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「ねえキスしよ」(Y#13)


 1軒目を食べ終わったと連絡があったので拾いやすいところで待っていた。

「美味しかった〜」と言いながら後部座席に乗り込もうとしていたので、助手席に乗るように促した。「いいの?」と少し驚きながらも戸惑わずに助手席に乗ってきた。

気配りができる女性は最初は必ず後部座席に乗ろうとするものだ。デリヘル嬢は単に送迎で後ろに乗ることに慣れているだけかもしれないが。

「人に見られても良いの?」
「何とでも言えるから大丈夫だよ」

既婚者である僕に気を遣ってくれたようだった。童顔なので幼くは見えるがそんなに若くないのだろうとは思っていた。子供っぽく見えたかと思うと、達観していて落ち着きが見える時もあった。プロフィールは26歳になっていたがもう30歳は超えている感じがした。本人もいつまでもこの仕事できるわけじゃないかもしれないと言っていたが、年齢を気にしているようだった。

短い時間だがドライブが始まった。

「もう来ないんだよね」
「来ないなーお店も早く帰るって言ったら昨日から扱い悪くなったし、
 スタッフから一応、明日送りますかー?って聞かれたけど断っちゃった」
「そうなんだ」
「この街は夜に行けるとこもないしなー暇すぎる」
「地方都市だからね。店も閉まるの早いよ」
「この仕事長いけどこんなに稼げなかったの初めて」
「ケチな街なんだよ。俺は嫌いだよ」
「私は来ないけど、事務所に私なんかより清楚そうな子もいたから」
 忘れてくれと言わんばかりだ。
「代わりがいると思うの?」
「そうじゃないけどさー」
「ガチ恋するように見える?」
 僕は笑いながら尋ねる。

瞬時にいろいろなことを考えはしたが、この時間を楽しむことにした。たくさん話をしてくれた。出稼ぎ期間にあったこと、お店や仕事の愚痴、そして彼女自身のこと、自然に聞き役に徹していた。僕の話はほどんどしなかったし、聞かれることもなかった。

何か特別なことも期待しなかったし、まるで友人と会話している感じだった。




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