あの風の中に #1
「ちょっと待ってー。」
声がかすかに聞こえて悠斗は振り返る。 遠くから柔らかそうな髪を揺らしながら走ってくるミコの姿が見える。自分を追っかけてきてくれる女の子は本当に可愛くて癒される。
「一緒に帰りたいんだよお。」
とミコが甘える。
「ごめん、ごめん。」
悠斗は軽い返事をしてすぐに前を向いて歩きはじめる。
学校と家とを結ぶ通学路はわき道で田んぼや畑が多い。 春休み明けすぐに訪れるゴールデンウィークも終わり、畑には作物が植えられ田植えも終わっていた。
「見て、魚いる!」
ミコは驚いた顔をして悠斗に伝える。
用水路には小さな魚が泳いでいた。
「ほんとだー。3年間同じ通学路を通ってきたのに初めて知ったよ。」
悠斗はとくに興味もなさそうに反応をした。彼はここ最近、若さ故の漠然とした不安で少し疲れていたのだ。