『夕暮れ』
見事な夕日。それを廊下の窓から眺めている。今日も一日が終わろうとしている。ふと、焦点が手前に来る。窓は鳥の糞でひどく汚れている。
「これ、垂直のこの窓に糞をつけるには、窓の手前でお尻をプリンッてやりながらターンせなアカンよな」
隣の人は説明するのも億劫な感じで、
「いや、強い横風とかでしょ」とだけ答えた。
(なるほど、、、、)回答のあまりの切れ味に恥ずかしくなって、唇だけ動いて微かに呟いただけ。そのまま互いに無言で夕日を眺めて時間が流れていった。
けれど今は誇らしく思う。自分はこの世界をずっと面白く捉えていたのだと。そして少し残念に思う。はっきりさせなくていいし、あやふやなまんまでいいことだったと。脳天気に何となくそう思ったままで世界はずっと愉快なままだった。
一度焦点があった鳥の糞は意識にも上がり、先ほどまでは直接その美しさを把持していた夕日は窓の汚れ越しにしか見えなくなった。それが何とも身の丈に誂えた様な美しさに感じて、何処にも行けず、はめ殺しの窓から見ている。