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コングのグルメ〜第9話〜

年が明け。


KONGは倉庫で機材の整理をしていた。



整理と行っても、すぐに取り出せるように"よく使う物を手前に出し、あまり出番がない物を奥側に置く。"といった単純な作業である。



家の掃除と同じように、ふとした瞬間に目に飛び込む物を手に取っては作業が止まる。



『コレ!よく使っていたなぁ』


『なんで使わなくなったんだ?』

と、首を傾げながら"小さいパーツの欠落""錆びて硬くなってしまった部分"を発見する。



こうして溜まったパーツ達を集めてみると


『…お?』



少し部品を組み換えてしまえば別のアイテムとして再び命を吹き返す事に気付き得した気分になる。



「よし。」




幸い今日は時間がある。


KONGは機材の消耗品や必要なパーツをメモして、大好きな街"秋葉原"の楽器屋さんに向かうのだった。


電車に揺られて到着した秋葉原。


電気街口とは反対の出口を出て、馴染みのある楽器屋さんで店員さんと相談をしながらパーツを購入。


必要な消耗品を"サクッ"と集めて店を出る。


楽器屋に行くと新しい機材が欲しくなってしまうので、必要な物だけを買ったら直ぐに立ち去るようにする。


滞在時間はおよそ15分。


スマートな買い物。


無駄な時間を使わない。


そのまま駅に向かい、早々と家に戻り、機材の修復をして倉庫整理を本日中に終わらせる。



これぞエレガント。



と、


思っていたが、KONGではない『裕一郎』のオタク心は止まらない。


『オイラせっかく秋葉原に来たんだお!
電気街に行かにばぁ!!』


ヒラリヒラリと人の隙間をすり抜けて…


気付けば電気街口に仁王立ちしているKONG。


本来の目的を忘れてしまう程の高揚感に頭の中はお花畑状態である。


Notエレガント。

ゲームセンター。

フィギュアショップ。

カードショップ。

そして、至る所にある飲食店。

この街もまた、

KONGの心をくすぐる街なのだ。


一通り"秋葉原"を散策した後、徐々に冷静さを取り戻したKONGは、心が満たされた代わりに腹が減りケバブ屋さんの前で足が止まる。


「腹が減った…」


早く家に帰って機材整理の続きをする使命があると理解していても、海外の人も多いからなのか、路上で食べている人を多く見かけ、空腹になったKONGにトドメを刺してくる秋葉原。



「ここは…我慢だ。」



ケバブなんて食べた時には、コンビニへ向かって"プシュッ"としてしまう。


"プシュッ"としようもんなら、KONGは野生の姿に戻ってしまい、コンクリートジャングルを彷徨うアニマルゾンビor浅瀬のワカメのようにフラフラしてしまう。



その状態は避けねばならない。


本日の目的を遂行させる意思を強く、雪道を歩くように一歩一歩力強く駅まで向かう。



「俺は…十分楽しんだ。」




しかし、KONGの意思を揺さぶるように美味しそうな匂いや飲食店のメニューはKONGに襲い掛かる。


「我慢だ…。」



カレー屋さんの前を通りすぎる。



「我慢だ…。」



ラーメン屋さんの前を通りすぎる。



「我慢だ…。」



コンビニの近くでチキンを咥えながら歩く人を見かける。


「むむ。」


この街は追跡ミサイルまで搭載していた。



「少しなら…いやダメだ…」



ここは危険すぎる。


己に負けそうになってしまったので、メイン通りから外れ、店が少ない道を歩く。


が、


コンビニは至る所にあり、再びチキンを食べながら歩いている人と遭遇。



「ここは…


『チュンチュンワールド』なのか?…」



もはや口の中がチキンになってしまっている。



「…我慢だ……。」



だが…



ついに頭の中が真っ白になってしまい…。


KONGは、
気付けば『砂肝』の入ったビニール袋と、『肉のハナマサ』のレシートを握りしめていた…。



不思議とその後は、
翼が生えたように家までの足取りが軽くなっていたが、KONGは気付かぬ間に『チュンチュンワールド』に吸い込まれてしまっていたのだった。


家に帰るや否や、食材を置き、風呂を沸かし、調理にとりかかる。


【砂肝の唐揚げだ。】


『ニンニク』『しょうが』『醤油』『鶏ガラ』を切った砂肝に漬け込む。


購入した半分は冷凍庫に入れて保存しようと冷凍庫を開けたら、鶏のムネ肉から剥がした鶏皮が目につく。


「これも焼いちまおう」



なんせ今日は『チュンチュンワールド』なのだから。



「ん?チュンチュンワールド?」

(なんだそれは…)


漬け込んでいる数十分間で風呂も済ませ、いよいよ調理開始。



鶏皮に『ケイジャン風スパイス』を振りかけて焼きながら、砂肝の唐揚げも作る。

(ジュジュジュジュワ…ジュジュー)

一足先に完成した【鶏皮】を皿に盛る。


「こーゆーのがいいんだよ。」


(プシュッ)


熱々を食べながら調理を進める。

「それにしても…うまいな…」


空腹は最高のスパイス。


ケイジャンスパイスもビックリだ。


そして、鶏皮が無くなってしまう間際にコチラもドン!



……鯨の唐揚げ。


いや、


砂肝の唐揚げだ。


このコリコリ感が最高だ。


アルコールも入り、太陽に向かって飛んでしまいそうな気持ちになる。


「今日も一日、お疲れ様だ。」


ん?


何か忘れている。


KONGは何故"秋葉原"にいたのだ?


………。


…。


どうやら…。



脳ミソまで鶏になっていたらしい。



恐るべしチュンチュンワールド



ありがとうチュンチュンワールド


それでは!


また!

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