
【塾講師バイト】「生徒の満足」を最終目標にしているか?〜「分かりやすく教える」チェックリスト②〜
はじめに
大学院生である私は、個別指導塾で約2年半アルバイトをしている。
将来は高専か大学の教員になることを目指しており、知見を広げるためにバイト先を変えてから間もなく3ヶ月が経つ。
新しい勤務先に慣れてきたこのタイミングで、自身の指導法の振り返りを行う。
前の塾を辞めた直後に、藤沢晃治「『分かりやすい教え方』の技術」(講談社、2008)の「チェックリスト」に基づき、「先生役に尻込みしていないか?」という項目について振り返りを行っている。
今回はその第2弾として、「『生徒の満足』を最終目標にしているか」という項目について振り返りを行う。
前の勤務先は1対3の個別指導塾であり、小学生の国算英、中学生の5教科、高校生の数Iを担当した。また、季節講習や合宿などの特別講座において自立型指導や集団指導も経験した。加えてリーダー講師を務めていた。
現在の勤務先は1対2の個別指導塾で、中学生の英数と小学生の算数を担当することが多い。
なお生徒の成績帯については、前の勤務先の多くは学校の授業についていく事が難しいレベルであった。不登校の生徒も数人いて、塾のコンセプト自体が「生徒の居場所づくり」も重視していた。もちろん、400点を超えるような中・上位層の生徒も在籍している。

現在の勤務先は、勉強に苦手意識を持っている生徒はそこまで多くない。平均点は超えるものの上位には食い込めずにいる300点台の生徒が多い印象。なお、塾のコンセプトは「成績アップにこだわる」としている。

以上のような両塾の違いを踏まえて振り返りを行う。
①じつは給料さえもらえればよいと考えていますか?
理想: いいえ
私: いいえ
先述のとおり私は教員志望の身である。塾でのアルバイトも「教え方」や生徒への接し方を学ぶ場と位置づけている。
もちろん、バイトである以上は給料が最重要である。今の勤務先も、前の所より時給が高いから選んだこともまた事実である。
私は塾以外のバイトも経験しているから、「時給に見合った働きをすれば良い」という考えが根本にある。一見、やる気のない消極的な姿勢に思われるかもしれないが、言い換えれば、「時給に見合った働きをしなければいけない」ということである。

はっきり言って個別指導塾には、そもそも自身の学力が疑わしいバイト講師が大勢いる。お世辞にも「良い大学」とは言えない大学に通っている講師や、平気で間違った内容を教えている講師も散見される。
Fラン大生であることを承知のうえで採用されているのだから、講師の学力が低いこと自体が絶対悪だとは思わない。むしろ、自分も勉強が苦手であることを活かした指導もできるだろうし、そもそも正社員や、更に言えば小中学校の教員にも世間一般的な「高学歴」は少ないだろう。
しかし、自分の学力不足を特に改善するつもりがないことは問題である。お金を貰っている以上、授業内容は最低限確認してから臨むべきだと思う。
「自分も勉強が苦手であることを活かした指導もできるだろう」と上で述べたが、未だに自分が「苦手なまま」なのであれば何も指導することはできない。
そもそもバイト講師の大義は、自分の経験を踏まえ、成績や点数に結びつく勉強方法を生徒に指南することだと考えている。単に知識を授けたり、内容を詳しく説明しようとしても、本職である学校の教員には勝てない。我々バイト講師は、その内容をどうやって覚えるのか、テスト勉強をどのように進めるのか、といった「勉強の仕方」を教えることに重点を置いた方が良いと考えている。特に個別指導の場合は、その部分の比重を大きくするべきであろう。
そもそもこの事が、巷の個別指導塾の多くが学生バイトに授業を任せ、採用時の筆記試験もそこまで難しくない理由であろう。
しかし、ろくに勉強をしたこともないFラン大学生が何を教えられるのだろうか。恥ずかしげもなく「分からんから次の先生に教えてもらって〜」と口にするような講師に限って、自分の一人称を「先生」と一丁前に呼んでいる。

ただ「先生ごっこ」を楽しんでいるのか、はたまた開き直って「反面教師」に徹しているのか解らないが、給料を貰う以上は最低限の準備をしておくことが常識ではないだろうか。
②カリキュラムを消化すれば自分の職責を果たしたと思っていますか?
理想: いいえ
私: いいえ
前の勤務先は、「試験までにテキスト3周」という大まかな目安はあるものの、その日進める内容は完全に講師の裁量で決めていた。
今の勤務先は、その日進める内容を事前に教室長が決めており、講師は基本的にそれに従いながら進める。しかし、解かせる問題の順番や種類などの細かい部分については、講師であるこちらが判断して進めている。
いずれの塾においても、ある程度講師の裁量に任されている。
扱う単元・問題の選別や、解かせる順番を判断する際には、その塾および生徒の「目標」を考慮している。
今の勤務先は上述のとおり「成績アップにこだわる」ことをコンセプトとしている。したがって、多少生徒にとっては労苦であろうとも、本人が苦手な単元や問題に絞って指導したり、宿題も敢えて多く課すようにしている。
前の勤務先も当然、成績アップが1番の目標ではあるものの、生徒にとって「家や学校以外の居場所」となることも目指している。
そのため、前の勤務先には、不登校傾向にあったり、勉強に対する極度の苦手意識により自分に自信を持てずにいるような生徒も多くいた。
そのような生徒に対しては、まずは勉強への苦手意識を減らすべく、敢えて簡単な問題を解かせたり、宿題も少し頑張れば難なくこなせる量を出すなどしていた。
生徒への接し方についても、その生徒が「何を目標にしているのか」によって変えなければならない。
今の勤務先では、ノートの書き方や英語の長文の読み方など、点数に関係する改善点については、都度指摘させてもらっている。
前の勤務先でも基本的には同様であるが、勉強が極端に苦手な生徒に対しては、あまり細かいことは言わず、できたことを褒めることを重視していた。また勉強に関係のない雑談も取り入れ、とにかく「勉強」「塾」「先生」への抵抗感を取り除くことに意識を向けた。
どんな子や親であろうが、最終的な目標は成績を上げて、なるべく良い学校へ進学することである。このことは、たとえ不登校気味の子であっても変わらない。その第一歩として、学校は無理でも「塾には来れる」状態を作らねばならない。まずは「塾の先生と喋りたい」という理由でもいい。講師側の手段として、敢えて勉強の敷居を下げ「楽しませる」ことに重点を置くことも必要な場合がある。
塾バイトを始めた時の研修で、「『この先生の為なら頑張れる』と言われるような講師を目指してください。」と言われた。その時の私は「そもそも勉強は先生の為にするものでもないし、たかがバイト講師がそんな存在になれるわけがない。」と思っていた。
しかし、お気に入りの講師を、塾のモチベーションにする生徒は案外多い。

特に最近の女子中学生は、何でもかんでも「推し」を作る習性があるようだ。「推し」の前では頑張って勉強をして良い所を見せようとする。いわば勉強が「推し活」になるのである。動機は何であれ、塾で勉強することを頑張るようになれば、結果的に点数も上がる。
特に学生講師はイケメンでなくても「推し」にしてもらえるので、適度なコミュニケーションは、成績アップのための重要な職務である。
かなり話しが逸れたが、「点数アップ」という目標は全員に共通しているものの、その手段としての教え方や接し方などは、生徒に応じて変えなければならない。

また、前のバイト先の指導形態は個別指導だが、理社の定期テスト対策として、最大20人に向けてホワイトボードを使い集団授業を行う機会があった。中3対象のこの講座は土日に行われ、普段の教室とは違う大きな研修センターが会場だった。また、授業の座組は普段の顔馴染みの講師と生徒で組まれるが、他ブースでは多校舎の塾生が同時進行で授業を受けている。いわば、塾全体のイベント的な性格を含んだ講座であった。

授業の進め方については事前に研修があった。そこで指示された進め方は、「プリントの穴埋めの答えを、講師が説明しながらホワイトボードに書き、生徒がそれを写す」という作業をひたすら6時間進めるというものだった。
合計6日の講座でバイト講師は基本的に毎回違うメンバーが参加していたが、私は運良く全回参加させてもらった。
初回の授業では、指示されたとおりに穴埋めをひたすら進めた。生徒達は頑張ってくれたが、6時間もこの形式で進めるのは退屈だろうなと感じ、次の回からは形式を変えた。
2回目以降はクイズやレクリエーションを取り入れ、「土日の楽しいイベント授業」の印象を持ってもらうことを目指した。「テスト対策」とはいっても実際の試験日まで1ヶ月以上あった。私の土日授業に対して、「退屈」「憂鬱」などというマイナスイメージを早々に持たれては困る。
また、こちら側の説明は必要最小限にし、自分でプリントを解いてもらう形式に変えた。各自の進捗を確認し、各人の理解不足な箇所を個別に説明する。学校の授業を理解できない子に対して、たかが学生が「学校の授業の真似事」を披露しても無意味である。内容自体は学校で既に習った範囲の復習であり、そもそも解答解説を配布しているので、こちらが労力を割いて全て板書する必要はない。無駄な仕事を省き、講師が楽しんで授業をすれば、生徒も明るい雰囲気で取り組んでくれるものである。
そして、同じ勉強内容でもクイズ形式にすればかなり楽しんでくれる。

基本的にはプリントの問題演習を各自で進めてもらい、大体1時間おきに10分程度のクイズを挟む。「プリントがここまで終わったら、クイズやろうね」と言えば、生徒側も「クイズしたいから、早くプリントを終わらせよ!」とメリハリを持って取り組んでいた。
また、問題演習が自然と「クイズの予習」になるため、目的意識を持って能動的に勉強をさせることができた。彼らの多くは、「〇〇点を取る」という明確な目標のために努力をしたこともなければ、勉強の成果が結果として現れた経験もない。よって彼らには、「クイズに正解するために勉強する」という目標達成の手段としての勉強の経験、そして「勉強したからクイズに正解できた」という成功体験を得てほしいと考えていた。
そして「男子vs女子」のチーム戦にすることで、個人の学力差が露見してしまうことを防ぐと同時に、クイズ形式を複数用意して全員に回答機会や役割を与えることで、「自分事」として勉強に取り組ませる工夫をした。
また集中力と緊張感を6時間持続させるため、チームの勝敗については、1日の合計得点で決めることとした。
回によってはペア戦にしたり、そして、いよいよテストが近づいてきた時期の回では「今日はテスト近いから、クイズは少なめで問題演習をもっと頑張ろうね」と声掛けすることで、全6回の中でも内容を差別化し、マンネリ化を防いだ。

特訓授業の結果、中3の2学期にして自己最高点を取ることができた生徒もいた。
また、生徒も「土日の授業が楽しみ」と言ってくれたり、保護者からも「楽しそうでした」と連絡をもらうなど好評であった。普段学校に行けていない子でも、全36時間の授業に土日にもかかわらず休まず来てくれたことは喜ばしい。私の授業を見ていた社長や、社員の先生からも褒めてもらえた。
このように、特訓講座においては「テストの点数を上げる」「土日のイベント授業を楽しむ」という2つの目標を設定し、授業づくりを工夫した。
しかし結果的に成功したものの、指示された進め方と違う方法を採ったことは手放しに褒められたものではない。私が全回参加していたことや、以前の勤務先での立ち位置から、勝手にやり方を変えることが容易であったこともまた事実である。
③「目上の人」としてのプライドにこだわっていますか?
理想: いいえ
自分: いいえ
私教育である塾の生徒は「お客様」であり、生徒や保護者に「指名」をして貰うことができれば、その分多くコマに入ることができる。
だからと言って人気取りに走る必要はないが、ある種のサービス精神は必要であろう。授業に「楽しさ」を取り入れることを意識しているのも、公教育である学校の授業との差別化の一貫である。
そもそも学生バイト講師の強みは、立場が生徒と近いことであるため、「先生」というより「学生の先輩」として一緒に勉強するくらいのつもりで働いている。
また、勉強面でのアドバイスをする際には、自分の失敗談を織り交ぜるようにしている。「僕もこの単元は苦手だったけど、〜したら出来るようになったよ」「僕は中3までは〇〇の勉強法をしていたんだけど、高校生になって〇〇するようにしてから急に点数が上がったよ。もっと早く気付けばよかったわー。」という具合に、なるべく自身の成功体験や秀才エピソードは語らないようにしている。前の勤務先のような固定担任制の個別指導の場合は、お互いの距離を縮めることが肝要である。そもそも子供は「先生=偉そう」というイメージを持っている場合があるので、ともすれば高飛車な印象を持たれてしまう。
④素質のない生徒を教えるのは無理だと思っていますか?
理想: いいえ
私: いいえ
前の勤務先は特に、最下位レベルの学力の子も何人かいた。まずは授業に集中させることに苦労した生徒もいるが、これもこちらの技量を上げる機会だと捉えた。
結果的に、塾内でも学力が低い生徒や、講師との相性を気にする生徒からも支持を得られた。
また、こちらが「素質のない」と決めつけることは良くない。講師の指示に反抗したりする生徒でも、実際のところは生徒自身が焦っていたり、はたまた意外に大人びた面があって冷静に講師を見極めていたりすることが、反抗的な態度として現れている場合がある。
担当している以上は、どんな生徒に対しても、成績を上げられるように精一杯向き合っている。しかし、1対3の個別指導よりも完全マンツーマンの指導を受けた方が良いであろう段階の生徒も、正直いる。
⑤教え方にクレームをつけられると腹を立てるだけで終わっていますか?
理想: いいえ
私: △(微妙)
はっきり言って、ここは私の反省すべき項目である。
以前の勤務先で担当していた中1男子が結果的に退塾してしまった。
彼は元々系列の「自立型」学習塾に通っていたが、立ち歩きや私語が酷く他の生徒の迷惑になるという塾側の判断で個別指導の教室に移り、私が担当になった。
個別指導という指導形態や、女性講師が多かった前の教室から移って男の私が担当になったということもあり、授業態度はかなり改善された。
しかし1ヶ月程経った頃、彼の母親からクレームが入った。保護者との連絡手段として、「授業報告書」という紙に講師が毎回の授業内容や宿題を記入し、生徒に渡している。その授業報告書に講師がコメントを書く欄があるのだが、私は「〜〜〜〜。よくできていました。」と記入していた。母親の言い分によると、未だ不正解の問題も多いのに「よくできていました」と書かれていたことに不信感を抱いたらしい。保護者の目にも触れる当報告書には、マイナスな事は書かないよう社員から指示されていた。そこで、なるべく生徒の良い点を見つけ、成長した点などのポジティブな事を書くようにしていた。しかし、1ヶ月前までろくに席に着くこともできなかった当該生徒に対しては、ポジティブな点があまり見つからなかった。そこで「よくできていました」という安易な常套句を使ってしまったことは確かに反省すべきであるが、「よくできていました」だけでなく前後も色々書いたうえでのことだったので悩ましい。そして、彼に対する「よくできていました」のハードルを過度に低く設定していた感も否めない。例えが悪いが、もし幼稚園児が九九を言えたとしたら「よくできていました」と書くだろう。

また、今までの内容(私が受け持つ前の内容)を全く解っていないのに、先々進むことも不満であったらしい。しかし、そもそも塾自体が「先取り」をコンセプトにしているのだし、保護者もそれを承知の上で入塾しているはずであるから、その点に関しては「何を言っているのか」と呆れていた。こちらもなるべく既習事項についてもフォローしつつも、先に進まないことには何も始まらないので割り切って進めていた。また、最下層の生徒はそもそも「何を勉強しているのか」自体を全く把握できていないから、まずは見通しを持たせる意味でも取り敢えず1周させることが大事だと考えていた。しかし、その考えを生徒や保護者に共有していなかったのは反省点である。だがはっきり言って、勉強が苦手な子どもと、勉強が苦手だったであろうその親にそれを言ったところで理解してもらえるか分からない。そして、当時の私は、母親に対しては「そもそも前の教室で散々迷惑かけておいた分際で、なんと厚顔無恥な母親なのか。自分の母親はまともで良かったなー。」と完全に開き直っていた。実際、彼は他に習っていたスイミングスクールも同じタイミングで辞め、母親が全て自分で面倒を見る覚悟を決めたようである。
しかし今考えれば、一応リーダー講師の肩書を貰い、今までクレームや「担当チェンジ」を受けたこともなかったし、この件に関しても教室長からは「気にしなくて良いですよ」と言われていたことから、私自身が思い上がっていたところもあると思う。
⑥生徒の進歩が遅いときも常に生徒の味方でいますか?
理想: はい
私: いいえ
すぐに成果が出るのなら誰も苦労しないし、私だって全教科得意だったわけではない。
また、なかなか点数に進歩が見られないのであれば、こちらの指導も省みる必要がある。
そして、中々成果が出ないときや点数が下がったときの接し方は重要である。生徒のモチベーションが下がらないことを第一に考え、時には不用意に声を掛けない方が良い場合もある。
おわりに
前の勤務先では一番歴が長く、年長であったために色々と頼りにされる機会が多かった。担当生徒も着実に成績が上がり、私に懐いてくれる子も多かったことは嬉しかったし誇りに思っている。
「サード・プレイス」をモットーにしていた前の塾は、バイトである自分にとっても居心地のいい環境であった。しかしそれが、無意識のうちに自分を調子に乗らせていた可能性は否めない。
よって、慣れた環境を離れるのはとても寂しかったが、新しい塾に移ってよかったと思っている。
同じ個別指導塾でも、テキストやカリキュラム、生徒の雰囲気や正社員の介入度合いなど様々な違いがある。またある程度時期が経てば、集団塾含め他の塾に移りたいと考えている。