
キーワードは"謎"と"ひらめき"?──2025年のインディーゲームを取り巻く潮流を紐解き、流行を予測する
2025年、インディーゲームは革新的なゲームプレイや魅力的なストーリー、そして個性的なアートスタイルを武器に、世界中のプレイヤーを魅了し続けている。
今回も昨年に引き続き、2025年のインディーゲームシーンを様々な角度から読み解き、どのような作品が注目を集めるのか予測していこうと思う。
※作品紹介だけ確認したい方は目次からジャンプ可能です。
2024年のおさらい
まずは簡単に昨年のおさらいから。
2023年、Backroomsや8番出口などの異変探知系やチラズアート作品などの、いわゆるJホラーが注目を集めていた流れとともに、コロナ禍で他人と繋がれる数少ない娯楽としてTRPGやボードゲーム、謎解きなどの人気に火が付いた。
2024年、諸々の規制も緩み、外出できるようになった人々は巣ごもりでのストレスを晴らすべく"オフラインで楽しめるアクティビティ"を求めるようになった。配信などオンラインで誰かから分けてもらう"ワクワク"ではなく、自らが直接行動し、体験することでしか得られない興奮に対して需要が高まったのである。
そのブームと需要に合致したのがスリル&ホラー(得体のしれない現象や怪異/精神的恐怖)であった。さらには昭和/平成レトロも同時期にブームとなり、少し古めかしいタッチの作品も多く登場するようになった(ドットやアナログ風、モノクロ調など)。
代表的な作品としては、都市伝説系として『奇天烈相談ダイヤル』や、いままさに注目を集めている『都市伝説解体センター(TGS時)』が、スリル系としては既存のギャンブルにローグライク要素を混ぜ合わせThe Game Awardsまで上り詰めた『Balatro』や『Buckshot Roulette』などが挙げられるだろう。
さらにスリル&ホラーの流行はインディーゲームにとどまらず、Project:;COLD から始まった仕掛けが次々と芽吹き、『人の財布』『かがみの特殊少年更生施設』、『イシナガキクエを探しています』『飯沼一家に謝罪します』など、モキュメンタリー作品が普段の生活に少しずつ溶け込む形で浸食を始めている(良い意味で)
仕掛け方が変わればコンテンツの楽しみ方も変わる。2024年では当然のように漫画やMVに考察要素(メズマライザー/はいよろこんで など)が練りこまれるようになり、ここ数年続いていたクイズブームも徐々に「謎解き」ブームへと変化を始めている。
それらを体験していくうちに、時代は「分からない」ものを楽しむことから「ひらめき」や「答え合わせ」の瞬間に楽しさを見出すように遷り変わっていることが想像出来る。
2025年シーン全体に立ち塞がる障害
2025年の予測を語る前に、このポストと一連のスレッドを見てほしい。
A mega thread of vidoe games scheduled for release in 2025.
— The Game Awards (@thegameawards) December 31, 2024
GRAND THEFT AUTO VI. pic.twitter.com/kWBQPLa9x6
これはThe Game Awardsが簡易的にまとめた、いわゆるAAAタイトル(ゲーム業界で莫大な開発費をかけて作られた)の一部だ。
・GRAND THEFT AUTO VI
・DEATH STRANDING 2
・ELDEN RING NIGHTREIGN
・MONSTER HUNTER WILDS
・GHOST OF YOTEI
・CIVILIZATION VII etc…etc…etc……
このnoteを書こうとした1月1日時点で、すでにこの情報量。しかも執筆中(2月)の今においてはNintendo Switch 2 の情報まで出てしまった。
正直、開発費自体はどうでもいいのだが、心配なのはそこから計算されるボリューム(ゲームプレイ時間)だ。さらに、最近のゲームの運営方針としても買い切りではなくライブサービス型が取り入れることも少なくない。上記で挙げただけでもGTA VIやモンハンワイルズ、CIV VIIなど「無限にやることある」タイプの作品が並んでいる。
ゲーマーの時間は限られている。なんならゲーマーの"余暇 *1"はもっと少ない。もちろんインディーをメインに遊ぶ層もたくさんいるだろうが、期待していた新作や、続編、すでに面白さを知っている作品のリメイクなどの誘惑は強く、優先度がAAAタイトルに寄るゲーマーの方が多いだろう。
*1:ゲームをクリア、収集要素がひと段落などし、次に何をプレイしようかなと考える時間。または、すでに遊ぶ予定のゲームが発売されるまで待つ間のことを本noteでは便宜上"余暇"と表現する
これらを踏まえて、2025年はインディーゲームシーン全体が厳しい環境になると予測している。ブームの後押しや一作品ごとのクオリティが徐々に上がっている一方で、AAAタイトルが続けざまにリリースされる2025年は、さらなる市場の飽和と競争の激化が避けられない状況となっている。
もちろん、優れたアイディアや独創的なゲーム性で勝負できるインディーゲームも存在するが、市場には数多くのゲームが溢れており、埋もれてしまう可能性も高い。さらにはAAAタイトルだけでなく、モバイルゲーム(ソシャゲ)やeスポーツなど、ゲーム以外のエンターテイメントも選択肢として増えている。その状況はよりゲーマーの貴重な時間を奪い合う形になるだろう。
上記を踏まえて2025年だけでなく、今後、インディーゲーム開発者は、他のコンテンツと差別化を図るための戦略を立てる必要がある。ゲーム性や世界観を確立することはもちろん、特定のジャンルに特化したりコミュニティとの連携を強化したりするなど、さまざまな方法が考えられる。
ただ、開発者はマーケターではない。売れてほしい、もっとたくさんの人に遊んでほしいと思えど、正直なところはゲームだけ、システムだけ、グラフィックだけ作っていたい人も少なくないだろう。
そのジレンマを解消しつつ、より作品を遠くに/大勢に届けてくれる可能性を秘めているのがパブリッシャーであり、集英社ゲームズや講談社クリエイターズラボのような新しい連携の形なのだが、この話も例に漏れず長くなるため別で語ろうと思う。
インディーゲームシーンにいずれ訪れるかもしれない苦難については、上記の通りということが分かってもらえたと思う。ここからは2025年に実際にどのような作品が注目を集めることになるのか、視点をミクロにして説明していこう。
2025年のインディーゲーム流行予測
まず、先ほど別で語るといってなんだが、集英社ゲームズや講談社クリエイターズラボが抱えるクリエイター陣の作品が間違いなく注目を集めると予測する。
集英社ゲームズ 系列
都市伝説解体センター
シュレディンガーズ・コール
ANTHEM#9
講談社クリエイターズラボ 系列
違う星のぼくら
イノウノカルテ
ザ・ファブル Manga Build Roguelike
AAAタイトルの渋滞と、インディーシーンでの競争の激化を抜け出し、作品を多くの人にプレイしてもらうためには、ゲームのクオリティより先に広報力が試されることになるはずだ。
その点、集英社や講談社には他で培ったノウハウがあるし、特定のジャンルに縛られない広報経験もあるため、売りの部分を正確に伝えられる技術がある。競争が激しくなることが予測される中でも埋もれずマイナススタートになってしまうことを回避出来るだろう。
その上、実績や信頼も厚いためメディアだけでなくゲーマーらも安心して情報を追うことが出来る。情報を知ろうとした際に広報用のアカウントがあったり、開発チームのWebサイトや作品紹介ページが存在することは当たり前ではない。細かいことではあるが、興味を持ってくれた人をここで掴めるか掴めないかの差はかなり大きいはずだ。
ただやはり開発者であれば、そういった細やかな"おもてなし"を用意するよりも作品の細部をこだわり抜いたり、より時間をかけてブラッシュアップしていきたい気持ちが強くなり、どうしても後にまわしてしまうという事が起こりうる。
後回しにしてしまったことを回収してもらえるだけでなく、さらに情報を届けるためにはどういうアイディアがあれば良いか、開発段階から提案してくれるパートナーの存在が、いかに重要か理解していただけたであろうか。
※ここからはさらに個人的な意見
こういったチームに所属しながら、インディー開発を進めていく人たちを「インディーではない」と呼ぶ人がいる。もちろん「インディーゲーム」という言葉や定義自体、かなり曖昧で、正直、誰も正解を持っているとは思いません。が、不慣れな部分を手伝ってもらうことや、ゲームプレイ以外の箇所を他人に任せることも新しい形だと考えています。
それは、Nintendo Switchへの移植や、PS5/Steamユーザーの増加、itch.ioなどのマーケットが育った影響でインディーゲームがいわゆる「知る人ぞ知る」ゲームから、徐々に姿を変えていった様なのではないでしょうか。
もちろん売れるため、バズるためにインディー開発に取り組んでいるわけではない方も大勢いらっしゃるのは承知しています。
ただ、面白いと思ったものをより広めたい。その気持ちを根底に、ノウハウを持った先人にアドバイスを求める姿を私は好ましく思います。いままで開発費や人数の問題で諦めてきた部分を「やれるだけやる」ための新しい選択、行動をくさすのではなく、純粋に応援していければと思います。
2025年のインディーゲーム流行予測(ジャンル)
少々話が脱線してしまったが、次に考えるのは"ゲームジャンル"だ。改めて2023~24年ではスリル&ホラーをテーマに、ホラーゲームや特定のルールを軸に制限を楽しむような作品の勃興が目立った。
本noteの序盤に戻り、昨今の潮流を考えると、引き続きモキュメンタリー/謎解きブームは過熱していくように思える。その流れを汲み取り網羅できるゲームジャンルはずばり「ミステリー」「推理系」の作品になるのではないだろうか。
ただ、「ミステリー系」の作品には多少不安が残る。それは"バズ"と異常に相性が悪いことだ。『8番出口』や『スイカゲーム』、『Balatro』や『Buckshot Roulette』は云わばシステム面が肝となる作品だった。反面、ミステリー作品はプレイヤー自身が伏線に気付き、悩み、真実に辿り着くまでを楽しむタイプの作品であり、クリア後他人に薦めるのがかなり難しい。
これはゲームに限った話ではなく、前述したモキュメンタリー作品やミステリー小説などにも同じ現象が起きやすいと言える。
ただ、悲観する必要はない。それらの問題を解消するプロがおり、すでに仕組み化されているのが本屋業界で、ただ一点、「話題になっている」「気になる」を極限まで高めることで注目をかき集め、壁を突破した第四境界やTXQ FICTIONといった前例が存在する。
つまりインディーも倣う先があるということだ。では、どう倣えば?開発者はマーケターではない……どこかで話したような気がしますね。
今回の一連の予測は、2024年の10月に社内で催されたプレゼン用にまとめたものの一部だったのでいずれ実現されれば良いなと淡い期待を込めて……と思っていたのですが、2025年早々に『都市伝説解体センター』と「集英社ゲームズ」がやってくれました……!
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— 集英社ゲームズ (@ShueishaGamesJP) February 26, 2025
『#都市伝説解体センター』
累計販売本数10万本突破🎉
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10万本突破を記念して、『都市伝説解体センター』のLINEスタンプと『都市伝説解体センター』の主題歌「奇々解体」のミュージックビデオの制作が決定いたしました。
詳細については、後日お知らせいたします🪬 pic.twitter.com/JEHk7NrdJD
ジャンルの壁を越え、ミステリーのオチを知らずともプレイしたくなるように、リリース前後でありとあらゆる手を打ち、いままさにインディー史に名を刻もうとしている。正直考えていたことと実際に起こったことが一致しすぎていて、偏ったファンに見えるかもしれないが、誓って、関係者ではありません。一人のインディーゲーム好きとして、ただただ驚嘆とリスペクトの連続の最中であります。
2025年注目作品紹介(一部リリース済み)
ここまで長文・乱文に付き合ってくださった方が迷わぬよう、すでにリリース済みまたは今後リリースを控えているおすすめの推理/ミステリー作品をいくつか紹介する。しかし、例によって作中の"謎"には一切触れられないのでその点はご容赦願いたい。
Unheard ー罪の代弁ー
過去の犯罪現場に戻り、聴覚のみで容疑者を特定し事件を解決する新感覚探索ミステリー。誰が、いつ、どこで、誰と、何を話したか。手に入れた情報と時系列を整理し、答えを導こう。音声はバイノーラル(立体音響)になっており、プレイヤーが実際に現場に居合わせたような体験が出来る。
近しい作品に『Return of the Obra Dinn』が挙げられる。
かの有名な『Papers, Please』の開発者が手掛ける作品であり、評価も高い。
Staffer Case
舞台は1960年のロンドン、住民の1割が超能力を持つ特殊な街で、主人公は捜査官として超常現象による不可解な事件を解決へと導く。
目には目を。超能力には超能力を。同僚の捜査官にも協力を仰ぎ、容疑者の感情を読み取ったり、現場に残る物品から当時の記憶を読み取ったりと様々な角度から捜査を進行していく。
推理一辺倒ではく、超能力を生まれもったことによる、差別や偏見など、社会問題にも光を当てている作品。
There is NO PLAN B
2070年のサイバーパンク世界を舞台に、引きこもり探偵「B」が様々な犯罪を暴いていく推理アドベンチャー。
『ダンガンロンパ』や『逆転裁判』から影響を受けたこともあり、探索パートより解明パート(犯人と対峙する瞬間)の演出に力が入っている。集めた情報を元に犯人から如何に発言や証拠を引き出すかが見どころ。
Kill The Clock
主人公は復習を果たすため、ターゲットが乗車している電車に乗り込んだ。しかし、自身が手をかけるより先に、何者かによってターゲットが殺害されてしまった。その上、現場に居合わせたことから事件の第一容疑者になってしまう。
TRPGライクなキャラメイクとダイスロールシステムを駆使し、犯人を追い詰めたと思いきや、事件の5日前に巻き戻され、再びターゲットが殺害される現場に遭遇してしまう。しかし、どうにも手口が前回と異なるようだ…..
Demo版あり
KILLA
マルチエンディングを持つ3Dアドベンチャー推理ストーリーゲーム。見習い薬剤師である主人公は敬愛する師匠が何者かに殺害されている現場を発見してしまう。
唯一の手掛かりは“KILL THE LA”「…LAを殺せ」という遺言のみ、名前の最後が「ラ」で終わる人物が犯人だと推測した主人公は、謎の島「イプス」に乗り込み、容疑者たちと相対する。相手の心を覗き見ることができる不思議な時計を使い、対話の中から犯人を探していく。
発売前にも関わらず、すでに複数賞を受賞している快作。Demo版あり
シュレディンガーズ・コール
少しミステリーから外れてしまう上に、2度目の紹介になってしまうが、個人的に「都市伝説解体センター」の陰に隠れた集英社ゲームズの隠し玉だと予測している。
主人公は世界最後の話し手。死にきれない魂と繋がる不思議な電話を使い、彼らを苦しみから救うテキストベースのADV。世界観の作り込みと没入感の高さから、インディー関連のイベントに出展するたびSNSがざわつく
他にも『ステラ―コード』や『M.E.M.O』、『Detective NEKKO』や『TIMEMOON』など、すでに数えきれないほど注目しておきたい作品が発表され始めているので、今年は"ミステリー"をキーワードにゲームを探してみるのも良いのではないだろうか?
さいごに
散々ネガティブな予測を立ててきたが、TGSや東京ゲームダンジョンなどを筆頭に、インディーゲームコミュニティも徐々に大きくなりつつあり、クリエイター同士で切磋琢磨する環境が整いつつあるのは間違いない。
その中で特異点のような作品が生まれることもあるだろうし、AAAタイトルが思うより長続きしない可能性もあったりすると思うので、また1年、諸々を楽しみに見守ります。
ぜひ、プレイヤーの皆さまもイベント会場に足を運んだり、Demo版をプレイしてレビューを投稿するなどコミュニケーションを楽しんでください。それでは、2025年も良きインディーゲームライフを🎮
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