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アウェイデイズ(2009🇬🇧)
原題: AWAYDAYS(2009、イギリス、105分)
●監督:パット・ホールデン
●出演:ニッキー・ベル、リアム・ボイル、オリヴァー・リー、スティーブン・グレアム、ホリデイ・グレインジャー
「1979年11月」という字幕から始まる。
流れ出すのはウルトラヴォックスの”Young Savage”、曇り空、赤レンガの塀、走る青年。
改めて『トレインスポッティング』の影響力の粘り強さを再認識させてくれるようなオープニングから始まるイギリス映画。
ポストパンクとサッカーに興味がある人におすすめ。
ポストパンクといえばPILとジョイ・ディヴィジョン、それからギャング・オブ・フォー、ワイアー、ポップ・グループ、さらにNo New York一派といったイメージだった。
なのでこの映画で多く取り上げられているエコバニ、ウルトラヴォックス、マガジン、キャバレー・ヴォルテールはあまり聴いたことがなかったので触れる機会になったし、普通にカッコよかった。
主人公たちが属するフーリガン集団「パック」(狼の群れと同じ意味かな?)の連中が来ているのはそろいもそろってアディダスのスニーカー、ラコステかフレッドペリーのポロシャツ、ピーターストームのパーカー。いわゆる"カジュアルズ"というファッション。
時代は少し違うがデビュー当初のオアシスのメンバーとか90年代のブリットポップのミュージシャンが着てたジャージ中心のファッションを思い出させ、得も言われぬカッコよさを感じた。
これはこの辺りのカルチャーを通っていない人からしたらダサく感じるかもしれない。
映画内でもカーティと妹との会話で、
「これどう思う?」
「父さんみたい」
「これが制服さ」
「釣りクラブの?」
「パックの」
という場面があり、無条件に"カジュアルズ"を賛美するだけでなく外野から見た視点も取り込まれており、良い。
ただし「パック」の中心人物エルヴィスだけはパーカーは着ず革のジャケットを着ている。
「パック」に憧れるカーティ(中流階級出身)と、「パック」に所属しつつもロックや詩を愛好するエルヴィスは互いに無いものを相手の中に見つける形で惹かれていった。
エルヴィスはジョイ・ディヴィジョンの”New Dawn Fades”を聴きながら首に縄をかけたり、血の誓い交わそうとか言い出したり、なかなかのロマンチストかなと思いきや、終盤の方で本当に同性愛者的な示唆もされており、それを前提に観ると彼の絶望はもっと根深いところにあったのかと考えさせられる。
ただし映画ではそのテーマはほとんど深堀りされず仄めかされる程度になっている。
カーティの部屋にルー・リードの『トランスフォーマー』のポスターが貼ってあったり、ポストパンク、デヴィッド・ボウイ、ベルリン、言葉ではうまく表現できないがこの時のイギリスのロックには中性的な、同性愛的なものも許容した時代の空気感があったようなイメージがある。
エルヴィスにそういった性向が僅かにあったにせよ空気感が後押しした影響もあると思う。
リヴァプールが舞台で、敵チームが赤白マフラー持っていて味方側は青白なので(フーリガンは基本的にユニフォームは着ないらしい。捕まらないよう街に溶け込めるようにするため)、てっきりエヴァートンサポなのかと思ったが、どうやらトランメア・ローヴァーズらしい。
ただしサッカー自体に関するシーンはあまりない。
ニック・ホーンビイ『ぼくのプレミアライフ』でも言及されていたが、フーリガンはサポーターではなく暴れるのが目的の犯罪集団というそのままの行動をとっている。
週末、対戦相手の街への遠征ついでに暴れまくるただそれだけの日常。
妹に暴力を振るったラグビーのやつら(一般的にラグビーは上流階級のスポーツ)への報復行為もチームで行ったりしている。
そこへ憧れるカーティと、抜け出したいエルヴィスとのクロスラインの一瞬が切なく、やるせなく描かれている。
エルヴィスの方に主軸を持ってきた方が良かったんではないかなという気もするが、とても良い作品だった。
恋愛要素はほぼ皆無、男たちの映画である。