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【塾講師バイト】先生役に尻込みしていないか?〜「分かりやすく教える」チェックリスト①〜


 私は11月いっぱいで、2年半勤務した個別指導塾のアルバイトを辞めた。大学院生である私の将来の目標は、大学か高専の教員になることである。たとえバイトと言えども色々な現場で教育の経験を積みたいと考え、新しい塾へ移ることを決めた。

 前の勤務先では、小学生の英算国、中学生の英数国理社、高校生の英、数Ⅰの指導を経験した。また通常の授業形態は個別指導であるが、テスト対策用講習等において、集団授業や自立型指導、合宿の引率も経験した。そして、リーダー講師として新人講師への研修も行った。

 今回の退職を1つの区切りとして、藤沢晃治『「分かりやすい教え方」の技術』(講談社、2008)のp.182〜189に掲載されているチェックリストに基づき、自身の教え方・指導法を振り返ることとする。

 特に本記事では「先生役に尻込みしていないか?」という項目について振り返りを行う。
 当該チェックリストは、「はい」か「いいえ」の2択で回答するようになっている。

①自分は人間的に未熟なので、教師に不向きだと思っていますか?

理想: いいえ
私: いいえ


どんな性格でも、それだけで「先生にふさわしい性格」というわけではありません。裏返して言えば、どんな性格でも先生役はこなせるのです。

藤沢『「分かりやすい教え方」の技術』p.58

 私もまだ学生の身分であるから、性格においても、人生経験においても、人間的に未熟である。
 自身が未熟であることが問題なのではない。未熟であるために、教えることに尻込みするマインドが問題なのである。

 保護者も生徒本人も、講師陣がまだ学生であることを承知のうえで入塾しているはずである。よって私は、教えるにあたって、学生であるが故の人間的な未熟さを気にしたことはない。
 むしろ、生徒と価値観が近いことが学生バイト講師の強みだと思っている。

②「先生」とは生徒より「目上の人」だと考えていますか?

理想: いいえ
私: いいえ

 少なくとも学生のバイト講師は、「先生らしくしないと」と気負う必要はないと考えている。別に偉そうにしたつもりはなくとも、「先生らしく」振る舞った結果、生徒の目には高圧的に写る可能性がある。

 また、塾という「商売」である以上、生徒はお客でもある。だからと言って、講師が生徒におべっかを使うことは適切でない。万が一、生徒が講師に対して不遜な言葉遣いや態度等をすることがあれば、教育的措置として叱るべきであろう。

 このチェック項目の目的は、講師自身の思い上がり、あるいは過剰な卑下を防ぐことだと解釈している。

③「教える」ことは「学ぶ」ことでもあると気づいていますか?

理想: はい
私: はい

 まさに私は、将来教員になるため、「教え方」を学ぶために塾のバイトをしている。

 また、塾で英語を教え始めてからTOEICの点数が300点近く上がった。

④生徒が期待通りに進歩しないとイライラしますか?

理想: いいえ
私: いいえ

 バイトを始めたばかりの頃は「俺がこの子達の点数を上げてやるぜ」と意気込んでいた。
 しかし、しばらく経ってから過去の点数を確認し、そのあまりの酷さに驚愕した記憶がある。

 正直言って個別指導塾には、いわゆる「境界知能」であろう生徒が沢山通っている。いくら勉強しても中々成果として現れない子もいる。生まれつきの頭の良さというのも点数には関係する。
 そこで私は、「21点の子を29点に」「30点の子を39点に」することを差し当たっての目標にして指導にあたることにした。

 これは決して、生徒に失望しているということではない。その生徒に見合った学習内容や教材、指導法を選ぶことが重要ということだ。

 しかし2年半勤めて振り返ってみると、かなりの生徒が飛躍的に点数アップした。中1の2学期に5教科計250点くらいで入塾してきた生徒が、中2の2学期には420点まで伸びた例もある。
 その子は400点に到達するまでに1年掛かったわけだが、途中全く点数が伸びない時期もあった。中々点数が伸びないと、生徒は不安になるものである。しかし、ここで講師も焦ってはいけない。決して背伸びすることなく、その子に合ったレベルの問題を集中的に指導する。少しでも成果が出ればその都度褒めることで、本人のモチベーションを保たせる。その積み重ねで念願の400点超えを達成したのである。
 また、その成長は生徒本人の努力の賜物であって、私の貢献はほんの僅かであることは自覚しておかねばならない。週2時間程度の授業で、生徒の点数を左右することは難しい。我々の役割というのはあくまでも、生徒達の勉強について指南するのみであろう。

 他にも、数学で0点を取ってしまった生徒が、入塾してから30点まで点数が上がり、親子でハイタッチして泣きながら喜んだという、講師冥利に尽きる報告を貰うこともできた。

 成長するスピードも生徒それぞれであるし、また目標とする点数も、皆バラバラである。
 ほんの僅かな進歩であろうが、講師目線からすると依然低い点数であろうが、生徒本人が成果が出たことを喜んでいるのであれば、それを一緒に喜んで褒めてあげることが、学生バイト講師の仕事ではないだろうか。

 自慢ではないが、私は神戸大学の大学院まで進んでいる。ある程度の競争を乗り越えて、ここまで来た自負がある。はっきり言って私が中学生のときは、クラス1位を取ろうが、得意科目で100点を取ろうが自分で満足することはなかった。母親も「得意科目で100点を取れた」ことよりも「苦手科目で80点台しか取れなかった」ことに目が行くタイプであった。(決して、全く褒めてくれなかったわけではない。比較して、説教されることの方が多かったということ)
 それでも、当時は気が付かなかったが塾の先生や友達など、素直に「凄いね」と褒めてくれる人がいたから割と平穏な精神でやってこられたのだと思う。

 つまり、褒めてくれる人も、改善点を指摘してくれる人も、どちらも必要なのである。
 学生バイト講師は、生徒にとって「褒めてくれる人」であるべきではないか。

 担当生徒で、社会が大の苦手でいつも20点程度しか取れなかった子がいた。もともと英数だけ受講していたが、社会も加えて受講することとなった。その甲斐あって、受講開始後初めてのテストで平均点の60点をとることができた。その生徒は嬉しそうに私に報告してくれて、一緒に喜んだ。
 しかし帰宅後、母親に「60点なんかで喜ばずに、暗記科目は80点は取りなさい」と説教されたらしく、かなり落ち込んだようである。
 当然、その子の母親の言っていることも正しい。私の母親もどちらかと言えばそんなタイプだったし、むしろ世のほとんどの母親がこんな感じなのではないだろうか。

 塾講師と一口に言っても、正社員の講師であれば、時には辛辣な言葉も掛ける必要があるだろう。しかし、我々学生バイトは「友達以上先生未満」のような立ち位置で、常に生徒の味方でいた方が良いと思っている。(謂れのないクレームや言い掛かりを防ぐための、リスク管理でもある)

⑤苦手な生徒でも長所を三つ挙げることができますか?

理想: はい
私: はい

 私の勤務先は「褒める」ことを大事にしていた。
 そもそも、素直で良い子たちばかりだったから、苦手な生徒は1人もいなかった。

⑥生徒との最初の接触で、緊張をほぐす努力をしていますか?

理想: はい
私: はい

 最初の5分くらいは、なるべく雑談をするようにしていた。ここでいう「雑談」とは、自分のエピソードトークを披露するという意味ではない。生徒自身の話しをすることだ。厳密に言えば、「話しをする」というよりも、「生徒自身の話しをしてもらうように、質問する」という方が適切かもしれない。
 学校や部活のことでも良いし、他の習い事のことでも、使っている筆記用具のことでも良い。とにかく、相手の警戒心を解くことが重要である。
 特に、男性講師は第一印象で怖がられる可能性があるので、このステップはかなり重要だと思っている。

 小3の女子を担当したときに、このことを強く実感した。以前から冒頭の雑談は意識していたが、私の担当生徒は、小学校高学年や中高生が多かった。その小3女子は、教室である程度の期間顔を合わせているものの、私が個別に担当するのは初めてだった。(夏期講習の時期で、普段の担当生徒以外の生徒も指導する機会がある)
 小学校低学年の扱いが不慣れだったこともあるが、「小3に雑談を仕掛けても、相手が自分の問いかけを理解してくれるか分からないし、向こうからの返答もどうせ支離滅裂だろうから面倒だな」と思い、冒頭の雑談を省略していきなり授業内容に入った。
 すると、こちらがテキストの内容を説明しても明らかに聞く耳を持っていない。ならばと思って問題を解くよう指示しても、全く取り掛かる気配がない。挙げ句の果てに「トイレに行く」と言って離席してしまった。
 程なくして戻ってきたので、本当にトイレに行きたかったのかもしれないが、おそらく空気に耐えられなかったのだと思う。そこで、その子の習い事について色々訊ねてみた。すると、嬉しそうに色々話してくれて、そこから打ち解け、結果的に目標よりも先のページまで進むことができた。  
 やはり、雑談は必須だと感じた。雑談する時間があるなら、1分でも早く授業に入った方が学力が付くのではないかと直感的には思われるかもしれない。しかし、特に個別指導の場合は講師との相性はかなり重要である。「何を」言うのか、ということよりも、「誰が」言うのか、ということの方が大事だったりする。適度な雑談は、生徒の意欲を掻き立て、結果的に点数アップに繋がるのである。

 生徒の警戒心を解くという意味では、第一印象がかなり大事だと思っている。第一印象とは、ほぼ見た目の印象と言っても差し支えない。
 特に男性講師が女子生徒を担当する場合には、不快感を持たれないような外見にしておく必要がある。思春期の女子は残酷なもので、結構表立って男性講師への好き嫌いを態度に出す。
 そして、その「好き嫌い」を決める大きな要因が「外見」であろう。所謂「生理的に無理」というのも、外見に拠るところが大きいのではないか。
 私自身、自分の容姿に全く自信はないが、髪型、服装、眉毛、体毛その他、ある程度気を遣っているつもりである。その甲斐あってか、女子生徒からも「担当チェンジ」を受けたことはない。むしろ、バレンタインにプレゼントをくれたり、髪型や服装を変えたときに褒めてくれたり、私の最終出勤日に泣いてくれた子もいたりと、女子生徒にもある程度支持されていたと思う。
 有り難いことに、私のことを「塾のモチベ」だと言ってくれる子もいたのだが、こちらとしても、懐いてくれることが単純に嬉しいだけでなく、それ以上に、授業がかなり楽になるという利点がある。端的に言うと、こちらの言う事を素直に聴いてくれるのだ。
 気の毒なことに、女子生徒とのコミュケーションに苦戦している男性講師も多くいた。一応リーダー講師だった自分は、女子生徒への接し方について彼らに助言させてもらったことも何度かある。しかし、嫌われる原因は正直言って見た目だと思う。だが、中々その事を本人には指摘できない。でも、はっきり言って見た目は大事である。別にイケメンである必要はないが、「気を遣ってる」感が大事なのである。


 私だって中学生のとき、可愛い女子大生の先生に教えてもらう方が嬉しかったし、それだけで塾が嫌じゃなくなるものである。

⑦教えるテーマにあなた自身が情熱を持ち続けていますか?

理想: はい
私: はい   

 最低限、その日の授業のテキストは予習して臨んでいた。
 また、自分の頃とは教科書の内容も少し変わっていたりして、そのことも楽しみながら指導していた。


 一応、全ての項目が満たされているように思う。しかし、2年半働く中で意識するようになったものも多くあり、バイトを始める前、あるいは始めたての時期にチェックしたら違う結果になっていたと思う。
 はっきり言って、今の自分は「井の中の蛙」である。勤務先のバイト講師の中では最も歴が長いし、今の正社員の教室長も自身より後に転職してきた。また、ぶっちゃけ個別指導塾は、講師自身の学歴も千差万別である。したがって、勤務先では現状、私に対してアドバイス・意見してくれるような人がいなかった。
 これでは自分自身が成長しないと思って、別の塾に移ることを決めたのである。よって、本記事に記載したような自分の見解が何処にでも通じるとは思っていない。あくまでも思考の軸としつつ、新しい環境で、その現場・生徒に合った指導法を模索したい。

 この本のチェックリストには、まだまだ続きがあるので、今後何回かに分けて記事にしたいと思っている。

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