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食品業界の商品開発組織概要(ベータ版)

こんにちは。

私は大企業や中規模企業にて食品(主に飲料)の商品開発を14年、コンサルティングを2年やってきました。
特に大企業と中規模企業では、同じ商品開発組織でも開発フローや意思決定プロセスなどが大きく違い、驚きを覚えたことを今でも覚えています。

そんな経験を踏まえ、今まで自分の頭の中で漠然と思っていたことを、一度アウトプットしてみようと思いこのnoteを書いてみました。

※なお、内容についてはあくまで個人の経験に基づくn=1の感想であり、持論も含みます。内容はすべての企業・開発組織に当てはまるものではありませんので、ご了承ください。

食品の商品開発組織とは

ここでは、食品業界の商品開発組織を「商品の処方設計、スケールアップアセスメント、原料選定」を主に行う組織のことを指します。

商品企画やマーケティングは含みません。


存在意義

最も大きな意義は「商品の原料選定、処方設計、スケールアップに向けたアセスメント」を行うことです。

これに必要な情報やノウハウを日々集め、食品企業での肝となる「処方、技術」情報を蓄積する部門でもあります。

自社内で商品開発部門を持つことは、これらの情報を自社で確保することでもあります。
外部に頼らず、自社内に情報が蓄積されることは、企業にとって大きな財産です。


組織体制

部門長を筆頭に、チームを率いるマネージャー、その下に処方開発者という階層が一般的ですが、その階層の数は企業規模によっても異なります。

部門長の上は本部長等の役員クラスになりますな、商品開発担当役員は生産技術系の役員の場合もありますし、営業・マーケティング系の役員の場合もあります。

このあたりは、会社が商品開発組織をどの部署と紐付けたいかによっても変わってきます。


組織目標

生産技術系役員管轄ですと、工場や生産管理などの視点からの組織目標がら立てられる傾向にあります。
例えば、「全工場における、処方由来の品質事故0件」や「処方由来の生産遅延の発生率○ppm」等です。

一方、マーケティング系役員管轄ですと、営業やマーケティング戦略の視点から組織目標が立てられる傾向にあります。
例えば、「xx調査におけるリピート率○%」や「ターゲット層購入意向○%」等です。

ただ、どちらかだけに目標が偏ることはあまりなく、重視する強弱はありますが、おおむね「事故なく生産できて、お客様に美味しいと思ってもらえる商品を作る」というのが大目標にはなります。


ステークホルダー

研究所に篭りきりかと思いきや、意外と社内外の部門との接点は多いのが商品開発部門。

目標香味の設定や原価設定は商品企画部門と。
処方に使う原料の選定や調達は、資材調達部門と。
処方安全性については品質保証部門と。
スケールアップについては生産技術部門や工場と。

また原料メーカーの方とはほぼ毎日やり取りをします。

なので、コミュニケーション能力はかなり求められます。


大企業と中規模企業における商品開発組織の違い

大企業の商品開発組織

ここでイメージする「大企業の商品開発組織」は、直接処方設計に関わるメンバーが50人以上はいる組織。

ここは端的に表現するなら「安全性と効率を極めた」組織です。

ネームバリューのある大企業には優秀な上にコミュニケーション能力も高い人が多いので、過去数十年にわたる(失敗も含めた)事例が蓄積されてあり、その上でベストな方法が議論されて、開発フローや組織ルールが作られています。
いわば完全に整備された組織。
優秀な人材が多く、教育制度も散々議論されて着地しているので、教育コストも相対的に下げられます。

一方、過去に色んな事故事例があるのも大企業の常。
その都度「再発防止策」としてルールや内規が増え、ディフェンス組織(品質保証等の部門)の発言権が強くなり。
気付けば処方設計や原料選定の基準はどんどん狭まるばかり。
新規原料を採用しようとすると、めちゃくちゃ安全・品質確認に時間も労力もかかる始末。

これにより、いわゆる「自由度がない」商品開発組織になりつつあるのが、大企業です。

もちろん安全第一なのは理解できる。
でも、他企業が採用できる原料も自社では使えなかったり、「よそはよそ、うちはうち」と言われると、もはや新規原料を採用したい、新しい技術に挑戦したい、というやる気を削ぐことにも繋がりかねない。
そこが、大企業のデメリットでもある気がします。

ただ、ここは組織リーダーである部門長の腕の見せ所でもあります。
ルールが多い中で、メンバーをどうモチベートして新技術開発や新規素材採用に繋げ、価値ある商品を開発し続けることが出来るか。

ディフェンスとオフェンスのバランスが取れる人がリーダーにいると、大企業の商品開発も楽しくできる都おもいます。


中規模企業の商品開発組織

イメージは処方設計メンバーが10人程度かそれ以下の商品開発組織。

ここは、個人の開発能力に依存しまくっている「個人商店」の組織です。

大企業と違って、ゼロから新人開発者を育てるコストも労力も割けないので、基本的に開発者は中途採用。もちろん処方設計者としてのキャリアが豊富で、自身で色んなリスク含めた判断まで出来ることが前提で採用されます。

なので、ここに入るとその担当ジャンル(食品種)の開発ではかなりの発言権と裁量権を持つことが出来ます。
ここは、経験のある開発者にとっては非常にやりがいがある部分だと思います。

自分の過去の知見と経験を総動員し、自分が納得のいく処方を作れる。開発者にとってはその達成感は非常に大きいと思います。

一方で、その分リスクも背負うことになります。
なにしろその食品種類の中で経験者が自分しかいない場合、相談相手が「他ジャンルの食品は開発したことあるメンバー」になってしまいます。
「あれ、あの法律の解釈って…」とか「確かあの原料はこういうリスクがあった気がする…」と言ったことも、同じ土俵で相談できる相手がいないので、ひたすら自分で調べまくり、情報を揃えて上司と一緒に判断することになります。

上司がその道のプロでないこともザラなので、ほぼ自分の判断に上司がのっかる形になることも。
バリバリ責任が重いですよね。笑


また、大手企業にいた頃は相手にしてくれていた原料メーカーさんが、つれなくなります。笑
これはもう取引量が全然違うのでしょうがないんですが、少し寂しい気持ちにはなるでしょう。


組織を成熟させるために必要なこと

大企業の場合

もはや成熟した組織なので特別に何か必要ということもないかと思いきや、意外とあります。

昔は「新卒で入った会社に骨埋める」みたいなのが当たり前でしたが、今は令和。

転職市場もどんどん大きくなり、副業という選択肢も出てきています。

そんな中、自社でゼロからお金と時間をかけて一生懸命育成した開発員を、みすみす他社に取られるわけには行きません。

例えば副業解禁。
あくまで業務時間外で、という制限をつければ自社の仕事には影響なく、開発者がいろんな経験をよそで積んできてくれます。
これは開発者の能力向上としてアリなんじゃないかなと、個人的には思います。

また企業側としても、なんとなく社内で燻ってる開発者がすぐ転職という選択肢をとらず、いったん副業で外の世界を見てみて、あらためて「今の会社っていい会社なんだな」と思ってもらえる可能性が充分にあると思います。

大企業の中にいるとつい忘れがちですが、やはり働き方と給与の面では大企業は強いです。
これは開発組織の社員にとっても同じ。

ある程度の自由さを副業で見出してもらって、経験も積んでもらえると、開発者としての満足度も上がると思います。


中小企業の場合

中小企業の開発組織はまだまだ発展途上です。
その企業の規模にもよりますが、ある程度人が集まって何となく開発組織として機能するようになったなと感じたら、「知見・ルールの平準化と蓄積」の視点を考えてみると良いかと思います。

先に述べたように、小さな開発組織では個人の能力に依存しまくりの開発フローになっているところがほとんどです。
でも人数が増えてくると、「あの人とこの人ではやり方が違う」ということが出てきます。
特に開発フロー、ルールなどに差が出ると、関係部署の人も混乱します。

なので、「誰でも同じ開発フローを遵守する」ことが、今後組織を大きくし、人を増やして管理していく上では重要です。

同時に、人によってノウハウや知見に差があると「あの人が開発するとこうだけど、この人は違う」ということになります。
これは商品の品質を担保するのを困難にし、なんなら商品企画部門から「あの人に開発してほしい」といった要望が来たりして、せっかく人数増やしたのに忙しいのはいつも同じ人、ということになったりもします。

そうならないために、知見を組織内で標準化して水平展開する仕組み、またきちんと組織内に地検が貯まる仕組み(ノウハウや重要情報を、PCの個人フォルダに保管するなんてもってのほかです)は、早めに検討した方が後々楽です。


組織内におけるキャリアアップ

大企業総合職として採用された場合

大企業の場合、商品開発部門に配属された先輩がどのようなキャリアを歩むのか、事例が色々あると思います。

企業によって異なりますが、数年で工場配属になり、その後本社の生産管理部門に異動するケースや、英語ができれば海外の拠点(工場、研究所)への異動があります。
また、ずっと商品開発部門で働き続ける企業もあるでしょう。

いずれにせよ、大企業というある程度分業化されて職種がきっちり分かれている企業では、いわるゆ理系・技術職(研究職)として採用されて、その中でキャリアアップしていく形が一般的です。


ベンチャー〜中規模企業の場合

企業自体がそれほど大きくない場合、職制がきっちり分かれておらず全然関係ないところに異動もありえる場合と、海外企業のように採用された部署でずっと働く場合があります。
ただいずれにせよ、「キャリア開発」という視点を会社側が考えてくれる余裕はないので、自分の立ち位置とポジションは常に見極めながらキャリアを考える必要はあると思います。


新しく商品開発組織を立ち上げる

まず必要なこと

先にも述べましたが、「商品開発のフロー、ルール」の言語化をしましょう。
自分1人しかいなくてもやってください。
また言語化した内容は、開発に携わる関連部署の方(マーケ、企画、品質保証等)とも合意します。

もちろん、内容は後々変わることもあるでしょう。というか、変わることになります。
でも後から人が増えた時に平準化するより、人数少ないうちにやっておいた方が絶対に楽です。

まず最初に「うちの商品開発は、こうやってやるんです。ルールはこうです」を明確にしておきましょう。


組織拡大時の注意点

組織規模が10人を超えるくらいまでは、中途採用のみが無難です。
中途の場合、商品開発経験は持っていても詳細なバックグラウンドはバラバラなので、そんな時にも上述した「商品開発フローとルール」は役立ちます。

中途採用だと、過去の経験から「もっとこうした方がいいのでは?」と言った意見やアイデアも期待でき、議論する中でより良いフローや運用しやすいルールに変更されていき、組織の骨が洗練されていくことも期待できます。


また、組織拡大時とはいえ退職者が出ることも大いにあります。
その場合、焦ってレベルの低い人を採用したり、社内で処方開発経験のない人を頭数合わせで呼んでくると、かえって現場は混乱して不要な労力を割くことになります。
処方開発は知識も必要なので、教えたらすぐ出来るものでもありません。

そういう場合は、多少の出費にはなりますが、ちゃんと予算をとって一部業務を外部に委託することも良いと思います。

今は、小規模試作や調査、安定性試験などを代行してくれる企業も増えてきました。
そういった委託先をいくつか持っておくと、不安定な小規模組織でも安心材料になると思います。


最後に

今回は食品の商品開発組織について、大企業と中小企業の違いを織り込みながら書いてみました。
私はどちらも経験していますが、どちらがいいとか、お勧めとかはありません。
でも、一言で商品開発組織といっても、色んな視点や考え方があるんだな、というところが少しでもお伝えできれば良いなと思います。

もちろん、私が書いたことが正解とかでもありません。色んな考え方があると思いますので、コメント等頂けますと幸いです。

また食品の商品開発、商品開発組織についての個別ご相談も承っております(初回無料)。

長文お読みくださり、ありがとうございました。

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