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【新刊エッセイ】若林 踏|インタビュー仕事も立派な批評だ
インタビュー仕事も立派な批評だ
若林 踏
『新世代ミステリ作家探訪 旋風編』は二〇二一年七月に刊行した『新世代ミステリ作家探訪』の続編である。
新進ミステリ作家とのトークイベントの模様を収めた対談集で、光栄なことに前作は第二十二回本格ミステリ大賞評論・研究部門の最終候補作に選ばれた。残念ながら受賞は逃したものの、東京創元社の『紙魚の手帖』に掲載された選評では本書を評価いただく言葉も頂戴し、たいへんな励みになった。
中でも嬉しかったのは、福井健太氏が「同書に書かれている事は十年後にはまた違った色合いを帯びてくるだろう」という旨の指摘をされていたことだ。私はインタビュー集や対談集を作るのは時代の証言録を残す仕事だと考えていて、十年後あるいは二十年後に読み返した時にその真価が問われるものだと思っている。福井氏の選評はまさに本書の意義を的確に捉えてくれるものだった。
私は媒体にプロフィールの掲載を求められる際、「書評家」を名乗ることが多い。だが正確に言えば、自分は「ミステリ小説にまつわる文章仕事を行うライター」だと思っている。
新刊時評はもちろん、インタビューや対談の司会や構成も行うし、文庫解説や長めの論考を書くこともあれば取材を基にしたルポルタージュを書いたり、書誌を調べたりすることもある。
私の中ではそれらの仕事に優劣は無い。どの仕事も担う役割が異なり、必要とされる技能も少しずつ異なる。それらを単純に比較してランク付けすることなど、本来は出来ないはずだ。
ところが時評を含めたライター業を、評論や批評の下位行為であるかのように見なしている言説に出くわすことが未だに多い。
私は違うと思う。
どのようなライター業にも批評的な視点は求められている。
そしてインタビューの仕事では、数十年後にジャンル史を振り返る際にどのような言葉を残しておけば良いのかを考えながら話し手に質問をぶつける必要があるのだ。それは立派な批評行為ではないか。
《小説宝石 2024年1月号 掲載》
『新世代ミステリ作家探訪 旋風編』ってどんな本?
無尽蔵の興味関心に突き動かされ、野心的に活動の枠を拡げる書評家・若林踏。トークライブで向き合う気鋭の作家たち―浅倉秋成、五十嵐律人、櫻田智也、日部星花、今村昌弘、紺野天龍、白井智之、坂上泉、井上真偽、潮谷験。語られるのは、ミステリとの出会い、小説家への道程、そして、創作哲学。だが、新世代特有の回答が未知の場所に誘う。予測不能な展開の連続に白熱する語らい。話題の作家たちの本音が光る対談集。
著者プロフィール
若林 踏 わかばやし・ふみ
1986年、千葉県生まれ。ミステリ小説の書評や文庫解説などを中心に活動する。2021年にミステリ作家との対談集『新世代ミステリ作家探訪』を刊行。同書は第22回本格ミステリ大賞評論・研究部門の最終候補作に選ばれた。
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