東京都写真美術館
「にっぽんの里山」という展覧会があるのを知り、夫と二人で出かけた。
写真に特に興味があるわけではなかったが、以前にも里山の風景を写した
写真を「美しい!!」と感動してみた経験が、「行ってみよう」と心を
動かしたのだ。
そんな訳で、今森光雄という作家の名前も初めて知った名前だ。
独学で写真を学び、フリーランスで活躍する写真家で、日本はもちろん
熱帯雨林や砂漠など世界各地で撮影を続け、最近では里山環境プロデューサーとしても活動しているという。
写真は撮影禁止だったので、ここに載せることはできないが、春夏秋冬に
分けて展示されていた。
私にとってはなんといっても、会場の初めに展示されていた春のコーナーが印象的で魅了された。
様々な緑の色、満開の桜の向こうに見える山々、草に潜む小さな虫たち、
たくさんの棚田の風景・・・棚田で黙々と働く農夫の姿
まるで会場に涼風が吹き、緑の草いきれに満たされているかのような気持ちになった。
里山という言葉はよく使われるが、「人間が伝統的な習慣や生活をある程度維持しながら、自然と共存している姿」を言うと今森は言っているそうだ。
ウキペディアで調べると、「集落、人里に隣接した結果、人間の影響を受けた生態系が存在する山」とあり、対義語は「深山」とあった。
私達が里山の風景に、なんとなく懐かしく郷愁を感じるのは、そこに
人の営みの痕跡が残され、頭の片隅にいつか見た風景として片鱗が残されているからではないか。日本人の美意識と重なる部分もあるかもしれない。
北海道から沖縄に至るまでを網羅した200点近くに及ぶ作品を鑑賞し、
満足して美術館を後にした。
ゆっくりと午後家を出てきたのには理由がある。
美術館の場所が恵比寿と聞いた夫は、「ううん・・恵比寿・・ビール!」
と瞬間的に連想したようだ。
「じゃあ〜、帰りは恵比寿ビールの飲み比べだな」と。
美術館をあとにすれば、足は自然と明るく照明の輝く場所へ。
何しろ海辺に暮らすジジ、ババカップルのこと、なんとなく場違いの場所に入ったような疎外感は拭えず、オズオズと案内された席につく。
周りを見回せば、おそらくは3.40代のサラリーマンやOLで、4時過ぎのこんな時間でも繁盛するのだと、なんでも興味深い。
ここで食事ができる訳ではないので、おつまみ系のものを何種類かと
「飲み比べ」として提示されたうちから2種類を選んでオーダー。
ちょっと、人間観察。
カウンターで一人グラスを傾ける女性を見て
夫 「今時は女性一人でもこんな場所で、飲んでから帰るのだね!」
隣の座席でサラリーマン風のグループ4人組は、私たちが席に着いた時にはすでにおつまみも、グラスも空いていたが、楽しそうな笑い声とおしゃべりがはずんでいる。
おばさん同士でレストランに行く時は、なるべく長居しても気にしなくて
良い場所を選んだりするが、男性同士でもビールとおつまみだけで長居する男性もいるのだと妙なことに感心!
昔の純喫茶みたいな感覚かしら??
そそくさと入ってきて、店員に「ビール、1ぱいだけ!1ぱいだけ!」と
強調して、テラス席に座り、同時にパソコンを開けてパタパタと・・。
これからお客さんのところに行くのかしら・・などとこの男性の今日の物語を想像してしまう。
待ち合わせらしい人、「暑い中、ご苦労様」と声を掛けたくなるように、
とりあえず1杯で喉を潤そうとするサラリーマン風の人など、人それぞれの
人間模様が想像されて、作家だったら短編が一つ書けそうと思ってしまう。
恵比寿という土地柄か、なんとなく洗練された人が多いと感じたり、
世間が目まぐるしく動いているのを実感する雰囲気は、
普段は世の中の動きから隔絶されたような毎日を送る老人にとっては
写真展を見た感動のみならず、とても刺激的で、
心揺さぶられる1日だった。