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立ち上がれ滉燿くん ! ~明日を信じた5年間~ 7(1)-① 4年生スタート ! 研究授業って何? ぶつかった壁! これからどうなるんだろう? 



 滉燿くんは4年生になりました。リハビリ訓練は続いています。嬉しい援軍が現る! 先生がやっている研修=研究授業を知っていますか?  訓練の壁にぶつかりました。 卒業までに歩かせる事など無理かな?
                                                                      
4年生1学期(2006年 H18年)


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37  4年生になったよ

 平成18年4月、滉燿くんは4年生になりました。交流学級は、3年2組がそのまま持ち上がり学級で4年2組でした。担任の先生は同じく西本先生です。今度の4年生の学級は、色々な理由から北校舎と呼ばれる職員室から一番離れた校舎の1階になりました。 これはバギーの滉燿くんとそのお世話をする私にとって、とっても助かりました。さらに、なかよし4組の中庭をはさんだ隣の校舎で同じ1階です。お陰で、誰の手も借りずにバギーを押してスーイッと行けます。バギーや滉燿くんを人の手を借りて、ヨイショ、ヨイショと2階へと抱え上げていた昨年までとは大違いでした。
 なかよし学級の担任は、兵藤先生、島先生と私に加えて白井智子先生です。昨年より子どもの人数が減って18人の4クラスでスタートです。

 新しい学年が始まりました。始業式の日、滉燿くんの身体を触ってみて、膝や足首をはじめ、状態がとても良好であることに満足していました。特に固くなっている部位は有りません。腰を支えて立たせると、僅かな補助の力でスッと立ちます。

 これからは、始業式や学年集会の場で、滉燿くんを積極的にバギーから降ろして、自分の足で立って参加させるつもりでした。
 
今年は、立って歩く段階に来たのです。
 友達は滉燿くんが意外に背が高いのに驚きます。バギーに乗っている時は小さく感じますので、滉燿くんは学年で1番小さい子だと考えていました。
「滉燿くんは、田中君と同じくらいの背の高さじゃないか?」
 隣の子を突っついて、ささやく子もいます。

 その日の午後、私に突然嘉穂養護学校から電話がかかってきました。
「辻塚せんせー、覚えていますか?西木です」
 西木幸司君からでした。西木君は同じ肢体不自由児教育教員養成課程の2学年下の後輩でした。障がい児のキャンプや動作訓練のサークルで一緒でした。リハビリの勉強を続けてスーパーバイザーの資格を取り、立派な先生になっているという話を聞いていました。
 だいぶ前に会った時に、
「先輩、夫婦仲に関しては…、嫁さんに上手に尻に敷かれないといかんとですよ・・・」
 温厚な性格でした(笑)。
「実はですね。今度、嘉穂養護学校に転勤で来たんですよ。それで、辻塚先生にご挨拶をと思いまして、電話しました」
 もう随分と会っていない先輩に、わざわざ電話をかけてきてくれるなんて・・・。
「ありがとう。実は今、重度重複障がいの子を受け持っているんだ。訓練がうまくいってね、介助しないと動けない子どもが、腰を支えれば歩けるようになってきたんだ。西木君にも一度見てほしいね」
「そんな重度重複の子がですか?さすが辻塚先輩ですね。ぜひ見せてください」
 西木君からの電話は嬉しい援軍の電話でした。


38  研究授業は何をすれば良い?


「子どもが帰った後は、先生達は楽ですね」
 以前、よく言われていました。
 しかし、
先生達は、子ども達が帰ると仕事が終わりになりません。

 明日の授業の用意や事務があって、結構遅くまで学校に残って仕事をしている先生が多いです。

   家族の食事や子育てなど家庭の仕事がある先生は、勤務時間終了になると帰宅する事が多いのですが、
そんな場合、
自宅に仕事を持ち帰って、家庭の仕事が終わった後で、遅くまでかかって仕事を済ませている場合が多いでのす。


 研修も沢山有ります。研修の中で最大のものは研究授業(公開授業)です。
 研究授業とは、皆さんも覚えが有りませんか?担任以外の先生達が沢山来て、何かメモを取りながら見ていく授業です。先生も子ども達も、ちょっと緊張して授業をやっていませんか?大抵の学校では、一年間に1回くらい研究授業が有ります。大規模になると、日本中から、たくさんの先生達がやって来ての発表会という場合もあります。
 いい加減なことをやっていると、後の検討会で厳しく追求されます。
 昨年、筑豊教育事務所の指導主事が来て、授業を見てもらうという研修会が有りました。この時に、私はなかよし学級の代表として授業をしました。それはリハビリ訓練を見てもらっていたので、勉強(学習)の場面ではありません。今年は勉強の授業を見せることになりました。

 どんな場面を見せたら良いのか?頭を抱え込みました。普段通りやれば良いじゃないかですって?それはそうですが、研究授業は見せ場を見てもらいます。見に来た先生達に『今日の授業は面白かった。見に来て良かった』と思わせなければなりません。授業というものは、子ども達がアイデアを出し合い、話し合い、試行錯誤の末に『わかった』という場面がおもしろく、工夫のしがいがあります。ドリル練習をやっている授業を見ても、他の先生の役には立ちません。『何だー』です。
 滉燿くんが一時間の授業の中で、試行錯誤の上に何かが出来るようになる。そんな他の先生が見て喜ぶような授業が出来るとは思えませんでした。
 私は普通小学校では主として理科の授業の研究をやっていました。
  理科研究会の県大会で、筑豊地区の代表として発表したこともあります。
   
それで下手な授業は出来ません。妙なプライドもありました。


 今年のなかよし学級では、生活単元学習の授業を公開することになっていました。生活単元学習の授業を通して、子ども達の自信とやる気を育てるのが大きな目的です。どんな工夫をしたかを見せます。
 私は困りました。滉燿くんの障がいが重いので、普通の授業の方法は、ほとんど成り立ちません。滉燿くん向きの授業を自分で考え、滉燿くんスペシャルとでも言うような勉強法でやって来ました。「生活単元の授業で」と絞られると、他の先生達に「今日の授業は良かったね」と言われるような授業をしてみせることは、ほとんど無理でした。
 滉燿くんは、ごく単純な事しか出来ません。通常の授業で行われている何か手だてを打てば、子ども達が学習内容を理解できたというオーソドックスなパターンは取りにくいのです。

 さらに、悪いことに、私の体調が万全ではありません。こん詰めるような仕事は避けなければなりません。何日も頭を振り絞って書く授業の指導案を書く自信が有りませんでした。

これまでに、市内の先生が見に来るレベルの研究授業をした事もあります。

 
普通なら、校内の研究授業なんて平気の平左です。でも、今は体の調子があまり良くありません。どんな授業を見せると良いか頭を抱え込みました。
「先生、滉燿くんの出来る様になった事を見せようという発表会の形にしたらどうですか?」
 同学年の白井智子先生が、アイディアを出してくれました。
「私は、1・2年生の時に同学年だったから良く分かるんですけど・・・、動けなかった滉燿くんは出来ることが凄くいっぱい増えているじゃないですか。それを先生達に見せる発表会を開いて、その取り組みを生活単元の授業にすれば良いじゃないですか」
 なるほど、出来るようになった事は沢山あるのですから、それを見せれば良いのです。これなら何とかなりそうです。私は秋に予定されている研究授業はこれで行くことにしました。


続編 立 ち 上 が れ 滉 燿 くん ! ~明日を信じた5年間~7(1) -②ぶつかった訓練の壁


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