立 ち 上 が れ 滉 燿 くん ! ~明日を信じた5年間~ 6 君も仲間だ!滉燿くん!身体だけで無く勉強も伸びて来ました!
リハビリ訓練は身体の機能回復です。しかし、知的な面でも効果が出てきました!絵本を読む。ブロック落とし。パズル製作。そして数の認識も向上!
2年生3学期(2006年 H18年)
前編 立ち上がれ滉燿 くん ! ~明日を信じた5年間~ 5 歩行訓練に入ると知的な面でも向上して来ました! へはこちら
33 右、左、右、左!
明けて2006年です。
歩行器の訓練で変化が始まりました。いつもの様に、訓練の一番最後に、滉燿くんを歩行器に乗せて歩かせます。すると,
足を右、左、右、左と交互に使って歩いているではありませんか!
これまでも時々右左交互に足を使って歩くことは有りましたが、それはたまたまという感じでした。
しかし、
今度は違います!たまたまなどではありません!
十中八九の割合で右、左と歩きます。後の2割くらいが両足になっていますが、そんなの目じゃない!
今までにない進歩!
驚いていると、翌日から滉燿くんの歩き方は、みるみる良くなってきました。しっかりと左右交互に足が出るようになりました。しかも、前に足をやるのが、パタンと音がするくらいに勢も良いです。
同時に
私が支えてやる歩行訓練もしっかりと足が出る
ようになりました。
「ほんとう、滉燿くん脚が右左と出ようねー」
練習中にすれ違う先生達は、驚きながらほめてくれてました。
34 松田先生との訓練
1月20日に、隣町の稲築町(現嘉麻市)にある県立の嘉穂養護学校の松田先生に伊岐須小学校に来てもらって、訓練の状態を見てもらいました。
松田先生は、筑豊地区の障がい児教育の相談係をしています。また、私と同じ動作訓練のトレーナーの資格を持っていますので、訓練関係の相談が出来ました。本当は、もっと早く来てもらいたかったのですが、なかなかお互いの都合が合わずに、この日になりました。
松田先生は体が縦横大きい先生です。でも、ゆったりとした動作と穏やかな笑顔で養護学校のベテランの先生という感じでした。
先生は、滉燿くんの勉強ぶりや訓練の様子を丁寧に見ていましたが、訓練の中で胸と背中の緊張に注目して、ここを緩める方法を一緒に考えてくれました。松田先生が滉燿くんの胸をぐっと伸ばして、正しい形にもっていって形が決まると、滉燿くんは私の方を見てOKサインを出します。
「この子は動作が成功すると先生の方を見て同意を求めますね。人とのつながりが嬉しい子なんだな」
松田先生は面白がっています。
「それに、二年足らずで、介助しないと動けなかったという子が、こんなに改善するとは・・・」
うーんと首を捻ります。専門的な先生から見ても、滉燿くんの進歩ぶりは素晴らしい様です。
「身体の改善はもっと進むと思います。それに加えて、これまでの寝転がっていた状態から、立つと視界が広がるし、物の陰で見えない物でも、体を少し動かして見るといった積極的な行動を促すことになる。また、立ち上がった結果、手が使えるようになる。手が使えると言うことは、脳の発達にも良い刺激になるはずです」
私達には本当に嬉しい事を言ってくれました。
35 勉強も前進します
松田先生の言葉通り、滉燿くんの知的な面も急上昇が見られ始めていました。数字カードの勉強をしている時に、5個並べたカードの中から言われた数字のカードを取る勉強をしていました。いつもなら言われたカードを一番に取って、さらに、他のカードも全部取ってしまう滉燿くんでしたが、言われた数字のカードだけを取って、手渡してくれるようになりました。
「それでは、これは出来るかな?」
1~10までの数字カードをバラバラに机の上に置きます。
「滉燿くん、1はどれかな?」
滉燿くんは1のカードを指で押さえます。滉燿くんと私は一緒にカードを指で押さえたまま、カードを滉燿くんから見て机の左の方へと、ズルズルと動かします。
「1の次は何?」
滉燿くんは2のカードを指でズルズルともってきます。
「次は、次は?」
滉燿くんは1~10までのカードを並べてしまうことが出来きました!逆も同じ要領で、10のカードを最初に置かせて問いかけます。
「10の前は何?」
9からの数字カードを順にもってきて10~1まで並べる事が出来ました。
おはじきの数を数えることも上手になってきました。例えば、私がおはじきを3個机の上に並べてから尋ねます。
「滉燿くん、おはじき何個ある?」
一つ一つおはじきを指差して数えます。
「3個」
指文字で答えてくれます!
この数えの勉強は以前は3個が限界でしたが、3学期からは6個まで間違いなく数えることが出来るようになりました。時には10個も数えますが、次にやらせると間違えていましたので、実力は6個というところでしょう。
もう少し欲張って頼みます。
「滉燿くん、この6個から2つちょうだい」
直ぐに2個取ってくれますが、続けて残りのおはじきも取ってくれるのでした(笑)。
手の使い方も上手になってきました。正しい名前は知らないのですが、勝手に「ブロック落とし」と名付けたおもちゃが有ります。
幼児用のプラスチックで出来たおもちゃで、四角形や三角形、星形、家の形、丸い筒の形などのブロックが有ります。そのブロックを入れるプラスチックで出来た球体があります。球体には、ブロックと同じ形をした穴が開いていますので、正しく選んでブロックを入れると、中にストンと落ち込んで成功!のおもちゃです。
これを手さきの訓練と算数の図形の勉強(?)を兼ねてやらせてみました。最初、滉燿くんは図形の穴がどこにあるのか分からずに困っていたので、滉燿くんに持たせたブロックの形を見て、同じ形の穴に入れやすいように、上に持ってやっていました。
滉燿くんにとって、自分で考えて四角いブロックの形と四角い穴の形(角)をうまく合わせて入れるという作業は難しかったのです。ひねったり回したりしながら押し込んでいると、形が偶然合った瞬間にパカッとはいるという具合でした。見ていると滉燿くんはブロックがパカッと入った瞬間に、ブロックを握ったまま固まります(笑い)。それから、慎重に手を広げるとブロックがストンと中に落ち込みます。
「えへーっ」
嬉しそうにOKサインを出します。こうしながら全部のブロックを入れていきました。一番簡単なのは円筒形をしたブロックです。これは何も考えることなくスコンと入れることが出来ました。円は角を合わせる必要が無く、一番簡単にはめ込むことが出来る形です。それで、マンホールのふたは丸いものが多いのです。この円に近い形、例えば八角形とか星形は入れやすく、逆に入れにくいのは、円から遠い形のT型とか家の様な形をしたブロックでした。こんな形は私も手を添えてブロックを少し回転させて手伝っていました。
何日間か練習した頃から、全然手伝わなくても、自分で全部のブロックを入れるようになりました。
ある日、別のなかよし学級の先生が出張になりました。そのクラスの子ども達を残った学級に分けて勉強を見ることになりました。私の学級にも二人来たので、滉燿くんにブロックをさせながら二人の子ども達を見ていました。2人の子ども達には、それぞれ自習課題として、算数や漢字のプリントが出されています。私は滉燿くんの机の前に座って、『ブロック落とし』の図形の勉強をさせます。『ブロック落とし』の球体が転がらないように支えてやっていたのですが、
「あれー、なんで?」
他の2人の子が、顔を上げて首を捻ったり、
「プリントできました。」
など言ってきたりすると、滉燿くんの前を離れて2人の子を見に行っています。
その間に滉燿くんは、私の手を借りること無く
片手で球体をつかみながら、手に持ったブロックと同じ穴を探し始めたのです!球体を片手でつかんでガチャガチャ音を立てて回して穴を探しています。穴を見つけるとブロックを押し込んで入れています。
手先の訓練を狙ってやっていたパズルも上手に出来るようになってきました。盤上にコアラや象、モンキーの絵がその形に切り抜いてあり、そこへ正しい取っ手のある絵のピースをはめ込むパズルです。これも、最初はピースを一個外して、滉燿くんにそれを入れさせるという一番簡単なレベルから始めました。
これも、形をピタリと合わさないとピースが入らないのですが、ブロックと同じく滉燿くんは少しずつピースを回しながらはめ込んでいました。ピースを動かしていたら偶然入ったという程度です。一個をはめ込んでいくという作業が十分出来るようになったので、ピースを同時に2つ外して、はめ込む作業をやらせることにしました。
ここでちょっと工夫をして、2つのピースの違いが明らかに分かるような組み合わせを考えました。例えば、一番大きな像のピースと一番小さなモンキーのピースを組み合わせます。大きな穴に小さなピースをはめ込もうとすると、隙間が大きく空いて違っていることが分かります。逆に、小さな穴に大きなピースをはめ込もうとしても入りません。この様な仕組みになっていますので、指示したり手伝ったりは必要ありません。少し考えれば分かるような工夫をさりげなく入れました。自信とやる気を起こさせるつもりです。課題が出来るようになったら、次に、似たような大きさ・形のピース同士を組み合わせる。その次は3つのピースを使ってやってみる。と少しずつレベルを上げて練習をしていきました。
36 君も仲間だ!滉燿くん
3月の終わり頃、3年2組の西本先生からこんな話を聞かされました。
「今日ね。図工の時間に3年生の思い出の出来事を描こうのテーマで、白い紙で作ったバッグ(作品入れ)に3年生の思い出を描かせたのよ。そしたら、スーパーマーケットを見学を描いてる男の子がいるの。それが面白い事に、列を作って3の2がスーパーに向かっている場面だけれど、先頭をでっかい棒人間が歩いていて、これは私(西本先生)。その後ろを生徒の少し小さい40人の棒人間が歩いているんだけれど、列の最後にバギーに乗った棒人間とそれを押す先生の棒人間がちゃんと描いてあるのよ」
嬉しそうに教えてくれました。さらに翌日、
「先生、例の3年生の思い出を描いた紙で作ったバッグだけど、他の子の作品を見ていたの。そしたら、6年生とのお別れ会で、3年生が、かさ地蔵の簡単な劇をやったでしょう。滉燿くんは手ぬぐいを被せられるお地蔵さん役だったよね。手ぬぐいかぶったお地蔵さんが、バギーに乗っているところを描いている子もいたのよ」
「へー!」
私は感心しました。滉燿くんが3年生と一緒に出来ることは少ないので、交流学級との勉強の場の時間は余り取れません。でも、3の2の学級の子ども達は、滉燿くんをちゃんと学級の一員と考えてくれていたのです!西本先生は一年間学級の子ども達と奮闘していましたが、そのかいあって学級の子ども達の意識がしっかりと育っていたのです。
私は嬉しくなって、絵を描いてくれた子ども達(4人)に、なかよし4組の教室に来てもらいました。完成した作品を持って滉燿くんと記念撮影を撮りました。みんなニコニコ顔でした。
この3学期は、滉燿くんができるようになったことが増えました。通知表の3学期の所見欄に「ジャンプアップの3学期でした」と書き込みました。
教室の外は早春から春本番へと移りかけていました。
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