
キャラクター①東ゆうという女の一代記(『トラペジウム』アドベントカレンダー2024・全25回の3)
映画『トラペジウム』は、はっきり言ってこの主人公「東ゆう」の一代記である。
まあ一代記というには少し、いやかなり尺が足りないので(何せ本編部分は正味10ヶ月ほどしかない)、「東ゆうの駆け抜けた1年弱」というあたりが、より正確なところではあるが。
後日紹介する予定の脇を固める準主役・サブキャラクターたちも大変魅力的なのだが、この主人公「東ゆう」にどれだけハマることができるか、というのが、この映画に選ばれるかどうかを大きく左右する。
公式のキャラクターPVはこんな感じである。
東ゆう。5月13日生まれ。城州東高校1年生。15歳。アイドルになるのが夢。
メタな情報としては、東の四神、すなわち「青龍」を意識した名前を持つ。(青龍→龍→りゅう→ゆう。)
全く覚えなくても映画鑑賞には差し支えないが、これが主人公の「スペック」である。
(なお、「城州」というのはこの作品の舞台となる架空の地名で、現実では千葉県最南部、館山市〜南房総市あたりのふわっとしたエリアのこと。)
彼女の「アイドル」になることへの渇望、それが物語すべての駆動源となる。東ゆうは上掲のキャラクターPVにもあるように、「可愛い子を見るたび思うんだ。『アイドルになればいいのに』って」と言うほど、「可愛い子はアイドルになれ、むしろアイドルになるのが義務だろう」くらいの意見を持っており、同時にアイドルというものに強い強い憧れを持っている。
ここの部分、すなわち「可愛い子はアイドルになるべき」「女の子は皆アイドルになりたがっている(はず)」というものは、(各種インタビュー等を踏まえると)原作者である高山一実氏が一時期考えていた思いをかなり反映している点があるものの、原作者を全て投影した存在であるかというと、そうでもない。そのあたりの"ズレ"に、キャラクター性の妙味がある。
他のプロフィールとしては、「小学校の半ばから中学2年までの5年間、カナダにいた帰国子女で英語が得意」「ずっとクラシックバレエを習っていた」というものがある。まあ、作中でも触れられるので、これを覚えておく必要も無いが。
また、各種サイトや小説裏面の解説などでは"「SNSはやらない」「彼氏は作らない」「学校では目立たない」「東西南北の美少女を仲間にする」という4つの条件を自らに課し、高校生活を送っている。"といった紹介もある。
しかし、この"紹介"については、本当はどうなんだろうかというところがあり、手放しに「こうです!」とは言えないところがある。『トラペジウム』が雑誌連載から単行本や文庫本になる際、そして映画になっていく過程で、ウソにはならない程度に軽くなった設定も含まれるので。
映画『トラペジウム』は、ひたすら「東ゆう」にスポットが当たる映画で、彼女の(一般的に見て)好ましい部分も、そうではない部分もが、ずっとずっと映されていく。彼女の妄執に近い「アイドルになりたい」という気持ちと常軌を逸した行動力が、他のキャラクターたちを結びつけて物語を動かしていくが、それはどうなっていき、最後はどう着地するのか。この映画はそこが肝である。
肝であるが故に、「東ゆうをどう受け取るか」で好悪ははっきり分かれるかもしれない。
公開当初は「主人公=東ゆうはとんでもないサイコパスだ」といった評価があったし、それは日本だけではなく世界各国での評価を見てもそうであった。
でも、とんでもないサイコパスを好き好んで10回も20回も劇場で観る人はそうはいない。そうではないからこそ自分はめちゃくちゃ劇場に足を運んだし、こんな記事を毎日毎日書いている。
初見で「東ゆう」を好きになった人もそうではなかった人も、一度観た後は情報を拾って、ぜひ再見してほしい。そこでは「東ゆう」が全く違って見えるかもしれないから……
『トラペジウム』関連BDDVD・原作・サントラ: