立ち上がれ滉燿くん ! ~明日を信じた5年間~ 8(1) 4年生2学期スタート!でも、身体が固い!? 今年も爆走バギー3
夏休みに訓練頑張ったのに身体が固い!今年も出ました爆走バギー3です。
4年生2学期(2006年 H18年)
前編 立ち上がれ滉燿くん ! ~明日を信じた5年間~ 7(3)へはこちら
46 訓練の甲斐が無いじゃない?
2学期が始まりました。お母さんが運転する車に乗って、登校した滉燿くんの身体の状態を軽く点検をしました。お母さんにも、少し待ってもらって、一緒に見てもらうことにしました。一番気になる膝と足首の状態です。これは柔らかくOKでした。次に、立位姿勢を見るため立たせてみました。
「あれっ!?」
膝の方は真っ直ぐ伸びて良い感じでしたが、お尻が後ろにかなり引けて、腰の曲がったおじいさんという感じで立っていました。
「H療育園でも腰が引けていると言われました」
お母さんは少々不満そうでした。『夏休みも頑張ったのに、悪くなったじゃない。』顔にそう書いてあります。
このお尻が後ろに引けるのは、足首に原因がある場合が多いことは分かっていました。その足首を強化しようとして、椅子から立ち上がって足首を鍛える訓練をしていたのですが、その時に前屈みになって立ち上がっていた影響が出たようです。
こちらを良くしようと思えば、あちらが悪くなる。なかなか思うように訓練が進みません。一体どうなっているのか、私は舌打ちしたい気分でしたが、ふと気がつきました。
勉強でもスポーツでも同じですが、習い事は上手になっていく過程で、あるパターンが存在することを思い出したのです。習い事も、習い始め・練習はじめでは、急速に上手になって行きます。この時期は、自分の進歩が楽しいので、どんどん練習が進みます。自然とやる気も出ます。
ところが、その段階を過ぎると、必ずあまり進歩せず、伸びるスピードが鈍ったような時期が来ます。これをプラトー(高原)期と呼びます。人によっては、スランプと思うかも知れませんが、決して悪くなっているのではなく、伸びるスピードが鈍っているだけなのです。ここでイヤになったり飽きたりしてしまって止める人も多いのですが。そこを頑張っていると再び伸び始める時期が来ます。そして、本当に上手な人へとなるのです。
滉燿くんも、今は、スピードが鈍る段階なのではないだろうか?振り返ってみると、これまでの訓練は非常に好調でした。打つ手打つ手がうまくいき、昔の滉燿くんを知る人達が、驚くほどのスピードで進歩してきました。ずーっとこのペースが続くと思っていたのですが、今がプラトー期ではないかと思い至ったのです。
それなら我慢して訓練を続けていたら、きっと再び良くなるはずです。根比べです。我慢と根性は、大学時代の空手道部の練習で鍛えられたつもりだったので、自信がありました。
そう考えながら、改めて滉燿くんの身体を見ていると、パーッと頭に対策が思い浮かびました。私は不満そうなお母さんの顔を見ながら言いました。
「背中が曲がっているから、背中から腰にかけての筋肉のリラクセーションをすると同時に、背筋の筋肉の強化をやってみましょう。今月中には元に戻ると思います」
お母さんは返事をせずに、私の顔を見つめています。顔には『今月中に?こんなに曲がっているのに』と書いてありました。そんなお母さんの様子に気づかないふりをして、お母さんを送り出しました(^▽^)。
始業式が終わると早速滉燿くんを寝かせて訓練です。今日は、背中と腰のリラクセーションをを丁寧に行いました。寝かせた状態で、躯幹のひねりを、肩が完全に床に着くまで、ゆっくりと行いました。肩が着くと、手でブロックする所を肩甲骨の直ぐ下の部分に変えて、再び曲げていきます。これは、背中の上の方の緊張を取るために行います。
この二つの訓練を左右交互にやると、滉燿くんをあぐらで座らせました。滉燿くんの背中側に座ると、脇腹の部分を、左右から私の足の脛の所で挟みました。そうしておいて、滉燿くんの肩に手をかけ、私の方へゆっくり引きつけます。これで背中がうーんと伸びます。これが背反らせです。
終わると、私の左足を、あぐらで座っている滉燿くんの左足の付け根に置いて、滉燿くんの身体が、ぐらつかないように身体を固定します。両手で滉燿くんの肩をつかむと同時に、右足の裏を腰の部分に当てて引っ張ります。こうすると滉燿くんの出っ張っている腰が入って行きます。それと同時に曲がっていた背中がグーッと伸びてきます。これが腰入れです。
背反らせ・腰入れの訓練は訓練中に一回やったら終わりではなく、爪先
立ち訓練、歩行訓練などの中でもやりました。特に、背中が曲がった原因と思われる爪先立ち訓練の時には、左足に重心をかけて立たせた後、右足に重心を立たせた後、両足で立った後と一つの練習の合間に入れていれました。
歩行訓練でも、畳の上を片道歩くと座らせて背反らせ・腰入れの訓練を入れました。
背筋の強化もしなくてはなりません。滉燿くんを何かの台に乗せて、『ウルトラマン』が空を飛ぶ時の様に、背中を反らせて、両手・両足を真っ直ぐに伸ばす独特のポーズを取らせるのが背筋の強化には良さそうでした。乗せる台は、お母さんの提案で家にあった、座って手を使うために作ったウレタンで出来た大きなさいころの様な物を使いました。
この台の上に、滉燿くんを乗せます。滉燿くんは指示しなくても、ウルトラマンの空飛びポーズをやりました。でも、ずっとそのポーズを取るのは無理です。ウルトラマンの空飛びポーズに疲れると、手と顔をダランと下げます。ちょっと休ませる意味で、10秒間程そのままにします。10秒間たつと再び声をかけます。
「滉燿くん、茶摘みをしようか?」
滉燿くんは顔を上げて両手のひらを見せます。
「せっせのよいよいよい」
2人の手のひらを合わせて、茶摘みを始めます。
「夏も近づく八十八夜、とんとん」
手のひらを合わせるためには、滉燿くんも背を反らせ顔を上げなければなりません。自然に背筋の強化が出来るわけです。一曲終わるとまたダランと休憩です。これを二回くらいすると大体一分間になりました。
一分間経つと、私は滉燿くんを抱えて台から降ろして床に座らせて休ませます。
単に休むのでは時間がもったいないので、床に寝そべらして膝を伸ばしたり、あぐら座位での腰入れをやっていました。背筋強化訓練は『台の上に乗って、一分間背筋の強化をすると少し休む』を一組にして5回やりました。一日の背筋の強化時間は、正味5分間という訳です。
47 爆走バギーその3
この様なことをやっている内に、運動会がやってきました。
3年目を迎えて、伊岐須小学校運動会名物(?)となってきた滉燿くんの爆走バギーは、今年はどうなるのでしょうか?
伊岐須小学校では、4年生からの走競技は、クラス全員によるリレーでした。リレーは一回戦、二回戦に分かれています。1回につき、各クラスからA・B二つのチームが出ます。従って一緒に走る人数は六人です。一人がトラック半周を受け持って走ります。滉燿くんは一回戦のA チームです。
問題は滉燿くんをどのように走らせるかです。足の速い子達の中に入って、滉燿くんのバギーが、みるみる追い抜かれたというのでは、同じチームの子達がイヤに思うでしょう。かと言って、私が馬力を発揮して遅い子達を追い抜きまくると、他のチームの子達がイヤでしょう。差をつけないようにワザと力を抜いて走ると、これまた、同じチームの子が不満を持つと思います。ある程度一生懸命走って、あまり差がつかずに、次の走者にバトンを渡せるのが一番良いわけです。
4年生の先生達と話し合った結果、滉燿くんは、これまでと同じ様に私がバギーを押して走り、区間としてはスタートを受け持つことになりました。一緒に走るメンバーは、バギーと対等なくらいの足の速さの子を各クラスから選んでもらいました。
こうして練習で走ってみると、そこそこのスピードで、丁度真ん中の順位で次の走者にバトンを渡せることが出来ました。子ども達からは、全然文句はありませんでした。
本番です。私達は一番外側の場所に立ちました。滉燿くんが、バトンをしっかり握っています。
「よーい。ドン」
ピストルの音を合図にスタートしました。「うん?」いつもなら遅れるはずの子ども達がピッタリついてくるのです。そればかりか、前を走る子達はジリジリと間を開け始めているではありませんか!どうやらこれまでの練習では、子ども達は全力を出していなかったようです。
見物人がいる本番では、どの子も必死で走っているので、いつもより速いのだと気づきました。
それならばと、私はカーブでは、思い切ってイン側について、真ん中の順位に潜り込みました。こうすれば簡単には後ろの子ども達は追い抜けません。私だって勝たねばならないのです。
そしてカーブを抜けるとスピードをなるべく殺さないように、コースを大きく斜めに走って、バトンゾーンに飛び込み、3位でバトンを次の走者に渡しました。
レースは大きく抜かれるかと思うと、また抜き返すという抜きつ抜かれつの展開でしたが、最後は2組が一着でゴールインしました。勝っても負けても滉燿くん一人のせいにはならない展開です。おまけに一着なので良かった良かったと私はホッとしました。
ダンスの場面では、滉燿くんはリズムに合わせてポンポンを上げたり、横に開いたりしていました。もちろん全部は踊り切れていません。ですが、昨年は、ちょっと手を動かしていただけでしたが、今年は、明らかにリズムに合わせているようです。これも滉燿くんの成長だと驚きました。
私が来てから3回目の運動会は、滉燿くんの属する桃色チームが優勝していました。何とこれで4連勝だそうです。良い感じ!でした。
続編 立 ち 上 が れ 滉 燿 くん ! ~明日を信じた5年間~ 8(2) 立ってバランスを取り始めた滉耀くん。足し算に挑戦!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?