第2回:「アセット」とかけまして、「台風」と解く……その心は?
みなさん、コロッケは用意しましたか?私は16個買ってきましたが、気づけばあと3個しかないので、これからファミマで買ってきます。
そういえば台風の報道をテレビで見ると、いわゆる「予報円」というものが表示されていますよね。子供の頃の主宰は、予報円がよく分かっていなかったので、時間が経つにつれて台風はどんどん大きくなるのだと勘違いして怯えていました。実際には単に台風の進路が正確には読めないから、時間とともに不確実性が増して予報円が大きくなっているだけなんですね。
実はこの予報円の考え方って、前回お話しした「アセット」ととても共通するところが多いんです。そこで今回は、台風の予報円を例にして、「アセット」の行動予測についてみていきましょう。
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予報円を結ぶ線=台風の進路・・・?
台風のニュースを見ると、こんな画面が表示されていますね。
この画面を見た人の多くはこう思うでしょう。
あー、台風の通る近畿に住んでないから大丈夫か~。
お、台風の進路に当たってないから広島は大丈夫か~。
暴風域は明日には消えるんか~。もう一安心だな~。
はい、アウト。予報円の見方が全くなっていません。一緒に予報円の見方を学びましょう。日本気象協会さんがとても分かりやすい図を使って、予報円の見方を周知しています。今回はこの図を拝借します。
ご覧のとおり台風情報は予報円の他に現在の中心位置、強風域、暴風域、暴風警戒域で構成されています。このうち予報円についてはこのように書いてあります。
台風の中心がこの円の中に入る確率が70%と予想されるエリア
つまり、台風の進路というものはこの段階でははっきりと示されていないわけです。しかし、台風の速度と周囲の気象条件、そして過去の統計データが分かっているため、これらを組み合わせて予報円を作図して進路を予想しているのです。ゆえに、予報円同士を繋ぐ線自体は台風の進路とは何ら関係ありません。
一方で暴風警戒域は「この地域が暴風域に入る確率が70%」という定義はされていません。これは暴風警戒域というものが、「仮に今の暴風域のまま台風が予報円のどこかに進行した場合に、暴風域に入る可能性がある」範囲を作図したものだからです。
さて、この作図を見て何か思いませんでしたか?台風の予報円と暴風警戒域の関係が「アセットの機動力」と「アセットの交戦距離」の関係に似ていませんか?似ていますよね?そう、似てるんですよ!
ということで、台風の予報とアセットの行動予測について、次で話していきます。
何で台風が来てるのに避難しないの?
最強クラスの非常に強い台風が近づいてます!既に暴風域内の市町村で避難指示が出されました!よし、台風に備えてあらかじめ避難しよう!・・・と、皆さんなるでしょうか?多分ほとんどの人は、避難指示が出されてもなお「避難しようか、どうしようか・・・」と悩んでいるはずです。不思議ですよね。一見合理的に考えれば、伊勢湾台風に匹敵する非常に強い台風という災害が迫っており、既に被害が出ている地域もあり、公共交通機関も停止し始めている以上、最も安全な方策をとるならばさっさと安全な場所へ避難するべきです。ではなぜ悩むのでしょうか?これは至極単純です。誰もが頭の中でこう考えているからです。
ぶっちゃけ本当に避難しなきゃならないほどの事態になるのか・・・?
台風の進路はその時の気圧配置や風の影響を大きく受けます。また、台風の勢力は海水温度や進路上の地形の影響を受けて増減します。さらに実際に台風が直撃しても、身体や財産に直接被害を受けたことのない人が大多数であるため、今回の台風でも避難するほどの被害が発生するのかわかりません。こういった「不確定要素」が、下図のように避難にかかるコストと避難しないことで被るコストを比較する時に大きく影響してきます。不確定要素の影響を抑えるためには、より精度の高い情報によって状況をより完全に把握することが必要です。そのため台風が近づいてきている時は、誰でも台風情報にかじりつき、毎日台風進路予想の図を見て一喜一憂しているわけですね。
こうした情勢判断に影響を与える不確定性のことを、かの有名なフォン・クラウゼヴィッツは「戦場の霧」と表現しました。
さて、「戦場の霧」を払う最良の方法は、公開情報から人工衛星までありとあらゆるISRアセットを運用してより詳細で網羅的な情報をリアルタイムで収集し、瞬時に分析・評価して指揮官の情勢判断に貢献することですが、到底現実的ではありませんね。そこで断片的な情報を使って相手の行動を予測するための思考枠組が重要になってきます。この思考枠組を使い、台風の進路と被害を見定めて事前の備えや避難を判断するように、相手アセットの行動と戦力を的確に見積もり、我の使命を分析して派出するアセットの編成と行動計画を策定することが作戦立案の鍵となってきます。かの有名なOODAループはこれを定式化したものです。
つまり、相手のアセットを見積もって作戦を立案する作業と、台風情報から被害に備えたり避難の準備をしたりする作業に根本的な違いはないのです。そしてアセットの「影響範囲」と台風の「予報円及び暴風警戒域」に考え方の違いはそれほどありません。したがって、アセットの「影響範囲」を見積もることが出来れば、対象アセットの任務や使命を分析することにより予報円のような予想図を作成できるはずです。いずれこれについては史実の海戦を引用して説明できたらと思います。
まとめ
いかがでしたか?身近なところにも戦史研究のヒントは隠れているんですね。まだしばらくは、このような主宰の自説を中心に議論の下地を整えていきたいと思いますので、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。