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『黄金比の縁』石田夏穂&『東京路線バス 文豪・もののけ巡り旅』西村 健|Book Guide〈評・東えりか〉
文=東えりか
『黄金比の縁』石田夏穂
筋金入りのリケジョが企む人事部採用基準とは
私(小野)は工場の設計を請け負う㈱Kエンジニアリングの人事部採用チームで働いている。
十二年前の入社当時、筋金入りのリケジョである私は望んだ再生エネルギーの案件を担う花形部署「プロセス部」の「尿素・アンモニアチーム」に配属された。
だが十年前、ある重要な打ち合わせの場で起こした些細なミスのため役所からクレームが入り、世間に知られて炎上、株価も急落した。その事件の詰め腹を切らされ人事部に異動させられたのだ。もちろん、表立っての理由は「女性ながらの視点を生かす」ため。
そこから毎年「新卒採用チーム」の一員として就活生の面談を行い、採用不採用を決めている。経団連ご指定の就活解禁日の三月一日から、就活が事実上幕を下ろす六月一日まで、東京ビッグサイトに五回通い、一度に三十人強の就活生相手に、同僚と持ち回りで三十分おきに会社説明を行う。内定が出るのは百名前後。だが現在は売り手市場なので辞退するのは四~六割。最終的に五十人確保すればよいことになっている。
さて、その採用の基準だが、会社からの不当な人事異動に深い恨みを持っている私は一つのことを決めた。優秀な人「財」をKエンジから逃がす。代わりに駄目な人間を採ってこの会社の企業価値を僅かでも下げる。そのために取った方策は「顔の黄金比」を見ることだ。だがやがて、その会社に嵐が押し寄せた。
石田夏穂は、デビュー作『我が友、スミス』で理路整然とした話の運び方に私が魅せられた作家である。リケジョの多くが持っているだろう恨み辛みの晴らし方も、理にかなっていて胸がすっとする。徹頭徹尾エンジニア魂を持った小野を心から応援する私がいた。
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『東京路線バス 文豪・もののけ巡り旅』西村 健
小説家が連れていく東京ワンダーランド
著者は三池炭鉱の労働争議を描いた『地の底のヤマ』で吉川英治文学新人賞を受賞した小説家。だが、机の前で小説を書くより、町をウロウロするのが好き。趣味と実益を兼ねて使う交通手段は都内に張り巡らされた路線バスである。路線図と首っ引きで名所旧跡を探し、小説のネタを探す。ゆっくり走る窓からは、人々の日常が垣間見られ、生活に密着していることがよく分かる。
今回拾いに行ったネタは、永井荷風の散歩先や鬼の平蔵の住まい、四谷怪談の謎解きや平将門の怨霊譚。グネグネと走る路線の謎解きも面白い。
《小説宝石 2023年7月号 掲載》
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