嬢をめぐる冒険(N#12)
女の子に会うためだけに高速道路を走ったことはあっただろうか。運転しながらそんなことを考えていた。
時間には余裕を持って出かけたのであまりスピードは出しすぎないようにアクセルを踏んだ。いつもよりも流れる車のヘッドライト、テールランプの灯り、遠くに見える家屋の人工光源の灯りが何故か美しく見えた。
急いで行ったところでそこに彼女が待っているわけではない。ホテルの部屋が空いていない等の不慮のトラブルに対応できる時間さえあれば良いのだ。
考えても考えても女の子に会うためだけに少し遠くまで出かけたことは思い出せる記憶の中にはないようだった。おそらくこんなことは過去にはないのだろう。
なんでここまでするのかということに思いを巡らせていったが、明確な答えは自分では導き出せなかった。導き出せないから答えを探しに行くのだろうと結論づけて流れる音楽に意識を向けた。
気分の昂まる音楽に変えようとも考えたのだが、何を聴けば良いのかもわからなかった。それでも流れてくるプレイリストの曲はいつもよりも美しく聴こえた。エモーショナルな曲も不思議と落ち着いた雰囲気でまるで別の曲のようだった。
ゆっくり走っているような気がしていたが、予想時間よりも少し早く目的のインターチェンジに到着した。目的地のホテルは下りてすぐのところで迷わず行けることがわかっていたので焦ることはなかった。
むしろなぜこんなに心が落ち着いているのか、高揚感もなく、期待すらない。ただ静かに流れている時間にまるで異世界に来てしまったような感覚だったのかもしれない。
でもその時には全てが静まり返っているということしかわかっていなかった。自分の心も含めて。