海辺のかき氷
かき氷を食べるために、海の家に行った。ようこちゃんはボクの親戚のお姉ちゃんで、毎年夏になるとここでアルバイトをしている。
「今日もイチゴでよかった?」
「ん、よかった」
「おいしい?」
「ん」
ようこちゃんが、シロップをちょっと多めにかけてくれることを
ボクは知ってる。テンチョーさんにバレないよう、ちょっとだけ。
「夏休みもあと少しだねえ、楽しかった?」
「ん……。でも、宿題いっぱいあったし、忙しいんだ、ぼく。塾も行かなきゃいけないし」
「そうかあ。わたしが小学生の時はねえ、なーんにもしてなかったな」
「なんにも?」
「そう。ただ空を見たりね、ひまわりを見たり。すいかの種を数えたりね。ご近所の風鈴の音を聞いて回って、覚えたり」
ようこちゃんは、目の上に手をかざして海の向こう、遠くの遠くのほうを眺め言った。
「わたしの夏休みってね、一日がすっごくゆっくりすぎて、夏がずーっと続く気がしたんだよ。そうするとさ、分かってくるんだなあこれが」
「なにが?」
「例えば一日中、のんびり海辺ですごすでしょ。あのカモメ、ヤドカリ。わたしもみんな、元々海から生まれてきたのねって、わかるの」
「それって、学校で習ったよ」
「やあね、もっと感覚的なモノよ」
その言葉の意味は、ボクには、まだよく分からなかった。かき氷をぱくぱくと食べる。オデコのとこにキーンてしたのがやってくる。ぎゅっと目をつむり、また開けたら、海が、さざなみが、さっきよりもうんと近くに見えた。ボクはぽやんとして、スプーンをかちゃんと取りこぼす。ようこちゃんが、ふふと小さく笑う声が聞こえた。
夏のちいさなお話を投稿する二日目。今日は、いちご味のかき氷(海の家のお味)です。子ども達は夏休みが始まりますね。みんな同じ回数だけの夏を経験して、大人になってゆくのです。
昨日の投稿・詳細はTwitterにて。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?