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病は気から?医師の一言で急に元気になった話

今日の午後、わたしは救急クリニックの診察室にいた。

先週、急に熱が出て、そこから喉の痛みが続いていた。もう熱はとっくに下がり、喉の痛みも当初の半分くらいになっている。

普段なら、自然に治ってきているのにわざわざクリニックに行ったりしない。医療費がバカ高いアメリカでは、できるだけ自分でなんとかするのが鉄則だ。自分の症状を、信頼できる情報に照らしながら、市販の薬を使って治すのである。(人によります。)

それなのにわざわざクリニックに出向いたのにはわけがある。わたしがいま罹っているのが、単なる風邪ではなく、溶連菌咽頭炎(strep throat)に違いないと確信していたからである。

実は、昨年もこれに罹って、ひどい喉の痛みに何日も苦しんだ。今回の症状もあのときと酷似している。鼻水や鼻づまりといった症状は全くなく、完全に喉の狙い撃ちなのである。

これはゼッタイに溶連菌だ。

この咽頭炎は、放っておいても大抵は自然に治る。ただ、調べてみると、合併症を引き起こす可能性があるらしい。腎臓炎やリウマチ熱なんて例が挙がっていてぎょっとした。それに、症状がなくなってからも、数週間にわたって菌を放出するので、周囲に感染させるリスクが残る。

家族で溶連菌リレーは避けたい。もしかしたら、次のバトンはもうつないでしまっているのかもしれないが、今からでも減らせるリスクは減らしたい。それに、これから何週間にもわたって、他者への感染リスクを常に心配しながら過ごさなければならないのもストレスだ。

医師に診てもらうと、抗生物質を処方される。服用してから24時間から48時間で、周囲の人に感染させるリスクがぐっと低くなる。

抗生物質だ。抗生物質をもらいにいこう。

そういうわけで向かったクリニック。症状を聞かれて、いついつ熱が出て、いまは喉の痛みが軽減してきているものの、まだ残っていることを説明した。

「溶連菌咽頭炎だと思うんですよね」

まだ検査も診断もされていないのに、きっぱりと言い切るわたし。それを聞いて、看護師さんが、

「では、まず検査してみましょう」

といって、検査キットを持ってきた。喉の奥を長めの綿棒で優しくなでられて、思わずオエッとなりそうになった。寸でのところでそれをこらえた。

10分くらい待つと、検査結果を携えて、医師が診察室に入ってきた。

「溶連菌咽頭炎の検査は陰性でしたよ」

医師はさらりと告げて、マスクの下でにこりと笑った。

わたしは思わず、きょとんとしてしまった。てっきり、結果は陽性で、抗生物質を処方されて、症状がなくなっても全部のみ切ってくださいね、と言われる会話を想定していたから。そのためにここへ来たのだから。

見るからに状況が呑み込めていない顔をしていたのだろう。医師がもう一度繰り返した。

「陰性でしたよ。ただのウイルス性の風邪ですね」

わたしは、すっかり拍子抜けしてしまった。「本当に?」としか言えなかった。

めっちゃ喉痛かったけど?唾を飲み込むたびに顔をしかめていたし、夜も寝づらいほどだったけど?昨晩は体がだるくてすぐに眠りこけてしまったし、今朝だって頭が痛かったけど?

頭の中が軽く混乱している間にも、医師は、ゴム手袋をはめた手で、テキパキと作業をこなしていく。わたしの口の中を覗いて、首のリンパのあたりを触診して、心音を確認した。そして、しゃしゃっとゴム手袋を外してゴミ箱にさっと捨てた。

「特に問題なし。もう自然に治ってきているみたいですし、そのうち良くなりますよ」

さっき入ってきたのに、もう出ていく準備をしている。ちょっと待って、いくつか質問させて。

「お薬の処方はナシですか?」

「必要ないです」

「マスクはいつ頃までした方がいいですか?家族に感染させたくないんですけど」

「もう熱がないなら、マスクはしなくても大丈夫。子どもたちは学校でいつも菌にさらされているから、あなたがマスクしてもしなくても、感染するときは感染しますよ」

医師は、わたしのそばに座っている子どもたちに目をやりながらそう言って、あははと笑った。変な同情がなくて、気持ちいいくらいスカッとした人である。

これで、診察はおしまい。

クリニックのドアを開けると、一気に冷たい外気が押し寄せてきた。すうっと深く息を吸い込んでから、ふうっと吐き出した。

なんだ、ただの風邪だったのか。

そう言われたら、そんな気がしないでもない。心なしか、さっきより体が軽い気がする。それに、喉の痛みもほとんどなくなっている。マスクもしなくていいって言われたなと思って、マスクをはぎ取った。

急に健康体が戻ってきた。わたし、もうすっかり元気やん。

具合が悪いのは、思い込みのせいだったらしい。「病は気から」とはよくいったものである。

(おしまい)


読んでくださってありがとうございます。
溶連菌咽頭炎(strep throat)についての説明は、こちらのウェブサイトを参照しました。

Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/strep-throat/symptoms-causes/syc-20350338

Johns Hopkins Medicine
https://www.hopkinsmedicine.org/health/conditions-and-diseases/strep-throat

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