この酒を飲め!2021・蒸留酒編①ラム
別に読まなくていい能書き
もう何度目かよくわからんほど繰り返し発令されては延長されている緊急事態宣言・まん延防止等重点措置での時短営業要請&酒類の提供停止要請で、去年から今年にかけては大都市圏と周辺県の飲食店ではマトモに酒を愉しむということができない感じに終始している。ワクチン接種も進んでいるが、変異株だの何だので、たぶん少なくとも今年いっぱいは大手を振って外で飲酒!とはできないだろう。悲しいことだ。一日も早く疫禍が去り、バー・パブ・居酒屋で飲酒と歓談に耽ることができる環境が戻ることを祈るばかりである。
しかし、祈るばかりでは環境は維持できない。営業を縮小・停止した飲食店の困窮は直接的に伝わってくるが、その影で飲食店に肉や魚や野菜や酒を販売していた肉屋・魚屋・八百屋・酒屋やその卸が、そこに食材と飲料を供給していた生産農家・漁師・酒造会社・輸入商社が、そして流通会社が、同じように困っているはずだ。個人でできる範囲など知れてはいるが、これから先にいい酒を飲み肴を平らげるためには、それら食材と酒を買うことは多少なりとも助けにはなるだろう。何より、ちょっといい酒が家あればそれだけで単純に嬉しいもの。
そんなわけでオススメの酒を紹介していく。画像と販売先リンク引っ張るのが楽チンだしアフィリエイト収益なんかがあれば嬉しいな~という考えでAmazonのページをべたべた貼ってくが、大抵の場合はよりよい条件の通販があるし、時に値段が不当に吊り上げられているケースなどもきっとあるだろう(※実際メチャクチャよくある)。が、キリがないのでそのへんのケアはしない。各自、賢く買って美味しく飲んでほしい。
ラム
さて、蒸留酒編だ。蒸留酒と醸造酒の違いがわからない向きはググって知っていただくとして、家で買って飲む酒なら断然、蒸留酒だろう。蒸留酒は丈夫でそうそう傷まない。日本酒やワインのように冷蔵庫やセラーに入れ適温で適切に保存する必要がないし、ビールのように炭酸が抜ける心配をしなくてもよい。直射日光がガンガン当たる場所と温度がバカみたいに(概ね摂氏35度以上に)上がる場所を避けて、きちんと蓋を閉めておけばまあ大丈夫という雰囲気がある。温度面ではなく時空面でも、開栓ひと月ふた月ほっぽらかしても平気だし、なんなら2年半後に飲んだら逆に「開いて」めちゃくちゃウマくなってる、といった事もあったりする。(当然、酒精が抜けてダメになっている悲しい展開もありうるが。)そして何より、安い。どう安いのかという話は醸造酒編を書くとしたらその時に書くつもりだが、まあ本当に安いし長持ちするし銘柄を選べば旨いというのが蒸留酒の魅力だ。
御託はさておき、ラムだ。ラムはサトウキビの絞り汁・ないしは絞り汁から砂糖を抜いた残渣を発酵させて蒸留したものという、きわめてシンプルなレギュレーションの蒸留酒であるが、これがどうして蒸留酒のアルファにしてオメガみたいなところがあって、単に強い酒を飲みたい時、ちょっと複雑な香味を飲みたい時、到底サトウキビから作られたとは信じがたい何かを飲みたい時、樽が利いて老成したものを味わいたい時、フレッシュな香気を味わいたい時などなど、銘柄さえ選べばどんな要求にも対応してくれるバリエーションの豊富さと懐の深さがある。そして昨今のウイスキーのように「見つかりきって」いないので、比較的いい品物が安い。安いから、もし好みを外しても「氷入れてコーラ注いでレモン絞って飲んだろw」という具合に安易に消費できるし、次の銘柄へもチャレンジしやすい。万人にお勧めできるジャンルだ。そんな中で個人的に気に入っている銘柄から、個性的であり入手性の比較的高いものを4つほど紹介したい。
ラム①パイレート ラム XO リザーブ
特徴:オレンジと蜜の鮮烈な香り・雰囲気のある装飾瓶・値段の安さ
ジム・ジョーンズの人民寺院で有名な南米・ガイアナ産のラム。中華風鐘楼門の基部みたいな瓶と蜂のマークが特徴的なプレミアムテキーラで有名なパトロン社が周辺諸国の産を含めたラムをブレンドして、世界的スピリッツ企業のバカルディ社が流通させている……らしいが日本ではアサヒビールが売ってたことがあったり横浜不老町の有限会社ウィックが輸入して売ってたりで、よくわからない。が、今のところは概ね国内での販売・流通が安定している。
このラムの一番の特徴はなんと言ってもオレンジの鮮烈な香り。蜜の香りや樽由来のバニラ香もあり、とても香ってとてもよい。味は相応に甘いがしつこくなく軽やか、樽由来のネガティブな要素(苦味・エグ味など)はほとんど無く、非常にスムース。総じて香りと味が良い。手吹きガラス風の分厚く気泡入りのどっしりとした瓶、「禅の守護聖人にして占い師とバーテンダーの守り神」と胡散臭い解説が書かれた布袋様のプレート、ネックに巻かれたオレンジの飾り布と、雰囲気のある瓶の装飾も魅力だ。これで高ければ「瓶の飾りの分を肝心の中身に還元しろよな」とでも言いたくなるが、3000円台半ば~時に3000円を切るような値段で売られているので、まあいいだろう。なお「XOリザーブ」とあるが、知る限り他のバージョンは存在しない模様。
ラム②ディプロマティコ リゼルヴァ・イクスクルーシヴァ
特徴:お菓子系の豊かな香りと深い甘さ・本格12年熟成
失政と市民弾圧とハイパーインフレでコロナ云々関係ない次元でムチャクチャなことになっているベネズエラ産のラム。製造はウニダス蒸留所というところで、ここではモラセス(※1)とモラセスハニー(※2)の2原料と、ポットスチル・バッチケトル・パテントスチルという3方式の蒸留器を使い分け、その後の樽熟成の期間の違いも含めて複数のタイプの原酒を作成し、ブレンドすることでいい感じにラムを作っているとのこと。
ラムの製法上の分類でインダストリアル・ラムとアグリコール・ラムという区分があり、モラセスから作るものをインダストリアル・ラム、モラセスではなくサトウキビの絞り汁から直接作るものをアグリコール・ラムと呼んでいる。概してアグリコール・ラムの方が風味抜群であり、もし値段が同じくらいの銘柄がインダストリアル・ラムとアグリコール・ラムとで分かれているならまずはアグリコール・ラムの方を選ぶのが正解くらいの違いがある。・・・普通はそうなのだが、このディプロマティコはモラセス製でインダルトリアル・ラム分類に当たるにもかかわらず、アグリコール・ラムと比べても遜色ない味と香りがする。企業努力の賜物であろう。
さて、香りと味だが、ラムレーズン・チョコレートのかかったオレンジピール・ベイクドチーズケーキを焼いたときに型枠の端で焦げてカリッカリになった部分・バニラアイス、そういったお菓子の幸せな香りがグッと立ち上り、味はチョコレートやキャラメル系で甘く濃く厚く、アルコールの棘は度数の割にほとんど感じない。甘党には大満足の1本だろう。また、ディプロマティコは様々なレンジの商品展開を行っているので、これが気に入れば他のボトルにも手を出してみるとよい。
(※1)モラセス………糖蜜または廃糖蜜。サトウキビの絞り汁から砂糖を精製して抜いた残渣でありラムの主要な原料。料理・製菓用の甘味料として輸入食品店等で販売されていることも。
(※2)モラセスハニー………砂糖をあまり抜かずにある程度残したモラセス、らしいが、この酒の説明以外では寡聞にして聞いたことがない。
ラム③アルカン エクストラアロマ
特徴:名前通りの爆発的香気・装飾性の高い瓶
アフリカ南東部のマダガスカル島のさらに東、2020年夏に商船三井の運行する大型貨物船が座礁して原油流出する痛ましい事故が起きたことで有名な島国・モーリシャス産のラム。現地の気候風土と特産のサトウキビ、単式蒸留器と連続式蒸留器の使い分け、そしてソレラシステム(※3)を組んでの熟成を生かした酒造りをしているところらしいが、もうこの銘柄に関してはジャパン・インポート・システム(輸入商社)がよくまあこんなの見つけて日本に持ってきたなということに尽きる。
開栓当初はカスタードクリーム・バナナ・マーマレード・バニラクリームなどの甘い菓子~果物系の香りと、挽く前のピンクペッパー・湿気てないグリーンカルダモンのようなスパイス系の香りが。しばらくすると白桃やシャインマスカットのような瑞々しいフルーツ香が漂い、アイスティーの香りもある。特筆すべきは、その香りがメチャクチャに強いこと。名前のエクストラアロマは伊達ではない。味はアルコールのアタックが程よく強く、そのせいか香りからはすると意外なほど甘さを感じない。口に含んだ時、飲み下す時でまた香りの印象が変化するのもよい。香水瓶を髣髴とさせる形状の黒瓶にゴールドとラデュ…ライトグリーンのマークも素敵だ。アルカンもいくつかバリエーションがあるので、個人的には是非飲み進めていきたいと思っている銘柄だ。
(※3)ソレラシステム………熟成期間が違う複数個の樽を一組にし、樽からの抜き取りと補充の方法を工夫することで、常に同程度の熟成期間を経た酒を得られるようにした仕組み。例えば熟成期間12年~1年と新酒(=熟成0年)の樽で組むなら、12年熟成の樽から抜き取った分の酒を11年熟成の樽から補充し、11年熟成の樽には10年熟成の樽から補充し、10年熟成の樽には9年熟成の樽から補充し…(中略)…1年熟成の樽には新酒を補充するといった具合。元々シェリー酒の熟成で使われていた技法で、同様の技法は琉球泡盛の"仕次ぎ"等、世界各地で見られる。ウイスキーやブランデーの表記慣習から見れば「厳密にはその酒は12年熟成ではないのでは」と言われるかもしれない。それはその通りで、カウントの慣習が違うとしか言いようがない。なので、ラムは23年熟成や1950年代ヴィンテージを謳っていても「ソレラの最下段が23年です」「ソレラが開始されたのが1950年代です」みたいなケースが多いので、ウイスキーやブランデーの表記に慣れているなら注意が必要。一方で先に紹介したディプロマティコ リゼルヴァ・イクスクルーシヴァはきちんと(というのが正確かはわからないが)樽単位の最低熟成年数での12年熟成をやっているらしい。
ラム④HSEサンテティエンヌ ブラン
特徴:焼きたてトーストの中心部を思わせる、幸せな香りと甘さ
かつてラフカディオ・ハーンやポール・ゴーギャンも逗留したことで知られるカリブ海に浮かぶフランス海外県、マルティニーク島産のラム。このマルティニーク島こそは「フレンチ・クレオール・ラム」製造の中心地であり、先述のアグリコール製法による贅沢かつ風味豊かなラムが、各蒸留所の手により日々作られている。サトウキビを伐採して搾ったらすぐに傷んでいくような気温・湿度の気候のため、ここでサトウキビの絞り汁をダイレクトに使うアグリコール・ラムを製造しようとするとどうしてもスピード勝負となる。となると必然的にフレッシュなサトウキビ汁を使うことになり、ラムの高品位につながると、そういうことらしい。また、このラムは先に紹介した3銘柄と異なり、ホワイト・ラムという、木樽での熟成をかけていないタイプである。(HSEサンテティエンヌ蒸留所では木樽熟成タイプも存在する。念のため。)
香り。酸味を孕んだ穀物系の甘い香りが、わずかなホコリっぽさを伴い、蒸れたような湿度感と共にやってくる。1斤とかで売ってる食パンを厚切りにしてトーストして、焼きたてのその中心みたいなのの感覚が一番近いと思う。なお、この仮想食パンはイギリスタイプのカリ!サク!バターたっぷり!みたいなやつではない。角食でバター使ってなくて詰まってるやつのそれ。もしくはピザ生地をこねて寝かせて、伸ばすためにラップ外した瞬間の香りも近い。イーストっぽさがあるというか。樽熟成を全くかけていないので舌が感じる甘みの成分は無いはずなのだが、香りの印象と喉ごしの滑らかさから、何もつけない食パンや素のおかゆといった、プレーンな穀物的甘さを感じる味わい。他の3銘柄に比べて、正直なところそこまで好き!というわけでもないのだが、安心感や幸福感があるというか、たまに思い出したように飲みたくなる銘柄だ。
以上、個人的に気に入っているラムを4銘柄紹介したが、冒頭にも書いたとおりラムは驚くほどのバリエーションがあり、一人が飲んでいると居合わせたバーの全員の頭がクラクラしてくるほどエステル臭が強いものだとか、ある種の薬品臭さとある種の臭みがスクール水着を履かせて垂らした水を吸ってる感覚を呼び起こす代物だとかのトンデモ銘柄も経験したことがある。当然、まだ見ぬ素晴らしい味と香りの銘柄も沢山あるだろうし、飲み進めるのがとても楽しい酒種だ。是非ラムを飲んで、好みの銘柄を探し当ててほしい。そしてオススメの銘柄があれば教えられる範囲で教えてもらえると助かる。では。
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