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古本屋になりたい:13 タラちゃんの夢

 私が好きなアニメ「サザエさん」のエピソードの幾つかは、何故かどれもタラちゃんに関するもので、一番好きなキャラクターはタラちゃんかもしれない。

 もしかすると、世の中の人はタラちゃんを、敬語を駆使するという以外は、無個性な子どもだと思っているのではないだろうか。
 強烈な個性を持つサザエという母と、呑気で我が道をいくタイプのマスオという父から生まれたにしては、確かに薄いキャラクターだ。

 登場人物の中ではイクラちゃんに次ぐ小さな子どもだが、イクラちゃんほどワガママ放題ではない。まだ幼稚園にも行かない年齢なのに、泣いたり暴れたりしない、かなり扱いやすい良い子だ。

 タラちゃん自身が狂言回しになるお話はそれほどない。多くの場合、歳の近いおじ・カツオのいたずらを遠巻きに見たり、祖父・波平の時に奇矯な言動に戸惑ったり、おっちょこちょいな母・サザエを大人びた態度でたしなめたりする役回りだ。
 そんなタラちゃんを、なんだか妙に憎たらしいと嫌う向きもあるのだろうが、私が思うに、タラちゃんは磯野家の良心である。タラちゃんがいない磯野家を想像してみて欲しい。ほとんどカオスである。

 意外なことに、タラちゃんには、お片づけをしないと言う一面がある。
 ある日、タラちゃんは、オモチャを片付けなさいとサザエに叱られる。部屋の中には、タラちゃんのオモチャが小山のようになっている。場面が変わって、サザエはタラちゃんに、お片づけは終わったの?と聞く。終わりましたー、とタラちゃんはいつものように明快に答える。サザエが部屋を覗くと確かに床に散らばっていたオモチャは綺麗に無くなっていて、しかし、押入れの襖が大きく膨らんでいる。サザエが押し入れを開くと、中からオモチャが雪崩のように飛び出してくる…。

 なんだかタラちゃんらしくないエピソードだ。とても短い話だったので、おそらく4コママンガの原作があるのだろう。アニメではカツオのキャラクターに集約されているようないたずらっ子の一面が、原作のタラちゃんの性格に表れていることがある。

 アニメを見慣れていると、騒動を引き起こす役は、タラちゃんに似合わない気がしてしまう。
 やはり、タラちゃんの真骨頂は、周りに翻弄される様ではないだろうか。

 私が一番好きなタラちゃんのエピソードは、夢の話である。
 思い通りの夢を見たければ、絵に描いて枕の下に敷いて寝ると良いと聞いたタラちゃんは、空を飛ぶ夢を思い描いて、父であるマスオに、鳥の絵を描いてくださいー、と頼む。マスオは、いつもの安請け合いで、ようし、パパに任せなさい、と鳥の絵を描いてやる。
 その夜の夢の中で、タラちゃんはダチョウにまたがって野を疾走しており、これじゃないですー!と泣いて抗議していた。

 これもまた、あっという間に終わる短いお話だった。
 とてもタラちゃんらしいエピソードだと思う。

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