初めての海外一人旅でイギリスを縦断した-3-ロンドン到着編
こんにちは。ゲンキです。
今回は旅行記「初めての海外一人旅でイギリスを縦断した」の第3回、ロンドン到着編をお届けします。
~旅の概要~
鉄道が好きな僕は、鉄道の祖国であるイギリスを旅することにした。「果て」の景色を求めて本土最北端の駅「サーソー(Thurso)」から本土最南端の駅「ペンザンス(Penzance)」を目指す旅である。遠く離れた異国の地で、僕は一体何に出会うのだろうか。(2023年3月実施)
第3回は経由地・香港から2便目の飛行機に乗り込み、ロンドン・ヒースロー空港に到着するまでの様子をお届けします。それでは本編をお楽しみください!
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23:30 香港国際空港 32番搭乗ゲート
キャセイパシフィック航空CX255便 ロンドン行きの搭乗が開始。他の乗客とともに飛行機に向かって歩いていく。
香港からロンドン・ヒースロー空港までは14時間にも及ぶ長時間フライト。このボーイング777-300ER型機はとても大きな飛行機で、エコノミークラスは香港まで乗ってきた飛行機よりも幅広い3-4-3の配列。今回も機体右後方・窓側の座席を予約している。自分の座席を見つけると通路側には先に赤い服を着た香港人らしきおばさんが座っていたので、「すいません…」と話しかけて奥に入らせてもらった。乗客はやはりイギリス人が多く、周囲からは英語の話し声がぽつぽつ聞こえてくる。
夜行便なので各席に枕とブランケットが置いてあった。コロナ期間中は夜行バスなどでのブランケット貸出が中止されていたので、こういうサービスは随分久しぶりな気がする。これから地球の陰、すなわち夜の部分をずっと飛び続け、ロンドンに着くのは現地時間朝6時半頃の予定だ。
しばらくすると空いていた真ん中の席に金髪の青年がやってきた。おそらく、というか確実にイギリス人だろう。この時僕は「イギリス人と会話したい!!!」という強い衝動に駆られており、とにかく一度自分の英語力を試してみたかった。彼が間違えて僕の席のシートベルトを付けようとしたので「うわ、ごめんな!」「ノープロブレムやで笑」という感じの和やかな雰囲気になり、今だ!と思い切って話しかけてみた。
「実は一人で海外に行くの初めてなので、若干緊張してるんですよー」
「マジ!?イギリスは初めて?」
「いや、数年前にちょっとだけホームステイしたことがあって…」
「へーなるほど。How(よくわからない高速質問)?」
「へ?」
「How(よくわからない高速質問)?」
(やべえ何て言った!?How come(=why)とかか??とりあえずイギリスに行く理由を答えとこう…)
「…アー、アイライクトレインズ、ソー…アイジャストウォントゥー、えー…トラベル…イェス。…」
「………Uh,OK.」
「………」
なんとも言えない空気で会話は終了した。英語むっず。
自分から話しかけといてこのザマとはなんとカッコ悪いことか。早速反省会を開く。彼の英語はけっこう訛りが強く、僕の未熟なリスニング力では言葉を拾いきれなかった(イギリス英語の方言は訛りがすごいことで有名)。そして何を聞かれているかわからない質問に対して突然「電車が好きでしてねえ」と返したのは冷静に考えてちょっとキモかったかもしれない。もう一回聞き直すか、さらにわかりやすく文章を組み立てればよかった。勉強にはなったが、本当にイギリスでやっていけるか不安だ…
しかしすぐにそんな不安を一瞬で忘れさせるほどの強烈な眠気が襲ってきた。時刻は既に0時を回っている。出発前日から一度も睡眠を取ることなく2回も日付をまたいでしまった。もうヤバい。今すぐ寝たいが、今爆睡してしまうと機内食が食べられない。なんとか踏ん張って途切れ途切れの意識を保つ……。
大きなエンジンの音が聞こえる。気づいたら離陸が始まっていた。0時25分、ロンドンに向けて香港の夜空に飛び出していく。
香港の街はまだまだ明るい。超高層マンションが隙間なく何十棟も立ち並び、もはや巨大な壁のようだ。どれだけの人数があそこに暮らしているのだろう。
高度を上げていくにつれ、だんだんと街の明かりは見えなくなっていった。そうなれば窓の外はただの黒一色。そこから機内食が出るまでの1時間はほぼ記憶がない。ひたすら頭をガックンガックンさせながら眠気に耐えていた気がする。
香港時間午前1時半、日本時間2時半とかいうわけのわからん深夜帯にそこそこガッツリめの食事が出てきた。ロンドンは現在17時半なので、一応夜ご飯ということになるのだろうか。ともかくこれを食べ終われば寝ることができる。
お味はかなり美味しかった。メインの蒸した豚肉はガーリック風味で、味も濃いのでどんどんご飯が進む。レシピを教えてもらえたら自分で作ってみたいぐらいだ。緑色の小松菜みたいな野菜は和名を「カラシナ(芥)」といい、その種子が納豆に付いている「からし(芥子)」の原料になるらしい。
アイスはMovenpickというスイスのブランドで、これまた高級アイスとのこと。とても濃厚で甘いチョコ味だった。
ご飯を食べて少しだけ目が冴え、時刻は2時半頃。窓の外を見ると中国南西部の都市が点々と見える。現在位置からすると綿陽という街のあたりだ。近くには四川省の省都である人口1600万人の大都市・成都が位置している。いつかこのあたりも訪れてみたいものだ。
照明が落とされ、薄暗くなった機内。まだ映画を見ている人、眠りにつく準備をする人もいる。僕もアイマスクを装着してブランケットを被った。初っ端から徹夜・不眠・鼻炎、ハードモードすぎたな…いや、荷造りしてなかった自分が100%悪いんだが。ああ、寝られるって幸せだ…おやすみ。
(爆睡中…)
…すごくよく寝た。途中一度も起きることなく5時間ほど寝ていたようだ。モニターで現在位置を表示すると、およそ日常生活で聞くことのない地名ばかりが表示されている。どこだこれ…と思って色々見てみると、ウズベキスタン西部の主要都市、ヌクスという街のあたりだった。ここから200kmほど北には塩湖・アラル海がある。そう、あのアラル海だ。皆さんも一度は学校の授業でアラル海の話を聞いたことがあるだろう。綿花栽培などのために過剰な取水を行ったことで流入量が激減し、干上がった砂漠に船だけが取り残されている光景はあまりにも有名だ。
眼下には銀河のような光の塵の集まりがいくつも散らばっている。砂漠の真ん中にもこれだけ輝く都市があるのか。宇宙船から未開の星の街を眺めるような気分だ。
ヌクスからさらに40分ほど砂漠の上を飛び続け、世界最大の湖・カスピ海の上に出た。カメラのISO感度を4000にまで高め、シャッタースピードを1秒に落とすことでようやくうっすら汀線を写せるほどの暗さ。
さっきカスピ海についてググっていたらめちゃくちゃ面白いものを見つけた。旧ソ連が建造した地面効果翼機「エクラノプラン」である。通称「カスピ海の怪物」。
この乗り物は冷戦期に開発され、トビウオと同じ原理を利用して水面スレスレを時速500kmほどで飛行していたという。ジブリ映画の劇中に出てきそうな奇抜な見た目もさることながら、全長70mとかなり巨大。退役から30年以上カスピ海の浜辺に放置されていたそうだが、最近移設・展示されることになったらしい。いつか本物を見てみたい。
機内はまだ暗く、飛行時間も残り6時間以上ある。せっかくなので今から二度寝することにしよう。それではまたおやすみ。
(二度寝中…)
おはようございます。あれから3時間ほど寝ていた。
今はロンドン時間の朝3時半過ぎ。かなり早朝だが、8時間たっぷり睡眠を取れたのであとは起きていようと思う。既に黒海を越えて東欧に入っており、現在はルーマニア上空を飛行中。東の空には赤色が滲んでいる。もうすぐ終わる夜とこれから始まる朝が混ざり合う時間だ。
そしてなぜか僕の周りに枕が4個ぐらい集まっていた。自分のやつ、隣の青年くんのやつ、前の人のやつ、そして後ろの人のやつ。わざとじゃないけどなんか独占してるみたいで申し訳ない。
ほとんどの乗客はまだ眠りの中。隣の青年は半ズボンを履いていて寒そう。斜め前のおじさんは映画を見ていて、その画面の白い光が座席の隙間から漏れ出ている。
しばらく絵を描いていると機内の照明が明るくなった。寝ていた人々ものそのそと起き始める。
4時45分頃、朝食が運ばれてきた。ドリンクはアップルジュースをオーダー。スクランブルエッグにソーセージ、ベーコン、トマト、ポテトと、いかにも欧風な朝ご飯だ。パンにバターといちごジャムを塗ってかじり、ブルーベリーヨーグルトに加えてデザートにフルーツも付いている。なかなかボリューミーかつ健康的で美味しい朝ご飯だった。
真下にはヨーロッパの都市が広がっているはずだが、分厚い雲に覆われて見ることができない。青色の影で塗られた世界に、朝日が一筋の切れ目を入れている。
通路側のおばさんがトイレに行くために席を立った。それにつられて僕もトイレに行きたくなってきた。しかし真ん中の青年は乗り物酔いしてしまったのか、なんだかしんどそうにしている。そういえば彼はさっきの朝食も残していた。彼が一度目を覚ましたタイミングで「すいません…トイレ行っていいですか?」と聞くと彼は「もちろんいいよ」と答えて通路に出させてくれた。
機体最後部にはいくつかのトイレがあり、5、6人が並んでいる。みんなご飯を食べてお腹が膨れたのだろう。前に並んでいたおじいさんが「お先どうぞ」と譲ってくれた。親切は受け取っておくのもまた礼儀と考え、お礼を言ってお先に失礼する。これが英国ジェントルマンか…(彼もすぐに別のトイレに入れたっぽい)。
席に戻ると時刻は5時半過ぎ。ロンドン到着までは残り1時間だ。
飛行機はユーラシア大陸を抜けてドーバー海峡を越え、6時5分頃、ついにイギリス本土・グレートブリテン島のシルエットを目にすることができた。真下はちょうどテムズ川河口のエスチュアリ(三角形状の入江)で、ロンドンはこの地形を活かした水運貿易の中心地として発展してきた都市である。
日本とイギリスはともに「ユーラシア大陸の隣に位置する島国である」という点でよく似ている。他にも道路や鉄道が左側通行、礼儀や伝統を大事にする、お茶好きなど様々な共通点がある。それと同時に全く異なる部分も山ほど存在する。この旅ではそういったものを沢山見つけていきたい。
ふわふわな雲とペールトーンの空。小さな白い月がぽつんと浮かんでいる。メルヘンチックな色彩の中、大きく旋回しつつ高度を下げていく。
雲を抜けると、そこにはイギリスの首都ロンドンの街並みが広がっていた。道や建物の並び方が明らかに日本とは違う。早朝のロンドンを上から眺めつつ、市街地から西に20kmほど離れたヒースロー空港に向けて降下を続ける。
地表が近づくにつれ、緑や住宅街の割合が高くなってきた。目覚め始めたロンドン郊外の街すれすれを飛び、まもなく着陸だ。
6時36分、ロンドン・ヒースロー空港に到着。香港からの飛行時間は約14時間10分だった。日本は現在15時36分。時差は9時間だが、機内でぐっすり寝たので時差ボケの影響をあまり受けずスムーズに体内時計を移行できそうだ。
6:50 ロンドン・ヒースロー空港
日本を飛び立ってから25時間、ついにイギリスの地に降り立った。ヒースロー空港は世界の中でもトップクラスに忙しい空港と言われており、早朝にも関わらず離着陸する飛行機が列を成してはあちこちで人や車が走り回っている。
しばらく歩いていくと入国審査の入り口に着いた。注意書きが色々と書かれているが、どうやら僕は自動ゲートを使って入国することができるようだ。
数分ほど並んで自分の番になった。まずゲートに入り、画面の指示に従ってパスポートを開いて読み取り機にセット。マスクやメガネを外して真っ直ぐカメラを見る。……が、なぜかエラーになってゲートを通れなかった。仕方なく有人ゲートに並び直し、審査官に口頭でいろいろ聞かれた。
「おはようございます」
「おはよう。パスポート見せてください」
「どうぞ(渡す)」
「旅行の目的は?」
「観光です」
「何日間滞在しますか?」
「10日間です」
「現金はいくらぐらい持ってます?」
「あ、現金ですか?えー、40000円なのでポンドに直すと…えー…」
「40000円…あ、オッケー。カードも持ってるんですね?」
「そうです」
「はい、了解です。パスポートお返ししますね」
「センキュー」
だいたいこんな感じだった。所持現金の金額を聞かれるのは想定外だったが、なんとか無事に入国完了。続いて成田で預けたメインバッグを受け取りに向かう。
・荷物受け取り所(Baggage reclaim)
(撮影禁止のため画像なし)
日本からのJAL便も同じ時刻に到着していたようで、制服を着た高校生ぐらいの集団がいた。まさかイギリスで日本の高校生を見るとは。今は春休み期間なので、おそらく短期留学か海外研修の一団かと思われる。
荷物が流れてくるレーンには大勢の人々が集まっており、みんな自分の預けたスーツケースが流れてくるのを探しながらじっと待っている。再び日本語が聞こえたと思ったら近くに若いカップルがいた。彼らは「遅いねー」と言いながら会話している。そこらへんをウロウロしてみるが、まだ出てこない。不安になってくるので早く流れてきてほしい。
およそ10分ほど待ち、ようやく自分のバックパックを発見した。一応自分のものであることを確認してカートに載せる。袋に入れておいたおかげで傷もなく、ロストバゲージにもならなくて一安心。壁際に座って荷物を整理し、すぐには使わないものをメインバッグに移しておいた。今日はこれからメインバッグをどこかに預け、そのままロンドン観光に出かける予定だ。
トイレの洗面台で髭を剃ったり歯を磨いたりする。便座がひんやりしていて「あっ外国だ」と思った。やっぱり便座が暖かいのって日本だけなんだな…
全ての手続きが終わり、空港の外に出てきた。時刻はあっという間に8時半を回っている。ロンドンの朝は冷たい風が吹いていて肌寒い。今は3月中旬だが、体感温度は2月の東京と同じぐらいだろうか。空は曇っていて青空は見えないものの、今のところ雨は降っていない。それでは早速ロンドン市内に向かって行こう。
つづく
さて、ようやくイギリスに着いたということで、ここからが正真正銘イギリス旅行記になります。異常に長い前置きに付き合ってくれた皆さん、本当にありがとうございました。次回からはロンドンはもちろんイギリスの様々な都市を周り、そして最北端から最南端の駅まで鉄道でグレートブリテン島を縦断する旅が始まります。
第4・5回は「ロンドン観光編1日目・2日目」と題して、無計画でロンドンの観光地をあちこち周遊する様子をお届けします。ご期待ください。
それでは最後まで読んでいただきありがとうございました。次回もお楽しみに!
↓第4回はこちら
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