『ぼくは勉強ができない』。いつまでも読みたい
『ぼくは勉強ができない』山田詠美/著、1993年
1.Z世代にもおすすめ
Z世代は知っています。人生設計は正しい情報と行動によってある程度はコントロールができることを。
この小説は、今と比べて人生のコスパやタイパがずっとよくないころの話ですが、だからこそ私がおすすめしたい作品です。
何回読んでも作品への憧れと満足感があるので、私はくり返し読んでいます。
2.『ぼくは勉強ができない』内容紹介
1990年代初め、高校2年生の時田秀美君は言いました。
「確かにぼくは成績が悪いよ。でも、勉強よりも素敵で大切なことがいっぱいあると思うんだ」。
これを読んだ当時、われわれ団塊ジュニア世代の※読者は「だよね、そうだよね!」と膝をバシバシ叩いて同意しました。
でも、現代の10代はどう感じるのでしょうか。
「勉強しないのも自己責任じゃないですか?」
「別に学校にこだわらず、自由に学べばいいと思う」
と言うのかな。
でも、そこに悩みや葛藤や恋や未練はないのかい?
誰にだってあるよね。私たち人間だもの。
※団塊ジュニア:1945年から数年間に生まれた子が団塊世代。団塊世代から生まれたのが団塊ジュニア世代(1970年〜生まれ)。
『ぼくは勉強ができない』山田詠美/著、1993年
登場人物
・時田秀美:高校2年生男子。やる気の少ないサッカー部員。
・母と祖父:秀美の家族。時田家はみんな恋多き性格
・先生:やる気の少ないサッカー部顧問。秀美の相談相手。理解があり女子学生にも人気がある。
・真理:秀美の幼馴染み。高校卒業後はスナックで働く予定。夜遊びが学校にバレて停学1ヶ月となる。
・桃子:秀美の恋人。「うんと年上」。バーで働く。
・秀美の友達:お調子者男子が多い。
秀美の、高校2年生から3年生の進路決定に至るまでの学校と家庭生活が書かれています。
3.秀美の学校生活とは
秀美君の、高校2年夏から始まる出来事はこんな感じです。
・ぼくは成績が悪いよ、でも他に大切なことがたくさんある
・思考よりも身体が訴えかけてくること
・年上の彼女の過去と幼馴染のアドバイスと大人の決めつけに悩む
・不登校気味の友人、社会と自分の食い違い
・学年トップの美少女の裏に見た虚飾と自分の先入観
・進路決定
4.秀美君はアンファン・テリブルか
最近「アンファン・テリブル」がマイブームのため、ここでも言ってしまいました。
この作品は、秀美という高校生をアンファン・テリブル(=無遠慮に振る舞い大人たちを困惑させる子ども)として描き、大人の読者が過去に感じる青春の欲求不満を解消するための小説なのかしら?
・秀美の環境
型破り(当時の価値観)な母親、学校外にいる年上の恋人、友人のような先生、対等な意見交換やふざけ合いができる友達。
私はこれらにものすごく憧れてしまいます。
5.ちょっと待てよ
ちょっと待って。もしかしてこれは、暗黒の青春時代を過ごした「私自身が憧れた学校生活」じゃないのか?
この作品をこんなに愛しているのは、実は私くらいなのかもしれない。
…冷静になってみた。
そんなことはない。だってあの山田詠美さんが書いた小説だもの。
すでに作家の策にはまっていた私でした。名作は自意識に訴えかけるのです。
「この小説は私のために書かれたのかも…」と思ったら、それは名作の証です。
この作品の文庫版あとがきでは、エッセイストの原田宗典さんが以下のように言っています。
「見抜かれたって感じだなあ」と。
6.まとめ:Z世代にこそ読んでほしい
『ぼくは勉強ができない』は、読者の心に風穴を開ける小説です。あらゆる年代の人におすすめします。
コスパ、タイパ、SNS映えの成果が感じられないと不安な人たちへ。
秀美君はタイパが悪くても魅力的です。ものすごくキラキラしています!
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