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石持浅海【エッセイ】新刊『高島太一を殺したい五人』に寄せて

9月22日、石持浅海さんの新刊『高島太一を殺したい五人』が発売されました。刊行に合わせて寄稿いただいた著者エッセイを紹介します。


極めつきの倒叙 

石持浅海

 本格ミステリには、倒叙とうじょものという分野がある。事件を犯人の側からえがくというものだ。決して本流ではないけれど、昔から傑作が多く、馴染なじみのある分野だと思う。

 実は最近、自分が倒叙向きの作家なのではないかと思うようになった。

 別に倒叙ものを極めようと考えているわけではない。ではなぜ倒叙ものを書いているのか。新作の設定を練っているときに、どうしてごく自然に倒叙もののアイデアを思いつくのか。理由を考えてみたら、登場させる探偵の振る舞いに問題があるからではないかと思い当たった。

 僕が生み出す探偵は、必ずしも勧善懲悪を重んじているわけではない。「謎さえ解ければ、それでいい」と考えている節があって、そのため僕の小説では、必ずしも犯人が逮捕されるわけではない。犯人を名指ししたら、後は放置。そのおかげで、犯人の狙いがまんまと当たって、幸せになったりする。つまり、きわめて犯人を大切にする物書きなのだ。

 そんなへんてこな作家が、二十年も書き続けてきた。デビュー二十周年記念として、どのような作品を書けばいいのか。思いきって、登場人物全員が犯人という小説を書くことにした。けれど、それでは謎を解く人間がいなくなってしまう。だから、その全員に探偵役も務めさせることにした。

 全員が犯人。

 全員が探偵。

 かなり短めの長編で、内容が濃密だから、一気に読んでしまえる作品に仕上がった。

 面白く書けたと思う。とはいえ、本格ミステリ一筋で二十年やってきた到達点がこの作品かと思うと、微妙な気持ちになってしまうのも確かだ。

 でも後悔はしていない。

《小説宝石 2022年10月号掲載》


▽『高島太一を殺したい五人』あらすじ

高島太一を殺したい。殺人の罪を隠蔽したい。高島太一の罪も隠蔽したい。高島太一の被害者の罪も隠蔽したい。目的は同じなのに、誰かが何かを隠している。あなたは、この結末に逆らうことができるでしょうか? 極限まで研ぎ澄まされたパズラーの傑作!

▽著者プロフィール

石持浅海 いしもち・あさみ
1966年、愛媛県生まれ。2002年『アイルランドの薔薇』で長編デビュー。’03年『月の扉』は、各種ランキング企画の上位にランクイン。著書に『新しい世界で』『君が護りたい人は』などがある。


▽『小説宝石』新刊エッセイとは


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