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立 ち 上 が れ 滉 燿 くん ! ~明日を信じた5年間~ 11 最終章(4) 学校は運動会練習一色!
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小学校のイメージは1年生~4年生の子どもの姿でしょう。しかし、高学年(5・6年)の担任の技術や苦労やキツさは段違いです。先生としての力量が問われます。
68 運動会の練習開始
この年の6月は例年と違っていました。夏休みから9月にかけて校舎の耐震工事が入ったために、毎年10月の第一日曜日に行われる運動会が、6月1日(日)にあることになりました。どの学年も練習に大わらわです。
5月というのに気温はグングン上がり、夏のような暑さで熱中症が心配されています。そんな中、運動会の練習で運動場に出た私は、子ども達の中に見慣れない若い女の人がいることに気づきました。彼女は近寄って来ると名刺を渡してくれました。
「○○新聞のものですが、暑い中でも子どもたちが、元気に運動会練習をしている様子を取材にきました」
明るく挨拶します。
「はい、子ども達は元気ですけれど、熱中症が心配ですね」
どんな記事になるのかわかりませんが、相手する余裕はありません。
最初はリレーの練習です。滉燿くんをはじめ、なかよし学級の子どもたちのリレー順は、スタートという了解がありました。昨年の様に中段で走って、バトンを次の人に渡せば文句は出ないでしょう。
これまでのようにスタートラインに滉燿くんのバギーを並べようとすると、練習を見に来ていたなかよし学級の3人の先生に呼び止められました。
「辻塚先生、バギーと他の子ども達が一緒に走るとあぶないから、トラックの一番外側を走ってね」
これまでは、普通学級の子どもたちの体力・走力はたいしたことはなかったので、私がバギーを押して走ってもビリケツにはなりませんでした。昨年の様に子ども達が走っている少し横を4・5番目位になるよう走れば良いと思っていました。
しかし、今年は子どもたちの足が速くなっている。滉燿くんのバギーが子ども達の中に入ると危ないし、バギーを追い抜くのも外側を大きく回らなければならないから不利だ。子ども達の中からも「また滉燿くんが一番」という声が上がっているとも言われました。
「えっ?」
滉燿くんが1番だったのは2年生の時だけで、あとは3番か4番でした。そんな声が誰から上がっているのか疑問です。昨年は、子ども達が速い子から遅い子まで一列になって走っている右横をバギーは走りました。トラックの一番外側を走らねばならないほど危険ではないはず。
それに「また滉燿くんが一番」などと、一緒に走った子どもたちから聞いたことありません。多少、ムッとしました。この言葉から想像すると滉燿くんへの風向きが変わっていました。お客さん待遇だったのが、一員としての公平な役割を要求されるようになっていたのでしょう。
しかし、前を走っている子が転けたら、滉燿くんのバギーは追突するかもしれません。ひょっとしたら、かなりの怪我をするかもしれません。安全を考えるとやむをえません。6年生の先生達は何も言っていませんが、なかよし学級の先生達の意見に従って外側を走ることにしました。
スタートしましたが、外側走行では、走力のついた6年生の子どもたちを相手に勝てるはずありません。大きく遅れて第2走者にバトンを渡しました。何も知らない滉燿くんは、ご機嫌で手を打って笑っています。リレーは半周で次々とバトンパスされていきますが、スタートで離された私たちのチームは追いつけませんでした。
「もう、先生がゆっくり走ったから負けた」
最下位でゴールしたアンカーを見て、同じチームの女の子に言われてしまいました。彼女は6年2組の中でも滉燿くんには親切でおしゃべり好きの仲良しでしたが、子どもの勝負へのこだわりは捨てきれなかったようです。
『ゆっくり走ったんじゃあなかったのに・・・』
運動会の練習は進んでいましたが、体が大きくなりバギーも大きくなった滉燿くんが、6年生になってパワーの上がった子ども達が、一緒に走ったり踊ったり競技をすることの危険性が問題になり始めていました。
ダンスの練習も始まっています。6年生のダンスは「よさこいソーラン節」です。踊った人は分かると思います。体の動きが大きく素早く動き、踊っている体形も変化があるという小学生にはちょっと難しいものです。それだけに完成すれば見事なものになりますが練習は大変です。
練習が毎日続いたその日は金曜日でした。5校時は運上場で、6校時は体育館で、と連続練習時間が組まれていました。6校時、5校時の練習を運動場をした6年生達は、暑い体育館で並んで座っていました。どの子も疲れた顔をしています。先生達は、まだ来ていません。体育館の横を5時間目で終わる1年生達が明るい笑い声をたてて楽しそうに下校していくのがわかります。
「今日は金曜日だ。それも6校時だ。疲れているし暑い。でも明日は休みだし、頑張って6年生の先生達をこれなら大丈夫と安心させて帰ってくれ」
私なりの檄をとばしました。しかし、子ども達の疲れた顔はあがりません。体操座りをしながら床を見つめています。これはいかんなと思っていると、6年生の先生たちが何か相談しながら体育館に入ってきました。
「それじゃー練習を始めるよう~」
学年主任の坂本先生は言いながら、子ども達を三列横隊のよさこいソーラン節の体形にします。
坂本先生がラジオカセットのボタンを押します。
「どっこいショーどっこいショー」
よさこいソーラン節が始まります。でも6年生の顔は疲れたままで、体の動きも切れがありません。一言で言えばだらけています。
「ダダダ、ダダダ、ヤー」
だらけたダンスが終わりました。
「それじゃーね。今からステージの上で上手な人たちに見本を見せてもらうから、上手な人をだれか推薦してよ」
坂本先生が生徒の顔を見回しました。あちこちから
「中村さんがうまい」
「渡部君」
推薦の声があがります。坂本先生は呼ばれた子を手招きして、ステージにかかっている階段から上にあげます。呼ばれた子ども達は、ちょっと嬉しそうに、でも照れたように上がっていきます。最低限の人数が揃ったところで、坂本先生はステージの上の子ども達をダンスの開始の形、三列横隊に「適当に」並べました。音楽がかかり始めます。
「どっこいショーどっこいショ」
「そーらんそーらん」
ステージの上の子ども達は一糸乱れずに踊ります。体形が変わるところでも、素早く目と目で、ものを言って変化しています。打ち合わせも無く、みんな初めてのポジションなのに間違いなく踊っています。
「ダッダッダッダッダ、ヤーッ」
決まった!ダンスは完璧です!
ステージの上の子は、どの子の顔もきらめいています。
「どーう。みんな?」
坂本先生が振り返って体育館に座っている子ども達に聞きました。
「わかったー?ステージの上の人たちは、変化の時でも素早く顔を見合って、ポジションを決めていたろう。これは自分のところだけ、やっていたんじゃ無くて全体を見ながらやっていた証拠だね。先頭にいる山崎君は初めてのポジションだね。でも出来た。みんな負けずに頑張ろうや」
先生はステージの上の子達を元に戻し、開始の体形にしました。
「さあ、今日はこれが最後」
音楽スタート!
「どっこいショーどっこいショ」
子ども達は真剣でした。疲れた顔などありません。
「凄い」
坂本先生の指導力に舌をまいていました。さすが、高学年を担任する先生の力量です。
※私も高学年がほとんどでした(^▽^)
翌週の月曜日、滉燿くんを帰した放課後、職員室に戻った私は、がやがや打ち合わせをしている先生達の中に6年生の担任3人の姿が無いのに気づきました。きっと教室で準備しているに違いありません。
3階の6年生の教室へ上がっていきます。6年2組の教室に入ると3人が作業をしています。よさこいソーラン節の法被を作っています。寄っていって見ると、給食の配膳台の上で黒い法被の背中に、「祭」と切り抜いた型紙を押し当てて、白いポスターカラーを溶かした塗料が着いたローラを転がして文字を描いています。新聞紙を敷いた床には出来上がった法被を乾かすために並べられていました。
「大変だね。今日中に終わりそう?この法被どうしたの?」
「うん、今ね家庭科室でお母さん達が4人でミシンをかけて作ってもらっているの」
「174人分か」
演技は3~4分ですが、少しでも見栄えが良いものにと、先生達は頑張るんです!
その翌日の昼休み、6年2組の女子6人が滉燿くんの法被をもってきてくれました。昨日見た背中の「祭」の文字の他に、襟の部分にひらがなで「おくむらこうよう」という赤いアップリケで作った文字が貼られていました。滉燿くんの所属の桃色のはちまきもあります。はちまきも6年生の先生が作ったのに違いありません。嬉しくなって女の子達と滉燿くんと一緒に記念写真を撮りました。
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続編 立 ち 上 が れ 滉 燿 くん ! ~明日を信じた5年間~ 11 最終章(5) 滉耀くんは、今年の運動会のサプライズ!?へはこちら