子どもにビジネスのイロハを授けたら、息子が学校で起業した話
最初に断っておくと、わたしはビジネス初心者です。
新卒以来働いていたのは政府機関。ビジネスとは縁遠い世界で生きてきました。
そんなわたしが、少し前に、子どもたち(7歳、5歳)にビジネスについて話をしたことがありました。
どうしてそんな話をしたかというと、我が家の子どもたちは、パパとママがOKさえすれば、ほしいものは無限に手に入ると思っている節があって。それが気になったのです。
アメリカでは、ほぼキャッシュレスで買い物をするので、子どもたちは、お金のやりとりを目にする機会がほとんどありません。スーパーやレストランでは、カードを出せばそれで終わりだし、アマゾンでポチればモノが自宅に届きます。
モノやサービスには対価が伴うこと、お金は使えばなくなることを実感してほしかったのです。
そして、お金をどうやって作るかというくだりで、ビジネスとは何ぞやという話をしたわけです。わたしは、いまやっているピアノ教室を例にとって話しました。
初心者によるビジネス講座を、ふーんと聞いていた子どもたち。
どこまで響いたかはわかりません。とにかく、人を喜ばせることを考えてみる、というところだけは心に残ったかもしれません。息子は、その後、私と夫のために、朝食時にコーヒーを淹れるというサービスを作って、何ドルか稼ぎました。
そうこうしているある日。学校から帰ってきた息子が、目をキラキラさせながらこんな話を始めました。
「僕、学校で武器をたくさん作ってるんだ。」
安心してください。紙で作った武器です。
息子は、もう何か月も武器づくりに勤しんでいます。
始まりは折り紙でした。息子は折り紙にハマり、毎日学校から帰ってきては、わたしと一緒に折り紙をしました。息子に折り紙の師と仰がれていたわたしは、息子の熱心さと上達ぶりを讃え、「折り紙マスター」の称号を授けたくらいです。
『たのしい折り紙』という子供向けの本では、すぐに物足りなくなりました。そこで、わたしは息子のために、YouTubeでもっと複雑な折り紙の作り方を検索しました。当時好きだったポケモンのキャラクターを、何枚もの折り紙を組み合わせて作ったり、キッチン用品や食べ物のミニチュアを作って台所を再現してみたり。
動画を探すうちに、忍者の武器シリーズを見つけました。折り紙で、手裏剣や短刀を作るというもの。これに興味を示した息子は、どんどん自分で作っていきました。作る過程だけでなく、出来上がった武器で遊べるという、二度おいしいところが良かったようです。
忍者を一通りやった後は、サムライの剣。その頃には、折り紙を越えて、工作の域に入っていきました。出来上がった剣を持って遊ぶには、折り紙だと小さすぎたのです。
長剣、短剣、少し湾曲した剣。毎日我が家で剣が量産されていきました。最初はコピー用紙で作っていましたが、次第に固めの画用紙や工作用の棒などを組み合わせ、強度を増し、より実戦的なものへシフトしていきます。
さらに、古今東西の武器へと広がりを見せました。図書館で借りてきた世界の武器の図鑑をたよりにアイデアを膨らませ、中国武術のヌンチャク、バイキングの斧、古代ローマの剣や兜へとレパートリーを増やしていきました。
我が子ながら、なかなかの没頭ぶりです。朝早く起きて、一人で黙々と作っていたりします。休日になれば、工作の材料の買い出しへ行こうとせがんできます。好きこそものの上手なれとはよくいったもので、息子の腕はどんどん上がり、もはや小さな職人となりました。
さて、話は戻り、学校で武器を作り始めたという息子。
「僕が剣を作ったら、ほしいっていう子が何人かいたから作ってあげたんだ。そうしたら、それを見て、ほしいっていう人がもっと出てきたの。」
おおう、すごいやん。ブームを巻き起こしているのね。
「一人で作るのが大変だから、マイケルをアシスタントにしたんだ。それから、ローガンは注文を取ってくる係。」
なんと、息子は、アシスタントと営業を雇って、小さな会社を始めていました。さすがにお金やモノを対価としてもらうことまではやっていないようだけど、息子はクラスのお友達に「新しい価値」を提供しているようでした。これはもはや、立派なビジネス。
やるやん、息子。自分がイイと思うものを作りまくって、それが誰かの共感を呼んで、人を巻き込みながらもっともっと作って広めている。旋風を起こしている。めっちゃいいよ。
剣ビジネスは、その後も順調に顧客を増やし、違うクラスからも注文がくるようになりました。息子とマイケルとローガンは、チームワークを発揮して注文に対応し続けました。
ところが、どんな順調に見えるビジネスも、いつか必ず困難に直面します。
ある日、クラスの中から、「アイツら、紙使い過ぎ」とクレームが入りました。紙は、教室の備品として置いてあるコピー用紙を使っていて、息子たちがすごい勢いで剣づくりに使っていたようです。
これを受けて、先生が動きました。剣づくりに使える紙の量に制限が課されたのです。息子の会社は、材料調達のピンチを迎えます。
さらに追い打ちがのしかかります。子どもたちが、息子たちの作った剣で遊んでいる最中に、剣先が誰かの顔に当たってしまう場面があったとか。紙製なので、当たってもふにゃっとなって怪我には至らなかったものの、目に当たると危ないということで、剣遊びは禁止されてしまいました。
安全性を考慮した法規制。実際のビジネスにもありますよね。
せっかく軌道に乗っていたビジネスが業務停止となり、残念そうに表情を曇らせながら、ことの顛末を話す息子。まあ、仕方ないか。先生の立場だったら、そうせざるを得ないとわたしも思いました。
ところが、この話には続きがあります。数日後、学校から帰ってくるなり、息子が興奮気味にこう言いました。
「もう剣は作れないから、兜を作ることにしたんだ。」
息子は諦めていませんでした。剣がだめなら、と今度は兜や盾を作り始めたのです。
古代ギリシャのヘルメット、日本のサムライの兜、なんでもござれ。レパートリーの範疇です。これまた、なかなかの完成度なので、既存の顧客に新製品として好意的に受け入れられたようです。
ちなみに、材料の紙については、先生に頼んで、廃品に回される古い紙を使うことにしたとか。先生が提案してくれたのかもしれませんが、材料調達の問題は解決されていました。
いまなお、YouTubeで一人修行を積み重ねる息子の腕前は、他の追随を許しません。わたしは、隠れたパトロンとして、息子のビジネスを全面的にバックアップしています。
息子はいま、一生使える大事なスキルを実地経験を通して学んでいるように思うからです。
わたしには、息子が未来のスティーブ・ジョブズにしか見えない。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
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