仁義なき戦い 頂上作戦(1974)◆シリーズ4作目◆
仁義なき戦い 頂上作戦(1974、東映、101分)
●監督:深作欣二
●出演:菅原文太、梅宮辰夫、黒沢年男、田中邦衛、金子信雄、小池朝雄、内田朝雄、遠藤太津朗、加藤武、松方弘樹、小林旭
前作までのおさらいから始まる。
「東京オリンピックが翌年」とナレーションにもあるように段々と時代は新しく移り変わっていくことを端々に感じさせる作りになっている。
今作はこれまで以上に群像劇の様相が強く、途中で逮捕されたこともあり菅原文太の出番は多くはない。
冒頭の方でスキンヘッドにした若いチンピラたちが出てくる。
スキンヘッドがこの時代の若者の髪型として新しいのか古いのか感覚として分からないが角刈り一辺倒の男たちというビジュアルに違った風を吹き込ませている。
角刈りと言えば今作には義西会の会長・岡島として登場する小池朝雄は驚くほど角刈りが似合っていなかった…。
他にも冴えない学生風のプー屋(ダフ屋)として出てくる野崎(小倉一郎)にもスポットライトが当てられている。
別の組にもかかわらずその野崎に目をかける藤田(松方弘樹)との絡みも、男社会の上下関係といった感じで粋を感じる物であったが、そそのかされた野崎が最終的に藤田を撃ち殺すという悲しい顛末になっている。
第一作では子供の玩具を選んでいる途中に殺される役を演じた松方弘樹であったが、今作も“恰好の付かない”死に方をしており、ヒーロー的死にざまを身をもって否定する重要な役どころを担っていると言える。
また中立を保っていた義西会の岡島も、小学校の恩師との同窓会旅行中、温泉から上がった直後に恩師の前で射殺されてしまう。
親をも捨てたヤクザにとっては子供時代の先生というのは純粋な気持ちで甘え、慕うことのできる貴重な存在であるし、その年老いた先生も分け隔てなく寛容な心で元生徒たちに接する。
この僅かな一瞬だけ切り取れば良質な人情ドラマという情景だが、その幸福は一瞬にして血塗られた悲劇へ変わり、ここでも理不尽な死というものが徹底的に描かれる。
若い世代と、広能、武田、岩井、藤田らの現役世代、それに山守、打本といった組長陣ら親爺世代の階層ごとの視点があることがこの映画に厚みを持たせている。
また、大々的に登場するわけではないが、暴力団に反対する市民団体やマスコミという構図が繰り返し織り込まれ、ここでも時代は移り変わっていることを表している。
武田、藤田、岩井らが抗争の戦局に奔走する一方で山守と打本の組長たちは相変わらずやりたい放題。
山守が警察に「善良な市民を保護するのが警官の務めじゃないんか!」と電話で話しながら江田からもらったタバコを吸おうとしたら向きが逆でアチチ!っていうあたりはコメディ。
打本が自分の組も若いもんが山守組襲撃を知り武田に密告するシーンでは「山守が助かったらよう、わしに2000万くらい融通せいゆうて、頼んでみてくれんや」と言うに対し武田は容赦なく「喧嘩相手に金貸すバカがどこにおるんやこのボケ!」と突っ込み。
冷静に考えたら完全にこの組長二人はコメディリリーフになっているので厚み…といえばまあ厚みを持たせているに違いはない。
ラストは暗い刑務所の廊下、窓から雪も吹き注ぐ中での広能と武田による再会シーンというもので、袂を別ったこの二人による戦いの後の虚しい終わりを確かめ合う感傷的な場面で映画は終わる。
息も飲むような緊張感が続いた後、ふーっという溜め息と共に鑑賞を終えた。