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「ねえキスしよ」(Y#17)
1人になり、車を運転しながら物思いに耽ってしまった。
何故、キスされたのだろうか?理由はわからなかった。
そういうことを期待しているように見えた?
本指名客だったから?
でも、一緒にいた時間には僕は、手すらつなごうともしなかった。
そして彼女はもうこの街には来ないのだ。僕をつなぎとめておく必要はなかったはずだ。
源氏名を使い分けているようだったし、スマホも2台持っていた。頭の回転が早くて切り替え上手な人だと思っていた。
過去には出稼ぎ中に稼げなくて必死でお金を無心する子に出会ったこともある。Yちゃんも稼げなかったと言っていたから、もっと打算的になってもおかしくはなかった。
それなのにYちゃんは驚くほどお金に対する執着を見せない女の子だった。それどころか、僕にお土産を分けてくれたり、少額とはいえコーヒーを奢ってくれた。
3時間ほど一緒に過ごしたが、甘い空気はなかった。一緒に過ごした間は紛れもなく嬢ではなく、ひとりの女の子だった。
お互いに下心がなかったのかもしれない。対等な感じがした。だから良い時間だったのかもしれない。
僕は男と女には友情は成立しないと思っている。でもすごく仲の良い女の友達ってこんな感じなのだろうか。
LINEが来ていた。
「今日はお迎えからご飯から果物までいろいろありがとう!楽しいお時間だった!」
僕もお礼を返信したが、それが既読になることはなかった。
店のルールは必ず守る、LINEも営業で使うタイプではない印象だった。
心が弱っているときは少しだけでも気心知れている人間や優しさに隙をみせてしまうのではないだろうか。
我に帰ってブロックしたのかもしれない。僕は少し安心した。
もし本来の自分に戻ったならそれでいい。
それでも彼女も僕にヒントを残して去っていった。
「もう一度Yちゃんに会いたい?」と問われれば
「会いたい」と迷わずに言うだろう。