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逃げるバリアフリー Part1
「障がい者の死亡率は健常者の2倍」
これは、東日本大震災時で亡くなられた健常者の人数と、障がい者の人数を比較した数字として、「災害救助の問題点」で紹介しました。
また、国土交通省の資料※1でも同様のデータ(図1)が紹介されています。
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平時の公共施設や商業施設の利用については、バリアフリーが随分意識されてきているように思います。しかし、いざ災害が発生した時、障がい者や高齢者は円滑に避難できるでしょうか?
車椅子利用者をはじめとした移動に障害がある方は、災害時の避難に困難があることは誰でも容易に想像ができます。
他にも、聴覚障害者であれば非常ベルの音が聞こえない、視覚障害者であれば誘導灯や避難経路を視覚的に把握できないなど、その障害に応じて災害時の避難に様々な困難を生じます。
このように、多くの障がい者や高齢者は、健常者より避難に時間がかかってしまいます。それが、冒頭で述べた「障がい者の死亡率は健常者の2倍」につながっているのです。
災害時要援護者
災害時要援護者とは、「必要な情報を迅速かつ的確に把握し、災害から自らを守るために安全な場所に避難するなどの災害時の一連の行動を取るのに支援を要する人々をいい、一般的に高齢者、障がい者、外国人、乳幼児、妊婦等があげられている※2」とされています。
(本記事では、特に障がい者、高齢者に焦点を当て、論じていきたいと思います。)
障がい者、高齢者が抱える障害は主に表1の通り分類できます※3。
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例えば車椅子利用者などの四肢・体幹障がい、視覚障がい、聴覚障がいは冒頭でも述べたように、避難時にどのような困難があるか想像しやすいと思います。
しかし、内部機能障がいや、精神障がい、高次脳機能障がいなどは、外見上は健常者と変わりないことも多く、援助が必要なことに気づかれにくいです。
例えば、心疾患(内部障がい)があると、少し動いただけで息切れしてしまい一度に長い距離を移動できなかったり、高次脳機能障がいでは、(左)半側空間無視と言って視力は問題ないにもかかわらず、左側に注意が向かないという障害が出現することがあり、そのため避難経路を見落としてしまうといった可能性があります。
他にも、知的障がいや言語機能の障害により、適切に助けを求めることができないというケースも想定されます。
このように、災害時要援護者は災害時には多くの困難を抱えます。
そこで、必要とされる考え方が「逃げるバリアフリー」なのです。
逃げるバリアフリー
逃げるバリアフリーとは、障害のある人たちが安全に避難できるようにするためのバリアフリーの取り組みで、NPO法人バリアフリーネットワーク会議の代表である親川修さんが発案されました。
元々は、沖縄県でのバリアフリー観光の実現を目指して考えられたもので、「逃げるバリアフリーマニュアル※3」には、ホテル等観光施設を想定して、障がいに応じた避難誘導の方法や介助の方法、円滑な避難のために備えておくべき機器等が紹介されています。
しかし、逃げるバリアフリーは、超高齢社会を迎える今、観光地に限らず社会全体で取り組まなければならない重要な課題です。
そのため筆者は、逃げるバリアフリーを避難時だけに限定された考えではなく、発災から生活再建までの全期間を通じた概念としてとらえています。
例えば、避難経路の段差の解消などはわかりやすいバリアフリーですが、それだけがバリアフリーではありません。
他にも、平時からの災害時要援護者の把握、避難所におけるストマ装具の備蓄といった障がい者等への配慮、仮設住宅の仕様の改良(標準的な仮設住宅は必ずしもバリアフリー仕様ではない)や、介護サービスの継続性の担保なども広義の逃げるバリアフリーと考えられます。
日常的な場面では、バリアフリーは一般的な概念となってきました。しかし、いざ災害時となると、障がい者や高齢者が安全に避難することの難しさは見過ごされがちです。
また、避難所なども障がい者や高齢者にとって必ずしも使いやすい環境ではなく、健常者以上にストレスを感じやすく、疾患や障がいの悪化を招く可能性があります。
さらに仮設住宅は、必ずしも障がい者や高齢者に配慮された環境でありません。その結果、社会的孤立、障がいの悪化、災害関連死などにつながっているとの指摘もあります。
バリアフリーといえば、スロープを使った段差の解消といったハードウェア面のことと認識されがちですが、災害時に命や健康を守るためには、情報利用や障がいの特性の理解といったソフトウェア面のバリアフリーも重要な視点なのです。
次回は、災害時の避難における「移動の困難」「情報利用の困難」「周囲の無理解による困難」の「3つの困難」について、掘り下げていきたいと思います。
それぞれの困難が、どのようなリスクに直結するのか、一緒に考えていきましょう。
引用・参考文献
※1 国土交通省総合政策局安心生活政策課 災害時・緊急時に対応した避難経路等のバリアフリー化と情報提供のあり方に関する調査研究報告書概要版 平成25年3月
※2 日本弁護士連合会編 災害時における高齢者・障がい者支援に関する課題 あけび書房 2012年
※3 逃げるバリアフリーマニュアル