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『青鬼の褌を洗う女』 坂口安吾 感想

坂口安吾氏の作品は大半が青空文庫で読めるようになっており、この作品もネット上で閲覧が可能なのですが、何故だか独立した単行本になっているのを見つけたので、未読だったために読んでみました

タイトルからして、軽妙な昔話の翻案作品なのかと思ってたのですが、ぜんぜんそんなことはなく、自身をオメカケ(お妾)気質と呼ぶ享楽的な、しかし己の意志や感性に忠実な、あだっぽく逞しい女性の独白の物語です
作中でストーリーらしきことは大きくは起こらず、戦中のオメカケ志願の行く末と空襲の体験、己を支配し続けた母の逝去、戦後の未だに貧しい世間の中での贅沢なオメカケ暮らしを満喫するさま、そんなのびやかな日常の中で、己を妾として囲う男に有らん限りの愛情を向ける心を描いて幕切れになる
よくよく読めば、母の連れ込んだ愛人の男や、空襲の避難先などで様々な男に言い寄られるし、性暴力を受ける寸前にもなっている話なんですが、そうした男性を嫌悪するでも自身の性を憎むでもなく、そうしたことを突き詰めて考えて悩んだりもしておらず、男に甘える時は甘えるし要らないときは軽くいなす、その天然の媚態と情動のおもむく様を、言語によって描き出す
坂口安吾氏の作品は、読んでいて目が気持ち良くなるというか文体のグルーヴ感があって、音読にも適していそうで、特にこの作品は内容が内容だけに、とてもお上手な声優さんなどに朗読してもらうのが良いのではないか
語り手の女性とそれを囲う老年の旦那さん、その商売の上の右腕の切れ者で冷酷な男性、その男性が入れ込んでる事務員の女性、という4人が物語後半での面子なのですが、それぞれのキャラ立ちがよくて、でも語り手からの人物像の描写に終始して事件らしい事件は起きない話です でも面白い キャラ立ての描写が匠だからですね
あと細かい話なんですが、オメカケになってから、しがない相撲取りの男と一時的にプチ駆け落ちをする場面がありますが、そこまでに語られる相撲論がとても熱が入った内容で、あっけらかんとした物語の雰囲気の中でそこだけ妙に浮いてて好きです
坂口安吾氏、相撲好きなんだろうなってにんまりします

青空文庫のリンクはこちらです

https://www.aozora.gr.jp/cards/001095/files/42877_27761.html


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