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【長編小説】タイムスリップ・経営危機
株式会社ドリーム家具が、経営危機のステージに陥ったのは2000年代あたりからのインターネットの普及による。
サトルは、大学を卒業して、大手家具メーカーに就職した。入ってから製造ラインの一員となる。
製造現場で行う1年目に与えられる仕事は下請けだ。
家具製造メーカーでの最初の仕事は、製造プロセス全体を理解し、製品の制作方法や工程を学ぶことだ。
一年目は、生産ラインでの作業や機械操作など、実際の製造活動に参加し、同僚や上司のサポートを行う、いわゆる下請けだ。
製造過程での製品の品質を確認し、品質管理のプロセスに参加して、製品が仕様に合致していることを確保する。
一年目から現場での経験を通じて、製造プロセスや作業の効率を向上させるための提案を行い、チームの生産性向上に貢献することができる社員だ。
上から目線の先輩にマウントをとられる。
「おい!ユミヨシ、先輩の言うことは素直に聞けよ。俺の背中を見て学ぶんだぞ。」
「うっす。」まさに、体育会系。
仕事終わりには、「飲みに行くぞ~。」の号令には絶対服従だ。
サトルは、この飲み会がいやでいやで仕方がなかった。ストレスの塊でしかない。
そんな中、彼女、ソラから電話があった。
「今週末の休みなんだけど、どうする?」
「瀬戸内の海を見に行こうよ。展望台でとても眺めがいい場所があるからドライブいこうよ。ストレスなんか風と共に去りぬよ。」
ソラとは、高校生の時に付き合ってから、それからずっと付き合っている。未来は変わったのだ。パラレルワールド。未来は選択する意思によって、変えることができるのだ。BLUE BIRDの青年の指示通りに、選択を変えたのだ。
次の日の土曜日。
予定通り、マツダの車を走らせ、迎えにショッピングセンターの近くのコンビニの駐車場に向かった。
橋をいくつか渡り、約一時間走らせた。展望台の駐車場で海を眺めると、工場の煙突からもくもくと排気ガスがでている。巨人が白いタバコを吐き出すようだ。工場は幾何学的なデザインで組まれた錆びた鉄の鎧で包んだ産業の巨人のような都市だ。
彼は、もうすぐ閉鎖されることを知っているように穏やかに見える。重厚長大な時代は幕を閉じ、グローバル化とインフォメーションテクノロジーの渦に飲み込まれていく。
ソラが助手席から聞いてくる。
「お父さんの会社の経営が良くないんだって、赤字が続いていて、若い世代はイケヤとかにいっちゃうし、お得意の顧客も人生で何度も家具は買わないから、宣伝しないといけないんだって。」
「そうなんだ。何か良い手はあるかな。」
「今からはインターネットの時代だから、ホームページを作成してネット広告やSNSを有効に使ってみたらどうかな。」
現代でこそ、動画やインスタグラムなど当たり前の時代だが、ソラのお父さんの経営は、結納という嫁入り道具を購入した顧客の家族構成をデータベース化し、毎年DMと高級感のある家具をチラシに入れて新聞折り込みをする。その繰り返しは、安売りセールしか訴求できなくなる、これが負のスパイラルだ。
とはいえ、地元で代々続くドリーム家具は家具屋業界では地域一番店だ。
ソラの父から、「社会の波に揉まれてから、うちの会社にはいってくれ。ただ、うちの会社を継ぐつもりならその力を発揮してくれないと上がれないぞ。経営士の資格も若いうちにとっときなさい。
君の将来、強い武器になるから。」
サトルは、経営士になる知識はあった。あとは努力と時間だ。
「ドリーム家具には、技術のある職人も沢山いる。あとは、優良な顧客の囲い込み戦略と新規開拓だ。」
サトルには、経営プランがあった。
「夢あるところに道ありだ。あとは行動計画と社員を引っ張る力だ。」
まずは、現状分析をしよう。
外部環境と内部資源の整理をして、戦略(マイルストーン)を考える。
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