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ラウダー・ザン・ユー・シンク ギャリー・ヤングとペイヴメントの物語(2023🇺🇸)
原題: LOUDER THAN YOU THINK(2023、アメリカ、90分)
●監督:ジェド・I・ローゼンバーグ
●出演:ギャリー・ヤング、スティーヴン・マルクマス、スコット・カンバーグ、ボブ・ナスタノビッチ、マーク・イボルド、クリス・ロンバルディ、アダム・ハーパー、ジェリ・バーンスタイン・ヤング、ケリー・フォーレイ
正確にこの映画の紹介をすると、90年代アメリカの最高のインディーロックバンドの一つであるペイヴメントのドキュメンタリーではなく、ペイヴメントの初期に在籍していたドラマー、ギャリー・ヤングというアル中オヤジのドキュメンタリー映画だ。
なので、彼が脱退して以降のペイヴメントのことはほぼ描かれていない。
「ラウダー・ザン・ユー・シンク」はギャリー・ヤングがカリフォルニア、ストックトンに所有していた安いレコーディングスタジオの名前。
そこにやってきたギター二人組の若手バンドのレコーディング中、"頼まれてもいないのに"、おれが演奏すればもっとよくなるとギャリーがドラムを叩き始めたことがきっかけで、流れでそのバンド"ペイヴメント"に加入することになる。
この"頼まれてもいないのに"というのが彼のパーソナリティーを物語る際のキーワードとなる。
インディーロックの美意識と知性を十二分過ぎるほど携えたスティーヴン・マルクマスやスコット・カンバーグに対して、額面通りのロックを体現するギャリー。
音質の悪さを逆手に取る手法を当時から自覚的であったマルクマスと、今現在でも「わざと悪い音質でレコーディングするなんて意味がない」と否定的なスタンスであるギャリー。
セバドーのTシャツを身に纏いながらザ・クリーンなどのインディーバンドの影響を語る他のメンバーたちと、ビートルズに衝撃を受けイエスのドラマーをリスペクトするギャリー。
ライブでは派手なカラフルなシャツを着て酔っ払い徘徊し、ドラムスティックを投げてキャッチするパフォーマンス。
そういう過剰さや派手さを"ダサい"と蔑視するのが当時のインディーバンドのスタンスであったはずだ。
しかし「マジになったギャリーは世界最高のドラマーだった」という発言があるように、その腕前と、あまり強気に言えないメンバーたちの温和さ、優しさの中で正式なペイヴメントのメンバーとして10以上も年上のオヤジが活躍することになる。
それにしても本当にメンバーたちがみんな優しい。
マルクマスのソロ曲を演奏してる横で逆立ちしてるのとか明らかに邪魔なのに、怒ったりもせず、今でも「クールだったね」なんて言っている。
ペイヴメントのメンバーだけでなくギャリー・ヤングの妻や弟、音楽研究家やマタドール・レコードの創始者(スーパーチャンクやティーンエイジ・ファンクラブが所属していた頃)も登場し、証言。
ロッキング・オン誌に連載をもっていたことも取り上げられている。
ソニック・ユースとのライブの際、またしても誰にも頼まれてもいないのに集まった2,000人の客への顔見せをしながらギャリーが野菜やマッシュポテトを配り始めるが、サーストン・ムーアだけが手伝ってあげたというエピソードが一番笑撃を受けた。
その後、ペイヴメント脱退後のソロ作"プラントマン"の撮影監督をギャリーに紹介してあげ、自らも「木」役で出演。
純粋に人がいいっていうか、バンドマンに対する優しさやサポートの姿勢がサーストン・ムーアの素晴らしいところ。
一時のロッキングオンのディスクレビューでやたら”サーストン・ムーア絶賛”ってのを見かけたり、なんでも褒める草野マサムネとかもそうだけど、こういうロック愛、ロックリスペクトのある人が支持してるミュージシャンは本物だな、なんてことも思った。
映画はあくまでギャリー・ヤングが主人公で、ペイヴメントとグランジとの距離感だとか、当時のシーンの深掘りはそんなにない。ストックトンという町がとにかく治安が悪かったというのはわかった。
ギャリーの奥さんも成長していくバンドとギャリーの立ち位置をわかってたり、とても理解のある人だなと思った。
バンドも彼が脱退後もレコード収入の送金を続けていたり、出てくる人たちみんないい人。
ペイヴメントのスティーヴンとスコットは小学生からの友達で一緒にサッカーをやっていたとか、ペイヴメントの由来はスコットが大学で都市工学を学んでいたからだとか、後追いだったので知らない情報も色々知れて、それも良かった。