『ふたしかたしか』
信号待ちで止まっていると、すぐ脇の歩道で若者がポストへ投函し、その場でしゃがんで靴紐を結ぶ。
投函と靴紐の結び直し。
微かな非日常と日常。
始まりと終わり。
未然形と完了形。
入口と出口。
可能態と現実態。
ふたしかとたしか。
あの投函された何かも、確かなものとなって再び若者の元へ帰って来るのだろうか。そして投函されたそれは、何か劇的な変化を彼に齎すかもしれない。投函されたものは、まだ確定されていないものとしてあらゆる可能性を秘めてポスト内に留保されている。
不確かなことばかり。
こちらも青信号と同時にまだ確定していない未来へ進みはじめる。
そして若者は確りと靴紐を結び直した後、雑踏に消えていった。