岸寛一は、東横映画に旧満洲活動屋の受け入れ先を確保。この東横映画がのちの東映となる。東横映画は巡回上映を前提としたもので、後に16ミリ教育映画の制作・配給・上映へと活動の場を広げていく。その中にはアニメーション映画の原型もあった。このことが東映動画に発展していく。旧満映の制作体制が、東横映画および東映を通し東映動画へ移転されていく過程は意識されたことではない。
日本初の長編カラーアニメーション映画「白蛇伝」。
スタッフには満映ゆかりの人物が含まれている。上記のスタッフや声優に注目して欲しい。
赤川孝一:満映で甘粕の側近、看取りの場にいた。作家・赤川次郎の父。
森繫久彌:当時はNHKアナウンサーから新京中央放送局に赴任。
特に森繁久彌は有名な俳優として大成するから、知らぬ人はいないと思われる。甘粕正彦と親交のあった森繁久彌は、決して悪しき評を述べてはいない。
「満洲という新しい国に、我々若い者と一緒に情熱を傾け、一緒に夢を見てくれた。ビルを建てようの、金を儲けようのというケチな夢じゃない。一つの国を立派に育て上げようという、大きな夢に酔った人だった」
声優としては、宮崎駿監督作品「もののけ姫」でオッコトヌシを演じたから、ああ、あの方かとお分かりになると思う。
その宮崎をアニメの道へ進ませたのも、この白蛇伝です。
朝ドラ「なつぞら」では実在の作品や人物名を敢えて避けているので、「白蛇伝」についても類似の架空作品で表現している。
夢酔の作品上で満映を題材とした物語を描くのは、なるべく後半にと設定している。ストーリー上、実在の人物を多数登場させるため、ラストの見せ場にと考えている。
基本、夢酔作品常套テクである、実在とフィクションの掛け合いが物語の柱である。どこが嘘でどこが史実か、考えてもらうと楽しい。勿論、オールフィクションもある。
こういうルーツまで思いを馳せれば、朝ドラ「なつぞら」は、より楽しめるのではないか。広瀬すずだけを観て満足してちゃ、駄目だぞ。