『さよなら、ハングリーデイズ』の切なさと苦みは大人になってから分かる旨味
多分、マンガを読んでる人の中で『夢』を見たことが無い人はいないんじゃないかと思う。
憧れのヒーローになりたいとか、あんな人になりたいとか、マンガ家そのものになりたいとか。
なぜかというとマンガそのものが『夢』を見させてくれるモノだから、読者の僕たちもマンガに『夢』を見て想いを重ねる。
けれど、時間を積んで歳を重ねていき、大人になってくると叶わなかった夢や挫折なんてのを誰もが経験する。
勝った負けたが人生の全てではもちろんないけれど、なんとなく大人になった時にふっとあの頃の夢に向かっていた自分を思い出したりする。
新しい夢を見る人がいれば、夢そのものを諦めて生きていく人もいる。
それでもマンガは色んな夢を見せてくれるから、僕たちはそんなマンガにあの頃見ていたのとちょっとだけ違った夢をみたりするのである。
今回のレビュー作はwebサイト『みんなのごはん』の中で不定期連載されている劔樹人(つるぎみきと)センセイの作品。
『さよなら、ハングリーデイズ』
http://r.gnavi.co.jp/g-interview/entry/tsurugi/3769
この作品は、不定期連載されており、現時点での話数は8話。
作者はバンド『あらかじめ決められた恋人たちへ』でベーシストとしても活動している、劔樹人(つるぎみきと)センセイです。
近著はエッセイ漫画の
『今日も妻のくつ下は、片方ない。妻のほうが稼ぐので僕が主夫になりました』
話をもどして本作品『さよなら、ハングリーデイズ』の主人公は、メジャーデビューはしたけれど、なかなかブレイクには至らない中堅ロックバンド「アンガーミー」のベーシスト・和田アサオ(31)。
設定がとにかくリアル
音楽で生活していきたいという『夢』は叶ったけれど、生活は普通のサラリーマンと同じくらい、ひょっとしたらそれよりも良くないかもしれない。
人気が無いわけじゃないけれど、このままでいいのかと悩む事も。大きなヒットにも恵まれず、後輩の背中を見るようになることもしばしば。
思い描いていた未来とはちょっと違う現実に、不安を抱えモヤモヤしながらも、未来を信じて活動を続けている。
本作はそんなアサオの心証を、食事風景を通して描いていく作品だ。
バンドの未来、あるべき姿、周りのバンドとの関係、現実と理想とのギャップ。
そんなあれこれをメンバー間での会話を通して、夢を見ること、見続けること、今まで気づけなかったこと、見落としてしまっていたことやあの頃。
そんなことをふらりと立ち寄ったお店や、あの頃では気が付かなかったお店、あの頃通ったお店なんかで振り返ったりしていく・・・
この作品はそんな哀愁漂う作品だ。
夢と現実の中で苦悩する姿が切ない。
好きなことをして生きていくことには随分とハードル自体が下がったし、世の中も寛容になったような気がするけれど
好きなことをして生きていくことと、「苦労が少ない」とか「楽して儲かる」ということは、実は決してイコールでは無い。
どんなに輝いている人だって計り知れない苦悩や想いを背負って生きている。
夢を見ること、夢を見たこと、夢見ることの虚しさ、夢を叶えたことの喜び、すべてを噛みしめて初めて『大人になる』ということなのかもしれない。
これはちょっとだけビターな味わいのする大人味の“漫画”だ。
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