食品販売の恐怖その2

前回、食品業界の闇というかズボラな面をお話した。
けして安心でも安全でもない商品を売れと命令された底辺販売員のBBARが、その指示に従ったかどうかを今回はお話しよう。

派遣販売員、それは販売業界のド底辺だ。
メーカー、施設、派遣会社、デベロッパー、コンサルタント…様々な会社が関わっている短期出店店舗において、先の全ての会社の人間がいつでも仕事を取り上げる事ができる相手。
それが派遣販売員。
そう、派遣販売員は店舗に関わる全ての会社の担当者全員から嫌われてはならないのだ。
意見が食い違おうが、コンプライアンス違反だろうが、従わなければその場で帰される。
だが、クレームが入れば1番に怒られるの我々である。

では、過去に「これはヤバいだろう」と思う商品を売るように指示された場合にBBARがどうしたのかをご説明しよう。
まず、店頭にある商品の中で問題なさそうな商品のオススメポイントを探す。
問題なさそうな商品というのは、工場で生産後パッケージまでされて入荷する常温保存の加工品が望ましい。
ケーキ屋ならケースやパック詰めのクッキーやパイなどだ。
和菓子なら煎餅やかりんとうなど。
瓶詰めや缶詰、レトルトパックなど。
そして、とにかく問題なさそうな商品をオススメしまくる。

問題有りな商品というのはだいたい店の主力商品なので、これが結構難しい。
店頭の看板やポップにはシュークリームとでっかく書いてあるのに、店員からは瓶入りジャムを薦められるという不思議ワールドになるからだ。
普通のお客さんなら怪訝な顔をする(当たり前だが)
「シュークリームのお店よね?」と聞かれたりもする。
そこで悪意のない嘘のセールストークだ。
「そうなんですよ!でも、実はこのジャムが隠れた人気の品で、本当はこの会場では販売するつもりなかったんですけどね、どうしてもご紹介したくて持ってきたんですー!」
と、前置きで興味を引いておいて、怒涛のおススメポイント乱れ撃ちだ。

ちなみに私はこの時、だいぶグイグイいく。
本当に自信を持って販売できる商品なら納得して買って欲しいから、考える余裕を与えるためにあまり長々とは話さない。なるべく相手の要望に沿うようにお客さんの話を引き出す話し方をする。
だが、この時ばかりはグイグイいく。
このババァくそウッゼェ!と思われて購入せずに帰ってもらうためだ。
仕事なので売らないわけにはいかない。
だが、衛生面が不安なものは売りたくないし、それを売れと指示するやつが儲かるのもムカつく。
なので、全力で売ろうとしているものの買ってもらえない状況を作る。

私のことはウザく思われてもいい。
健康を害されることが無ければ良い。

だが、時々グイグイこられる事に喜びを感じるタイプの人がいる。
店員との会話に価値を見出すタイプの人だ。
だいたい高齢者に多い。
免疫力に不安のある年代だし、当人に衛生の知識が不足している場合も多い(特に高齢男性)
危なっかしい食品なんて、けっして買ってもらうわけにはいかぬ!

そんな時、BBARは商品説明からどんどんと話を脱線させて、全く関係ない世間話をし始める。
1時間以上話してる時もある。その間、他のお客さんは前を通りかかってもフル無視だ。
「あの店員、おしゃべりばっかりで、こっちにいらっしゃいも言いやがらない」と思ってるだろう。
怒ってるかもしれない。
施設やメーカーに「お喋りばっかりしてて売ってもらえなかった」とクレームを言うかもしれない。
言えばいいさ!
他のお客さんとのお喋り程度なら口頭注意で済むから私が上に謝ってしまいだ!
それで、お喋り好きの高齢者もクレーム入れたあんたもお腹壊さないならそれでいいさ!

一度痛い目に合わないと(食中毒事件起こさないと)わからないから、売れと指示されたなら素直に売ってやれよと言った同僚もいた。
どうせ我らは床板一枚に乗ってる立場。転落しても大したことはないと。
(だが、自分の指示でトラブルが起きても派遣販売員に罪をなすりつける社員は履いて捨てるほどいる。そして、管理者や責任者は派遣となんて口も聞かないので派遣が切られて終了)

BBARには販売の心得を叩き込んでくれた師匠がいる。
「商品を売るなら自販機にもできる。販売員が売るのはお客さんの笑顔だ」と師匠は言った。
食品販売を教えてくれた先輩は「私たちが最後の砦。私たちがチェック漏れした商品はお客さんの口にそのまま入ってしまう。ここまで何人が見落としても、私たちだけは見落としたらダメなんだよ」と言った。

大きな食中毒事故を起こしたら、意識低い系の経営者や担当者は痛い目をみて改めてくれるかもしれない。
でも、そのためにせっかく買って食べたもので痛い思いをしたり、何日も入院したり、人によっては人生が終わってしまうかもしれない。
他者の健康より自分の利益しか見られない人間を学習させるために、目の前のお客さんを犠牲にすることなんて出来ないよ。

でも、BBARだってギャラは欲しい。
生きるためには金がいる。
仕事を失うわけにはいかない。

なので、BBARは全力で仕事してますアピールをしつつ売りたくないものは売らない!を実行してきた。
なんとなく「この店、なかなか売ってくれないな」とか、「いまいち態度悪くて、ちゃんと接客してくれないな」と感じる事があったら、買い物はやめておいた方が良い。
というか、買わないでほしい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?