わたしの記憶の中にそびえたつケーキ
病み上がりなんだけど、さっきから無性にケーキが食べたい。
骨まで溶かしそうなアメリカのねっとり甘いケーキなら、冷凍庫に眠っている。でも、わたしが食べたいのはそれじゃなくて、日本のケーキ屋さんのケーキだ。
いま、どこでもドアがあるなら、とりあえずどこかのデパ地下へ行き、ケーキ屋さんへ走る。色とりどりのカットケーキを、ショーウィンドウから、「これと…これと…、」と大人買いしたい。
たまに来る、この日本のケーキが恋しくなる衝動。
日本に住む皆さんの中には、もしかしたらお気づきじゃない人がいるかもしれないので、この機会に一言言わせてほしい。
日本のケーキは本当にレベルが高い。
甘さ加減も、クリームの重すぎない食感も、さまざまな味のバリエーションも、どこを切り取っても日本のケーキは質が高い。海外生活が長くなってきたけれど、「ケーキを食べるなら、断然日本のが美味しい」という結論は覆されたためしがない。
特に、いま頭に浮かんでいるのは、GIOTTO(ジョトォ)のモンブラン。東京に住んでいた頃、よくデパ地下で買った。
このケーキは、なんといってもそのそびえたつ高さ。モンブランクリームでコーティングされた「山」の中には、何種類ものクリームの層があって、折り重なる至福の時間が味わえる。
もちろん、ケーキだから甘いんだけど、甘すぎないところがいい。モンブランクリームは味が濃厚で、一口含んだだけで、口の中が一瞬にして栗色になる。そこに、生クリームが追いかけるように入ってきて、ぶしゅっととろける。そこへ、今度は栗が割りこんでくる。コリっとした食感と栗そのものの味で、口の中は複雑さと深みを増していく。
栗と生クリームとモンブランクリーム。もうこれだけでも十分なくらいだけど、さらにカスタードクリームが追い打ちをかける。
ケーキのくせに、食べる者のとどめを刺しにきている。
あのクオリティと満足感は、アメリカのケーキじゃ味わえない。ああ、いますぐ食べたい……と、よだれが垂れないように口をぎゅっと閉じたまま、「GIOTTO、モンブラン」と検索した。すると、GIOTTOが閉店したという記事があちこちに溢れていた。
衝撃。あんなに美味しいケーキ屋さんがなぜ閉店?わたしが日本を離れている間にいったい何が?
ただ、一次情報が見つからなくて、全店が閉店になったのか、部分的に閉店になったのかがよくわからないでいる。
いずれにしても、わたしの記憶の中でそびえたつケーキは、GIOTTOのモンブラン以外にない。いや、あるかもしれないけど、いまはこれが食べたい。
(おしまい)
読んでくださってありがとうございます。
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