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小説版『ドラゴンクエストⅣ』に見る、密やかな描写の話
ファミコン時代の傑作RPGのひとつと言える
『ドラゴンクエストⅣ』には小説版があることはご存知でしょうか
著者は久美沙織さん、挿画はいのまたむつみさん、
こちらの小説版ドラゴンクエストは原作にあたる『ドラゴンクエストⅣ』の傑作ぶりに並び立つ、自分が心から愛してやまない小説です
この小説の魅力は限りなくあります
原作のゲームの5章編成になっている雰囲気をそのまま映したような変幻自在の文体、
久美沙織さんの手による、あの8名の内面の描写の巧みさと、攻めたオリジナリティ溢れるキャラクターの掘り下げ、
そして原作のゲームでは微塵も描かれなかった、ストーリーにおける最重要人物のピサロとロザリーの、魔界の王権を巡る権謀術数の物語…
ドラクエはストーリーに描かれない魅力的な余白が多くある作品で、プレイヤーひとりひとりの胸の中のドラクエってしっかり違う、そこが魅力だと考えてます
そこで、小説版ドラゴンクエストの何が魅力って、久美沙織さんの、
これが わたし のドラクエなの!
っていう気迫あふるる久美沙織節がめちゃくちゃいいんです
他のプレイヤーのイメージとか、なんだったら公式設定すらわりと飛び越えて攻めてる印象すらあります
ドラクエⅣをプレイした子どもの時分から、何度も何度も読み返して、その久美沙織節に自分の脳内ドラクエⅣが染まってしまったくらい、とても好きな小説です
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で、ここからが本題なんですけど
あの、久美沙織さんのドラクエ小説って
わりと性描写がしっかりあるんですよ
それがめっちゃいいんですよ
ドラクエってそれこそ、ファミコンの黎明期の初代の頃から性の匂わせがあって
きっと初代のドラクエをプレイしたことがない人でも知っている名セリフ
「ゆうべはおたのしみでしたね」
などに代表される長閑なおいろけの範囲から、よくよく大人になって考えると、凄く性的な暗示をされてると感じる箇所があったりと
子どもに何かを目覚めさせようとしているのでは? と邪推してしまいます
久美沙織さんのドラクエⅣにも子どもが一読しただけでは分からない性的なシーンがあって
それは、ピサロとロザリーのふたりの話の中にあるのです
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妖魔は少女を外套に包み込むと、彼女の丸くすべらかな頬に、おののくまぶたに、不平そうに付き出した唇に、氷の唇を這わせた
姫は、なお彼を拒み、時おりきつい視線で睨みさえした。だが、その癇癪を起こした顔が、徐々に戸惑うような表情に変わり、やがて小さな胸は、外からもはっきりとわかるほど、どきどきと高鳴りだした
世界は少女の内に溶け、沸騰し、散じてまた集った。
ロザリーが白い喉をのけぞらせると、密色の髪の編み込みを押さえていた宝石細工のピンがはずれた。滝のごとく流れ落ちた髪が、妖魔の黒装束に、黄金色の房飾りとなって輝いた
(51~52ページ)より引用
子どもの頃に初めて読んだ時は、じっくりキスをしてるんだな~くらいに思っていたのですが、
改めて読んでみると、白い喉をのけぞらせる、とか、髪が装束にこぼれ落ちる、とか
その…これ、いわゆる”最中”の描写ですよね
そしてこの文章中でのピサロとロザリーは、【妖魔】【少女】と表記され名前では呼ばれなくなります
これは『源氏物語』などでも見られる、性行為中の人物は、固有名詞で呼ばれなくなる法則です
こんな、対象年齢がおそらく子どもさんであろう小説にこんな美しく淫靡な描写を盛り込むなんて…
素晴らしい、素晴らしい…と感動してしまいました
という訳で何をお伝えしたいのかと言うと、
『源氏物語』を履修してから『小説版ドラゴンクエスト』を読むと胸熱なので、
Twitterでの #名刺代わりの小説10選 でもこの2作を上げたんですよね~っていう、めちゃくちゃ個人的な話です
どちらも傑作なので、是非ともご覧ください!