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バリアフリーガイドという「調味料」(『トラペジウム』アドベントカレンダー2024・全25回の22)

劇場アニメ『トラペジウム』を語るにあたり、どうしても外せない内容として「音声ガイド」「文字ガイド」の存在がある。

映画の音声ガイド・文字ガイドは、視覚や聴覚に不自由がある方向けに、映画の内容を音声の読み上げや、日本語の字幕で補完するものである。
劇場アニメ『トラペジウム』においては、音声ガイドはスマートフォン・タブレット向けアプリ「HELLO!MOVIE」のコンテンツとして、公開3週目にあたる2024年5月24日(金)から提供された。これは自前の携帯端末を使用する仕組みのため、『トラペジウム』が上映されている場所であれば、それ以後、日本全国の映画館で―――もし海外渡航すれば『トラペジウム』が上映されている世界中どこの国の映画館であれ―――使用できた。そしてこの記事の公表時点では、「HELLO!MOVIE」から『トラペジウム』の対応が外れていないため、未だに使用可能となっている。(将来的に使用不可になる可能性はある。)
また、字幕ガイドは「日本語字幕付き上映」として上映された映画館・上映回において利用できたものであり、今のところ2024年9月15日(日)の東京シネマ・チュプキ・タバタと、2024年9月16日(月祝)の兵庫洲本オリオンの上映が最後となっていて、現在視聴するすべは無い。
しかし、おそらくではあるが、BLU-RAY/DVDとして発売されるパッケージ版『トラペジウム』においては、同一(または同一相当)のものが収録されるはずで、その暁にはメニュー切り替えで視聴が可能となるはず。

ずいぶん前置きが長くなってしまったが、「視覚・聴覚に不自由な方向けのガイド」が何故語るにおいて外せない内容なのか。それは「ガイドの完成度が素晴らしく、視覚や聴覚に問題がない視聴者にとっても大いに有益」であるからだ。しかし、未見の方は初回からガイドを使うことはせず、ぜひ初回は「ありのまま」での視聴をお願いしたい。

劇場アニメ『トラペジウム』は、篠原正寛監督の「できるだけ言葉(≒音声)で説明することはしたくない。画(え)や芝居で伝わる可能性のあるものについては、画(え)や芝居で伝えたい。」という"映像屋の信念"のようなもので作り上げられた作品である。(そういう意図の発言が、実際にトークショーにあった。)
そして、監督自らそう語ことはあるだけの、密度・熱意・力量とも抜群の「画面強度」がある作品でもある。
しかし一方で、それは受け手のあらゆるもの―――知識・注意力・記憶力・動体視力・精神状態、それらを総合しての鑑賞態度―――を信じて、そして委ねきった態度であるとも指摘できる。「それが故」の初回鑑賞と2度目3度目の「味の違い」があるので、未見の方は初回からガイドを使うことはせず、ぜひ初回は「ありのまま」での視聴をお願いしたいのだが。

そんな映画に「ガイド」がつくとどうなるか。ピシッと映画が「像」を結び、シーンの意図がものすごく分かりやすくなるのである。さながら過飽和水溶液に種結晶を放り入れたかのように。
この効果は凄まじく、本当に作品の「味」が変わる。そして、その後はガイドで拾いきれなかった部分にも目が行くようになり、より深く映画が味わえる。しかし、繰り返しになるが、未見の方は初回からガイドを使うことはせず、ぜひ初回は「ありのまま」での視聴をお願いしたい。

それだけでなく、ことラストシーンに至っては、「音声ガイド使用者のみが体験できる特殊演出」がある。これはちょっと信じられない離れ業だ。
制作体制から考えて、「音声ガイド」は映画本編制作とは別に行われており、音声ガイド制作の会社に資料提供などはされていて、また監修・チェックなども入っているはずではある。
が、映画の本編音声や進行を邪魔しないように、適切な言葉と適切な挿入タイミングを選び抜いて台本を作り上げ、そしてその枠に収まるよう本編の邪魔にならないようにナレーション音声を吹き込んでいくという作業、それは間違いなく「音声ガイド」制作チームの偉大な仕事と言える。
ネタバレにならないように触れられる範囲で言えば、本編の音声と映像からは分からない部分は「分からない」状態でキープされていたり、キャラクターの「笑い」の種類を的確な単語で示していたり、時間制約的に情報量が多すぎる部分では最も重要な情報を適切に選択してナレーションしたりと、本当に丁寧で誠実な仕事がなされている。
その上でのラストシーン。いままで余計なことを一切言わず黒子に徹していた音声ガイドが一人歩きを始める特殊演出、幻の「トラペジウム」については、鳥肌が立つほどすごいので、ぜひ何度目かの鑑賞の際には体験してみてもらいたい。

なお、今回書いた内容は以下の記事にはより詳しいが、既視聴者向け内容のため、未見の方は記事を読まず、また初回からガイドを使うこともせず、ぜひ初回は「ありのまま」での視聴をお願いしたい。しつこく繰り返しになるがきわめて重要なことなので。


『トラペジウム』関連BDDVD・原作・サントラ:


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