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【新刊エッセイ】北里紗月|美しくも残酷な赫き女王の降臨


美しくも残酷な赫き女王の降臨

北里紗月

 35億年前、太古の海の中で生まれた生命はこの熾烈な戦いに放り込まれ、勝者のみがその存在を許されてきました。例えば、他人の巣に卵を産み付けるカッコウの托卵たくらんは有名ですが、そのヒナは殻を破って生まれた後、真っ先に巣に残る本来の卵を地面に叩き落とします。なぜ生まれたばかりのヒナに、このような妙技が可能なのか詳しい答えは分かっていません。

 私は生命が持つ圧倒的な美しさと残酷さ、そして解き明かされない数多の謎に魅了されているようです。

 今回の作品には、私が幼少期より夢中になっている生物の進化に関する様々な現象を取り入れてみました。全ての現象は決して絵空事ではなく、悪夢のような現実がどこかで始まるかもしれない……そんな物語に仕上げてあります。読者の皆様には、知的好奇心をくすぐられながら、大自然に叩きのめされる恐怖を堪能していただきたいです。

 物語の舞台は東京から南に1700キロ。楽園のように美しい無人島に作られた海洋生物総合研究所。最先端の研究機器と日本屈指の頭脳を集めた研究施設で新薬の研究を行う高井七海たかいななみ。昨日までと何も変わらないある朝、七海の目の前で研究員の集団怪死事件が発生。生き残った職員の命を守るため、七海は島の中心にある深い熱帯の森に向かう。人間の侵入を拒絶する森の奥深く、七海が目にするのは一筋の希望か、圧倒的な絶望か。

 長い戦いの果て、島の最深部にたどり着いた読者は、隠された全ての秘密を解き明かします。集団怪死の真の意味とは、赫き女王とは、そして生命進化の向かう先は? 私の用意したバイオホラーの密林を心行くまで散策し、その全てを見届けて下さい。

《小説宝石 2024年1月号 掲載》


『赫き女王』あらすじ

日本最南端の無人島・瑠璃島で、ある朝、海洋生物総合研究所所員が立て続けに死亡する。ほとんどが自殺にしか見えないが、動機の想像がつかない。さらに島内では動物たちの異常行動が観察され始めている。これはパンデミックか他国の襲撃、自然災害、それとも……。亡くなった所長の極秘研究を発見した研究員らが、楽園の深部で目撃するものとは―。生物学を究めた医療ミステリーの新星が放つ、極限のバイオパニックホラー!

著者プロフィール

北里紗月 きたざと・さつき
1977年、埼玉県生まれ、千葉県育ち。『さようなら、お母さん』が、島田荘司選 第9回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞優秀作に選出され、2017年にデビュー。近著に『アスクレピオスの断罪 Condemnation of Asclepius』など。

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