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母国…


キズ

「優里、怪我したの? また、同じ様なところを擦りむいたね、なかなか治らないね。」と、母の沙羅が優しく絆創膏を貼ってくれた…。
 そんな母が今はいない。
  

歓喜の裏

 ニュースの新人キャスターの白川優里が、「オリンピック開催地が東京に決定しました。」と爽やかに読み上げ、映像はその日都庁に集まったオリンピック関係者の歓喜に満ちたものだった。

 白川の出身は東北の宮城県気仙沼で“あの時"に、両親と兄を失ってしまい自分だけが当時東京で大学生活していた…。
 そんな事はお構い無しに“東京オリンピック開催決定"を、ニュースキャスターとして紹介させられる。
 優里は“被災地復興すらしていない時に、何故オリンピックなの"と、不満と不安の混じり合う気持ちを内心思いながら渡された原稿を読んだ。

 時間の流れは止まらずに数年後、キャリアを積んだ優里が原稿を読み、映像はオリンピック開会式でマリオの姿をした人が現れて戯けている姿を映し出している…。

 そんな戯けたマリオ姿の男性を見て無情になり、帰宅して優里は電話した。
 「叔母さん、優里だけど…、おばあちゃんの様子はどう?」
 「優ちゃん久しぶりだね、毎日テレビで優ちゃん見て、おばあちゃんも気張って頑張るしかないからね…。」
 叔母の紗英は話を続け「戻って来る時は連絡して、違う町になってしまったからね、迷うかもしれないから…。」と、声のトーンは高く明るく話す声は、寂しさを遥かに超越した虚しさが伝わる。
 生まれ育ったあの町は、未だに傷跡を残したまま時間だけが静かに流れている。



新年を迎える日
 
 新年を迎えた日に、優里が上司から緊急招集がかけられた時に、緊急地震速報が放送されていた。
 プロデューサーの相葉颯太が「優里さん、“あの時の震災体験の関係者"として番組進行して下さい。」
 相葉のなんの感情も入っていない言葉に、一瞬で世の中の感情が理解出来た…、もうすでに“あの震災"は終わった事になっている。

「北陸の石川県能登半島で大きな地震が発生しました。 現場の高良さん!」と優里が話したけれども、高良は絶句したままだった。
 被害の大きさに加えて、映像班が上空から映し出したのは、高良の生まれ育った町そのものだった…。
 優里がもう一度「高良さん…」と、すると高良は「あー、町が…」と言ったまま再び絶句した。
 高良が絶句した“能登半島"の地震の報道が桜咲く季節から何故かあまり報道されなくなったけれども、地震前の様な生活がおくれるはずもなく、その日を生きていく事で精一杯なのは、何故なんだろか…?



誰の為に…

 高良の気持ちを置き去りにしたまま、“大阪万博"の建築費高騰や賛否を優里はニュースで話しながら、映像は粛々と進められる工事現場を映し出されている。 
 これだけの税金をかけて、工事や労力は、誰の為なんだろう…?
 同じ国の住民なんだろうか?、そんな内心を抱きながら…。 

 そして数年後に白川優里“ニュースキャスター"がこう話す…。
 「大阪万博の開会式が今日行われました。 首相の◯◯氏が“ルイージ"の緑の帽子を被り満面の笑みで登場し、オリンピックに続き“マリオブラザーズ"! オトギの国へ、ようこそ!!」

 戯けて紹介する優里の心が凍てつく…。

 …………………… 終 ……………………

 
 

 




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