「時のしずく」について語る #4
現在開催中のSeikoSeed「からくりの森」で展示してる新作「時のしずく」について語るシリーズ第四弾。この記事で最後にしようかと思います。
過去記事はこちら。
前回の記事で、本番の制作プロセスについて早口に語りきりました。最後に色々細かいことを書いていきます。
撥水という表現について
今回は、「撥水」のなかでも「超撥水」という強い撥水効果を得られる塗料を使ってます。それによって器の表面に乗る水滴はとても美しく球のようになります。
こうした超撥水と水の組み合わせはとても強い印象を持ちます。これを使っている作品は「撥水の魅力」という強い力によって美しさを勝ち得ます。でも、これって「超撥水」がすごいのであって本当に作品の力なんだろうか、と悩んでしまうことがあります。
かつての自分を振り返る
自分が20代のころは「プロジェクター」をなるべく使わないようにしていました。当時のメディアアートは「インタラクティブアート」全盛期みたいな感じで、プロジェクターを使った作品がとても多い印象がありました。今でもプロジェクターをつかった大画面の表現は多いですが、プロジェクターの場合は物に投影できますので、とにかく見た目に強いことがすぐに実現できます。
当時の自分は「プロジェクターが面白い」ということで手柄がプロジェクターにあるような作品になりはしないかと思って「プロジェクターに頼らない」ということを考えて作品を作っていました。
それを思うと「撥水」に手柄があるような作品になってはまずいという危機感を感じながら撥水を取り入れています。正直怖さもある。
新しい表現になっているのか
やはり「時のしずく」を見て別の撥水作品を連想する人は一定数おり、それを言われることもあります。なにか「新規性がない」という指摘かと思ってこちらとしてはヒヤヒヤすることが多いです。
自分が関わった過去作品でもいくつか撥水を使った作品を作っています。
KAPPESとして作ったMOMENTumが印象が強いでしょう。
他にもこちらはミュージックビデオとして仕上がった作品です。
個人的には「撥水の魅力」のみではない別の魅力も付加されて別の表現になっていると考えています。3作品とも全てです。
みなさんはどう思うでしょうか?
水と時間
すでに#1の記事でも書いてますが「時のしずく」の作品はコンセプトがとても重要です。中でも「水」というモチーフによって「時」を表現しているということにとても重要な意味があると思っています。
「時」に思いを馳せると、いろいろな話が頭に浮かびます。例えば、夜空を見ていると星がたくさん見えます。でもその星は地球から何光年も離れたところにあるものが多いです。つまり、見ている光は何年も前の光ということです。北極星は約323光年離れたところにあるということなので、つまり北極星の光は323年前の光ということになります。星は隣り合ってみえていても、それぞれの光は300年前だったり、500年前だったり、数年前だったりするわけです。バラバラの時間を見てる。
他にも「今」という言葉を考えても、声を発したときにはすでに「さっき」になってしまっていて、などの「今」という言葉の矛盾みたいな話をしたりとか。
とにかく、時間というのは流れゆくものなわけです。我々の住む世界では止められないです。
水というものを考えても特殊な存在です。くっついたり離れたりしても継ぎ目ができるわけでもなく、粘土のようなものとは違う性質です。砂とも似た側面があると思いますが、水には波があったりして動きがいろいろ含まれます。
そして「時」と同様に「流れゆく存在」。
「時間」と「水」。どちらも「流れる」という状態があり、形がはっきりせず、一部をすくって「1秒」とか「1滴」とかに分けて捉えることができます。この類似性みたいなものがあるために「時のしずく」は面白く辻褄の合うものになったのではないかと思います。
また、「時間は目に見えませんが水は目に見えます」。時間を可視化する作品において水を使うというのはとても良かったなとしみじみ感じています。
上記の動画は、以前作った波紋の作品です。波紋もとても美しいですよね。波という性質は水の特徴ですが、時についても波はあるのかないのか。などと考えちゃいますね。
人工的な美しさと制御できない美しさ
今回は整然と並ぶ水滴ということで、日頃あまりみない静止した水滴を一定の間隔で並べています。
この人工的な整然とした状態は、おこがましくも人間は美しいと感じます。庭木もきれいに刈り揃えたあとは「美しい」と感じると思います。
一方で、混沌と揃わない自然の状態も美しいと感じます。
時のしずくの場合は「溢れ出る水」や「お堀の水の波」がそれにあたると思います。自然によって作られた形状といいますか、コントロールできない領域の美しさです。
水を見て「美しい」と感じるのは一体どこなんでしょうね。自分はどちらの美しさにも惹かれます。それは西洋東洋とかの違いがあるのか、世界中共通なのか。
作った我々としての感想
とにかく「いい作品に仕上がった」とうれしさいっぱいです。最後の本番制作は時間が少なくなったなか駆け抜けるように作りましたが、それなりに細かいところにもこだわり、いいものになりました。ほぼほぼやり切れました。
ぜひとも多くの人に見てもらいたいです。映像でも伝わることはあると思いますが、やはり実物を見てもらいたい。12月24日までは確実に展示されています。良いコンディションを維持できるようにメンテナンスもそれなりの頻度で行っています。
ぜひとも実物を見てもらいたいです!