小説:剣と弓と本005「毒」(986文字)
「二人とも凄いです。かっこよかったです!」
ライと名乗る少年は屈託のない笑顔を見せる。片眼鏡がきらりと光る。背負い鞄は大きく膨らんでいる。何が入っているのか。
「……セドさん、気づきましたよね? 先ほど背中に……」
「お前の仕業か?」
「勝手なことしてごめんなさい。波術・飛鳥、使ってみたんです。一時的に運動速度を上げる効果があります」
するとナスノが、入り込む。
「ん? ということはライ、君は波術士?」
「まだまだ勉強中で…… 波術士見習いってところです。ちなみに学術士と記術士にはパスしてます」
と言って後頭部をかく。
なるほど、あの鞄の中はおそらく学術書だろう。記術士についてはよく知らねえ。レア職業だろうか。
「あのタイミングで仕留められなかったら危なかったぞ。ありがとうライ」
「いや、あの…… 先ほどのナスノさんの矢には即効性の毒が仕込んであったらしいので……」
「あの矢が命中した時点で決着はついていましたね。毒耐性がなければですが」
「ナスノさん。っていうことは、あの毒って神経毒の一種ですよね…… 生物由来ですね? 陸生物ですか? 海生物? いや、昆虫かもしれない」
嬉しそうにナスノに聞き込んでいる。好奇心の塊か。学術士ってだいたいこんな感じだよな。剣を振ってなんぼの俺とは大違いだ。
「あっ、毒と言えば、この集落の井戸水に立て看板ありましたね。<オオトゲサソリモドキの毒が混入しているので飲まないでください>って」
「ん? 俺、がぶ飲みしたぞ。ここにたどり着いたとき、喉がカラカラで。そんなもん読む余裕なかったな」
ライもナスノも目を丸くした。
「ちょ、ちょっ、ちょっと!! 大丈夫なんですか? オオトゲサソリモドキの毒はあのフグ毒の2800倍の致死性があると言われていて、経皮でも一発アウトのはずです。それを飲んだなんて! 信じられないですよ!」
「で、セド…… あなたは何ともないと?!?!」
ナスノが俺をのぞき込む。
「ああこの通りだ、さっきの立ち回りもいつも通りだ」
「いやー! 凄い凄い! 驚きの連続です! 毒耐性があるってことですよね。セドさん、どんな風に生きてきたんですか?」
「まあ、別に毒耐性つけようと思って生きてきたわけじゃねえけどな……」
これがナスノ、そして、ライとの出会いだった。
(つづく)